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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
9章・前線へ
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8,水に

 トマリが拠点に戻ると、その雰囲気はやたらと明るかった。

 面倒な領主が帰って、皆上機嫌なようだ。

 どんだけ人望ないんだよ、と思わないでもないが、関係ない事なので無視してアオイの元に向かう。


「戻ったぞ」

「おかえりー」

「穴は?」

「開いてなかった」

「そうか」


 短く言葉を交わして、作り終わっている薬を運ぶ。

 手当てに勤しんでいるコガネに薬を渡すと、引き換えに汚れた包帯を渡された。

 洗ってこい、という事らしい。


「おい、人使いが荒いぞ」

「働け暇人」


 言ってもどうにもならないらしい。

 仕方ないので包帯を受け取ってテントの外に出る。

 包帯を洗って粗方汚れを落とし、用意されている鍋の中に入れて煮立てて消毒する。


 他に用事を頼まれなかったので、コガネに雑用を押し付けられて一日が終わる。

 まあ別にいいか、と思考を放棄して夕食を貰いにサクラのいる厨房テントへ向かうと、ちょうどサクラが居て忙しそうに動いていた。


 あまりに忙しそうなので声は掛けずに食事だけ受け取り、コガネに渡して一旦休憩を取る。

 闇に半分沈みながら夕食を頬張り、フッと息を吐いた。

 このまま、少しサボろう。そう決めて闇に沈み、トマリはゆっくりと目を瞑った。



 夕食時のバタバタを終えて、帰ってきた食器を洗いながら、サクラはモエギと連絡を取っていた。

 ピイピイチュンチュン連絡を取る様子を、他の者たちは微笑ましそうに見ている。

 最初に何をしているのかと聞かれて、兄に無事だと報告しているのだ、と言ってから、周りはその時間を邪魔しないようにあまり大きな音を立てずにいてくれる。


 大丈夫だ、おやすみ、と締めくくって連絡を終え、サクラは手元の食器を拭ききった。

 厨房を纏めている女性の元へ持っていくと、今日の仕事はこれで終わりでいいと言われる。


「はーい。おやすみなさーい」

「おやすみー。……サクラちゃん、人じゃないのよね?」

「うん。鳥だよ」

「そうよね、連絡の取り方が人じゃないものね……」

「急にどうしたの?何かあった?」

「こうしてお手伝いしてくれてると、人にしか見えないんですもの。ごめんなさいね、急に」


 この女性は、悪い人ではない。

 本当に、ふと不思議に思っただけだろう。

 サクラの直感がそう告げているので、サクラはそれ以上勘繰るのをやめた。


 アオイはまた薬作りで夜を明かしそうである。

 寝るときに一人なのは寂しいが、我が儘も言ってられない。

 簡易的なベッドに潜り込み、サクラは目を閉じた。


 目が覚めたのは日が昇った頃。

 アオイがテントに戻ってきた様子はなく、ならそろそろ運ばれてくるな、と予想をした。

 顔を見ておきたかったのでテントを出ずにその場でグッと伸びをして、軽く動いて目を覚ます。


 持ってきていた着替えを出して着替えていると、アオイの気配を感じた。

 ただ、近くにいる気配ではない。

 緊急時に、コガネを通して連絡を送ってくる気配だ。


 サクラは、着替えが終わっていないのも気にせずにテントを飛び出した。

 なにも着ていないわけではなく、上だけ着替えた姿なので、モエギも文句は言わないだろう。

 そんなことに頭を回したのも一瞬。中央のテントに入り、驚いたようにこちらを見てくるカイヤを無視して置かれている魔道具に手を伸ばす。


 使い方は、初めに教わった。

 魔道具に魔力を込めて起動させ、魔力の乗った声を出す。

 大きく息を吸い込んで、サクラは魔道具に向かって叫んだ。


「水に、触れるな!」


 その声は拠点内のすべての場所に響き、皆が1度動きを止めた。


「さ、サクラさん。どうしたんですか?」

「主が、触るなって」

「そうですか、確認しないと……」


 寝起きだったのだろうに、カイヤはすぐに動き始めた。

 その後ろについて行き、サクラもアオイの元に向かう。


「主ー!」

「サクラ、ありがとうね」

「何があったんですか?」

「水に、毒が混ざっています」


 アオイはそう言って、川を指さす。

 見た目は、昨日と変わりない。

 それでも、アオイが言うのだからそうなのだろう。


 思いつつ川に近寄り、手は付けずにじっと眺める。

 人なら、分からないであろう。だが、サクラは人ではなく、ついでにちょっと魔法も使えた。

 だから、分かる。何か、川に混ざっている。


「上流から?」

「うん。混ざりこんでるみたい」

「何が、ですか?」

「魔物の毒、ですかね。複数種類混ざっているので、何の毒、とは言及しにくくて」

「そう、ですか。どうすれば……」


 拠点内の水は、この川から取っていた。

 川の水が使えないとなると、水の入手が出来なくなる。

 水が手に入らないのは、生活が出来ないのと同義だ。


「ひとまずは、これを使ってください」


 頭をかかえたカイヤに、アオイは小さな袋を渡した。

 中身は、有色透明な石。それが何個か入っている。


「これは……浄化石、ですか?」

「はい。鍋一つ分なら、それ1個を入れて煮立てれば使える水になります。面倒ですが、しばらくはそれで」

「分かりました、ありがとうございます」

「あ、水を汲むときも、素手では触れないようにしてください」

「はい」


 返事をして、カイヤは駆け足で去って行った。

 拠点内でナベを使うところに配って、説明をするのだろう。

 大変そうだぁ、と呟いたアオイを、サクラは心配そうに覗き込む。


「主は大丈夫?」

「うん、ただの寝不足だから」

「主、仮眠取るか」

「取るー」


 そうはいったが、これから忙しくなるだろう。

 どれだけ寝させられるか、コガネとサクラは頭の中で計算を始めた。

水に触れるなぁぁ!がやりたかっただけ()

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