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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
9章・前線へ
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5,邪魔な人

 薬を作る用のテントが建った、という報告は、アオイが思っていたよりだいぶ早く来た。

 ついでにカイヤを捕まえてサクラのお仕事の話をすると、厨房の人数が足りていないと言われる。

 普段から準備は手伝っているので、ここならちょうどいいだろう。


 サクラを預けに行くついでに、と中央のテントに案内された。

 作戦会議等に使うらしいこのテントには、拠点全体に声を届かせる魔道具が置いてあるらしい。

 何かあった時用に、とサクラが使い方を教わり、一度放送をかけて拠点内の人にサクラの声を覚えてもらう。


 前線拠点に相応しくないような少女の声だ。記憶には残るだろう。

 その後はサクラを厨房に預け(本当に人数が足りていなかったらしくとても有難がられた)薬製作用のテントを見に行くことになった。


 テントは広さ的にも問題なく、トマリを呼んで運んでもらった道具を配置する。

 配置が終わったテント内を見てカイヤに狭かったか、と聞かれたが、それくらいで丁度いい。


「広すぎると、作業に時間がかかるんです」

「なるほど」


 その意味でも、テントはちょうどいい大きさだった。

 もう日は落ちていたが、ポーションの在庫はほとんどなかったので急いで作る。

 出来たものを大瓶に入れて運び込むと、手当していた者たちの表情がパッと明るくなった。


「わあ、ありがとうございます!」

「いえいえ、これをやりに来てますから」

「主、毒消しと化膿止めも欲しい」

「分かった、すぐ作る」


 コガネに手当てを任せているので、こちらは大丈夫なはずだ。

 何かあったらコガネにも薬作りを手伝ってもらうが、今はまだ大丈夫。

 まずは毒消し、と決めて作業に取り掛かる。


 夜は更けているが、仕方ない。

 怪我人に待てと言うわけにはいかず、ついでに言うとアオイは一度寝始めなければそこそこ継続して動ける人種である。

 その代わり、1回寝たら中々起きないが。


 夜通し作業して、足りなくなっていた物を作り終えた頃には日が昇り始めていた。

 残り少ない在庫で次の補給まで耐えなければいけないと思っていた医務の6人からは盛大に感謝され、手当の方法を教えていたらしいコガネは先生と呼ばれていた。


「流石に、呼ばれ慣れない」

「あはは、だろうねぇ……」


 ぼやくコガネに相槌を打っていたアオイだが、久しぶりの徹夜はこたえたようで、コガネの肩に寄りかかったまま寝息を立て始めた。

 コガネはそれに気付いてアオイを抱え、テントに用意された寝床に運ぶ。


「あれ、先生。どうかされましたか?」

「少し外す。何かあったら呼んでくれ」

「はーい」


 医務の一人に声をかけられたので、それだけ言ってテントに向かった。

 テントに向かう途中にサクラとすれ違い、アオイの分の食事をとっておいてくれ、と頼む。

 サクラは保存の利くものを置いておく、と言って忙しそうに走って行った。


「うああ……」

「寝てていいぞ。何かあったら起こす」

「あと5分……」

「ああ、3時間は寝てていい」


 アオイの寝言と会話しつつ、厨房から医務班の分の食事を受け取る。

 手当を続けなければいけない者もいるので、近場で順番に食べた方がいい。

 そう思って、トレイに乗せた食事を運んでいくと、医務班からはとても感謝された。

 厨房の者が気が利く時はいいが、そうでない時は食べ損ねることがあったらしい。


「……扱いが雑じゃないか?」

「仕方ないですよ。誰もこんな大規模な戦争したことないですから」

「そうそう。何をしたらいいのか、正解が分からない中でやらなちゃいけない。だから、自分の仕事にしか頭が回らなくても仕方ない」

「内部崩壊はしてないんだな」

「カイヤさんが気を回してくれているんです。あの人、軍師の補佐らしいですけど、すごい優秀ですよね」


 そんな会話をしながらも食事は手早く終わらせて、他の者にも食べさせる。

 食器を返しに行かないと、と一人が動きかけたが、コガネはそれを制止して木の陰に声をかけた。


「トマリ」

「何だ」

「運んどいてくれ」

「おー」


 アオイが最初に、雑用を頼んでいいと言っていた。なので、今回コガネはトマリをこき使うつもりでいた。

 他に仕事があるようなら頼まないが、今のところ本当に雑用しかしていないようである。


 その後しばらく手当てに集中していたが、物音がしたので入口に目を向けた。

 そこには眠たげに目を擦るアオイが立っていて、何か足りなくなっていないか、と聞いてくる。


「出来れば、ハイポーションが欲しい。……主、置いてあった食事は?」

「食べたよー。食器も返してきた」

「よし」

「ハイポーションだけでいい?」

「とりあえずは、そうだな」

「分かったー」


 アオイがテントを出ようとしたところで、外が何やら騒がしくなる。

 襲撃、というわけではなさそうだ。

 気になったので、手当は任せてアオイと共に騒ぎの中心に向かってみる。

 

 そこには、やたらと豪華な馬車が止まっている。

 明らかに、場違いである。

 その馬車から降りてきた人物を見て、アオイが珍しく苦い顔をした。


「あーあ。邪魔なのが来たな」


 そう言ったのは、いつの間にか後ろに居たトマリ。

 アオイもコガネも、その言葉を否定はしなかった。

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