表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/41

冒険に出てそうそう、冒険らしからぬ状況

 「どこに行くんです?」

アトは思い切って歩いている時兵に話しかけた。

「…それは言えん。」

兵は一瞬苦い顔をしてすぐに冷静にそう言った。

アトはその表情に眉をしかめると前を見てそのまま歩いた。

 牢は屋敷の地下にあったが、4人はそのさらに廊下の奥の地下へ連れて行かれた。

その道は坂道で階段ではなかった。

しかし、意外にも広く歩くのに支障はなかった。

その坂をしばらく歩くとさらに広い空間に出た。

それは地下水路のようなものらしく中央に水が流れており、その脇にずっと先まで道が続いていた。

さらにその水路には出てきた坂のすぐ近くに小船が3隻ほど用意されてつながれていた。

そこで4人は2隻の船にピコとアト、グルーチョとメガで分けて乗せられ、その水路を緩やかに流れる方向に進んだ。

そして途中で水路を左に曲がり右に曲がりそしてまた左へ右へと幾度も曲がって進んだ。

途中から道は一本道になって水路は狭まりほとんどまっすぐに進んだ。

水路は長い道を経てやがて先に光が差し込んでくる穴が見えそこに向かって行く。


―ガァー!!


そこを抜けた途端何かが目の前を飛び去りながら奇怪な泣き声を発した。

「び…っくりした。」

ピコは驚いて冷や汗を流していた。

 目の前には森が広がっておりうっそうとしていた。その水のあるあたりだけ光が差し込んでいる。

どうやらそこはどこかの森の小さな泉のようだった。

泉には光が差し込み水底までよく見えるほど透き通っている。

底からは湧き水がコポコポと湧いていて砂利を巻き上げているのが見えた。

 「オソイゾ!!」

その声は突然かけられ、その泉の脇の木陰から何かが出てきた。

頭がつるつるで牙が生え肌は褐色の人間ではない生き物だった。

人数は二人、というか二匹。

背丈は若干大人の男より大きそうで目つきは凶暴そうだ。

言葉は片言といったところか。

「すみません。でも、今回は若いのがいますので…。」

そう言ったのは船に乗っていた兵だった。

なにやらその生き物にかしこまった口調で話しかけている。

兵たちは舟をそのすぐ近くに止めて、4人を下ろした

「では、失礼します。」

そう言って兵たちは4人をそこに放置して舟に乗ってそそくさと去っていった。

「え!?…え?…えぇ!!?」

ピコはその状況にパニックになって叫んだ。

そのよくわからない生き物が赤い瞳で4人を見下ろしていた。

「イイニオイダ…シオレタノモイルガ、マァマァダナ…」

一人(?)の生き物がジロジロと見つめてきてニヤリと笑いながら言った。

ピコはもう泣きそうな顔でそれらを見ていた。

アトはあまり表情を変えることなくその生き物を見ている。

グルーチョはというとピコの後ろでぼけーっと泉を眺めて幸せそうな顔をしていた。

「…ン…コイツハナンダ?…ニンゲンジャナイ…。」

もう一人がメガに近づいてあたりをクンクンと匂いをかぎまわって言った。

メガは人間と魔物の相の子だから当たり前だった。

 その生き物は手を伸ばしメガの肩まで下ろされている銀色の横髪を長い爪で掻き分けた。

その間メガは身動きをあまりせず、冷静にそれを見ていた。

「オイ!ダマサレタ!ナカマヲツレテキヤガッタ!!」

そいつは髪をさらに上げてその奥に隠れていた長い耳をもう一人に見せた。

「ナ!?…オマエ、スマナカッタナ。…アイツラタダジャオカネェ!!!!」

なにやらその二人は興奮している様子だった。

しかし、メガに優しい言葉を掛けると背後に回り手錠を持っていた鍵ではずした。

「あ…」

メガはその時初めて表情を変えてあっけに取られていた。

そしてメガがぼうっとしている間に二人はピコとアトの首に何かを巻こうとした。

どうやら首輪のようだ。

「ちょ!!」

アトは後ずさりをして退いたがそいつの力は半端なくすぐに引き戻されてしまった。

ピコの方はガタガタ震えて青ざめていた。

それを見たメガはやっと状況を判断した。

「お!おい。彼女達をどうするんだ!」

メガは一人の肩を掴み言い放った。

「ドウスルッテ…シテンノウサマタチノメシニスルノサ!」

そいつはそれが当たり前のように言った。

「…な…」

びっくりしたメガは一瞬そのまま固まった。

「タイヘンナオモイシナイデニンゲンガカンタンニテニイレラレルンダ、ソレニコシタコトハネェヨナ。」

ピコの首に首輪をまいた奴の方がブツブツともう一人に言った。

「アァ…オレラハマダマダダケドモウスグダモンナ…。」

「モウスグ、モウスグ」

そいつらは気味の悪い顔で笑って何やら言っていた。


「冗談じゃねぇ!!」


―ダダダ!!…ドン!…ズシャー!


突然豪快な音がしたと思うと、メガがピコの前にいた生き物を飛び蹴りで吹っ飛ばした。

その勢いでそいつは川べりの小石の上を10メートル向こうまで滑った。

とび蹴りを食らわせたメガの方は着地するとすぐにもう一人の方へ向いた。

「オマエ、ナニスンジャ!」

そいつはびっくりしていた。


「私にこのようなものを付けるとは許せませんわ!!


―キュイーン…ズドーン!!!!


それは顔を真っ赤にし、怒り狂った表情のアトだった。

なにやら魔法を使ったらしい。

アトの目の前にいたそれは森の奥のほうへ吹っ飛ばされ4人のところからは姿が確認できないほどだった。

アトは怒りが収まらないまま両手でその金属性の首輪を持つと何やら魔力と力を込めて引きちぎった。

首輪はかなり頑丈そうだったはずなのだが…。

「ピコさん、はずして差し上げますわ。」

顔を真っ赤にしたままのアトがプンプンしながらピコの首輪にも同じようにした。

グルーチョはまだ首輪をつけられていなく、ボーっと吹っ飛ばされた生き物の方を見ていた。

「すごいのー…キレイじゃったのー。」

グルーチョは間延びした声でニコニコしながら呟いた。

その瞬間アトの真っ赤だった顔が即座に青く変った。

「…本当にこのお爺さんが勇者なのかしら…。」

アトはポツリと呟いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ