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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
9章・前線へ
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4,拠点

 馬を走らせて、陽が沈む前には魔物との戦闘用に作られたのだと言う簡易拠点に着いた。

 簡易拠点と言っても、魔物との戦闘が続いている間は整備され続けているらしく、そこそこ規模の大きな拠点だった。


 アオイが拠点に入ると、最初は怪訝な顔をされたが、薬師免許を見せると納得してもらえた。

 ここにも、話は来ていたらしい。

 まあ、カーネリアからの依頼なので、根回しはされているだろうと思っていたが。


「寝泊りはこのテントをお使いください。お連れ様も、ご一緒に」

「分かりました、ありがとうございます」


 拠点内を一通り案内され、アオイは案内人に声をかけた。

 まず最初に言わないといけない事があった。

 そのためにも、行っておきたい場所が。


「すみません、怪我人はどこに?」

「……あのテントです」

「分かりました」


 聞いて、すぐにアオイは歩き始める。

 案内人は慌てたようにその後をついてきた。

 何のためらいもなくテントの中に入り、アオイは中を見渡した。


「あ、あの、キャラウェイ様」

「一つだけ、先に言っておきますね」


 追いついた案内人に、それから、テントの中に居る者たちに聞こえるように、アオイは、優しい声色ながら、有無を言わせぬ迫力を含ませた声を出す。


「私は、明日から主にここに居ます。私は怪我人の手当てをするためにここまで来ました。手当に不要な気遣いは要りません。怪我人に近付くな、という言葉は受け入れません。その言葉は、私の仕事への冒涜だと思っていてください」


 それはつまり、最上位薬師に何かあってはいけない、と怪我人から遠ざけようとした案内人への牽制であり、自分に不要な気を遣うな、というお達しだった。

 アオイの契約獣たちは、まあやるだろうと思っていた行為だが、他はそうではなかったらしい。


 まあ、普通はそうだろう。

 最上位薬師は、言ってしまえば王族と同じ生活を送れる天上人である。

 その最上位薬師が前線の簡易拠点に来て、自分に気を遣うなと言う。


 普通、無理である。

 何かあったら責任を取らされる、と思うだろう。

 薬さえ作ってくれればいいと思っていたのだろう。


 残念ながら、アオイは普通の最上位薬師ではなかったが。

 王族の誘いをすべて断って森に引きこもっている時点で普通ではないのだ。


「あ、あと、私の契約獣が3人ほど拠点内に居ます。雑用に使っていいので、何かあったら声をかけてください」


 その言葉で、サクラが人型を取り、トマリがどこからか出てきた。

 コガネは元々アオイの横に立っている。


「あ、あの、キャラウェイ様」

「アオイでいいですよ」

「アオイ、様」

「さん。で」

「アオイさん」

「はい、何ですか?」


 案内人は、どこか戸惑いながらアオイの言うことを受け入れているようだった。

 中々適応力の高い人だ、とコガネが密かに感心していた。


「手当もなさるのですか?」

「はい。出来ますから」

「手伝いは、どのくらい必要でしょうか」

「今、手当を行っているのは何人ですか?」

「6人です。皆、戦いの中で手当てを出来るようになっただけなので、やり方は自己流です」

「分かりました。その6名を借りますね」


 案内人は、その場で手当てをしていた6人を呼んだ。

 6人共戸惑いながらアオイの前に現れ、アオイがよろしくお願いします、と頭を下げたのを見て慌てて頭を下げた。


「もう一つ、質問が」

「何でしょう」

「ここで、薬を作っていましたか?」

「……いえ、買った物だけで手当をしていました」

「なら、どこかに薬を作る場所を作ってもいいですか?道具は持ってきたので」

「分かりました、どこがいいですか?」

「出来れば、水場の近くが」


 そういうとすぐに、怪我人のいるテントのすぐ近くに案内された。

 この拠点には、寝床用のテントと手当て用のテントの境目に小さな川が通っていて、アオイが案内されたのはその川の横だった。

 拠点内で最も上流なそこは、確かに薬作りは出来そうである。


「どうでしょう」

「ここで大丈夫です、ありがとうございます」

「いえ。では、すぐに建てさせます」


 その間、したいことがあれば自由に。と言われて、アオイは首を傾げた。

 そして、あ。と声を出す。


「そうだ。まだ、貴方のお名前を聞いてませんでした」

「あ。すみません、申し遅れました。カイヤと申します。この拠点の総括をしていますので、何かありましたら」


 若い人が案内に回されたのかと思っていたが、思いのほかお偉いさんだった。

 これからテントを建てるらしいので、邪魔しないように別の所に移動する。

 コガネはアオイの手伝いをするという暗黙の了解があるが、他の2人をどこに居させるかは決めていなかったので人手が大抵なさそうな所に置いておくことにした。


 トマリは戦闘の手伝いでも何でもある程度できるので後でいいが、サクラをどこに置いておくかが問題である。

 危ないところに置くと、モエギに後で怒られる。


 一先ず、暗くなる前に見て回ろうと足を動かし、一瞬しか覗かなかったテントを邪魔にならないように見て回る。

 サクラの居場所は、カイヤの作業が終わってからにしよう。

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