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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
9章・前線へ
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3,通り道

 休憩もほとんど取らずに馬で飛ばして、その日進んだ距離は中々だった。

 普段ならもう一日かけて到着するであろうガルダに滑り込みで入国したのだ。

 宿代が浮くから、という不純な理由での入国だが、アオイの師匠はそれを笑顔で許した。


「ついででも、愛弟子が顔を見せてくれるのは嬉しいからね」

「愛弟子なら毎日会ってるじゃないですか」

「こいつは別」

「ずっと関係は断ってなかったのに?」

「アオイちゃんも嫌な所を突くようになったなぁ……」


 だらりと机に溶け出た師匠、ヒエンの横には、美しいエルフが座っている。

 フィアール、という青年だ。

 錬金王ウィーリア・ディルの唯一の弟子であり、錬金術を世に広めた人物である。


 ついでに、コガネの錬金術の師匠だ。

 先代勇者が世界から自分たちの記憶を消した際、断片的に覚えている記憶だけを持って師匠を待ち続け、色々あった後こうして師匠の住処に居着いている。


「師匠、溶けすぎですよ」

「はいはい」

「すみません、アオイさん」

「いえいえ、大変さは分かってますので」


 アオイからしてみれば、ジャンルは違うが兄弟子である。

 仲はいい。ただ、あまり仲良くしているとどちらに嫉妬したのか分からないコガネが乱入してくる。


「明日も早いのでしょう、早めに休んだ方がいい。……コガネも、続きは今度に」

「……分かった」


 錬金術の本を抱えてそわそわしていたコガネもストップをかけられて、大人しく部屋に入る。

 フィアールの言う通り、明日も早い。早く寝ないといけないのは確かなのだ。

 それは分かっているから大人しく部屋に入るが、知的欲求は満たされないらしい。


「また、遊びに来ようか」

「うん」


 素直な返事を返してくるコガネの頭を撫でて、アオイはベッドに潜り込んだ。

 潜り込んでしまえば基本すぐに眠りにつくのがアオイだ。

 朝になってコガネに布団を剥がされるまでぐっすり眠った。


 布団を剥がされたので仕方なく身体を起こし、着替えて下に降りる。

 降りるとすでに朝食が用意されていた。どこに居ても、アオイは基本朝食の支度を確認できない。周りが早起きで世話を焼いてくるのだ。


 通り道だから寄っただけでなので、今回は本当に一晩泊まっただけだった。

 コガネが寂しそうなので近々来ることにして、エキナセアを出ようとしたらヒエンに呼び止められる。


「何かあったら、呼んでいいからね」

「過保護ですね、相変わらず」

「そりゃ、可愛い弟子が危険な所に行くとなればね」


 ポンポンッと頭を撫でられ、本当に相変わらずだなーと笑う。

 どこに行くとも言ってないのに知っているのは別にいいし、問題もない。多分、アオイが前線に居る間ずっと見ていて危険があったら何らかの手段で助けてくれるのだろう。


「それじゃ、急がないとなので」

「はーい。今度はゆっくり遊びにおいで」

「はい!……あ、でも、あんまりシオンをからかわないで上げてくださいね」

「あは。場合による」


 笑顔で信用ならないことを言うヒエンに苦笑いしながら、アオイはコガネに引き上げられて馬に跨った。

 手を振って別れを惜しみつつ、門を出たら昨日と同じで絶叫アトラクションのような速度を出す。


「ひぃぃ!」

「主、黙ってないと舌を噛むぞ」

「んー!」


 コガネにしがみ付いて目を瞑り、絶叫アトラクションな時間が過ぎるのを待つ。

 コガネがいるから落ちないのは分かっているが、怖いものは怖いのだ。

 だが、まあ、フォーンからガルダに来るより、ガルダからモルモーに行く方が距離は短い。


 それだけを心の支えにして、アオイはコガネに引っ付いた。

 昨日は夕方、門が閉まる直前にガルダについたので、今日は昼過ぎにはモルモーに着くだろう、とコガネが言っていただろうか。

 頑張れ自分。もうすぐ、きっともうすぐ着く。


「主、関所」

「あら、もうそんな場所?」


 いいながら顔を上げ、関所を通過する。

 関所を越えれば、そう時間はかからない。

 もう少しだと自分を慰め、もう一度コガネにしがみ付く。


 それからの時間はそう長くはなかったが、正直そろそろ魂は飛びそうだった。

 魂が飛んでいく前にモルモーについたので、モルモーの門番に声をかける。


「あの」

「ん?何だ。何か用あるなら、まずその外套を取ってから……」


 言っている途中でアオイが外套を取ったので、門番は見事に固まってしまった。

 アオイはそれを無視して話を続ける。

 この反応には、正直慣れているのだ。


「魔物の襲撃を受けているという場所を教えていただけませんか?」

「は、いや、貴女のような方が行く場所ではないかと……」


 一回は言われるかな、と思っていたが、やはり言われた。

 さてここからどうしようか、と考えていると、話し声が聞こえていたのか別の人が顔を出した。

 今話している人とは違う鎧を着けている。偉い人だろうか。


「もしや、貴女が薬師殿ですか?」

「ああ、話は回っているんですね。イピリア女王、カーネリア様からの依頼で参りました。最上位薬師、アオイ・キャラウェイと申します」


 女王からの依頼、という話が知られているか分からないのでどうしようかと思っていたのだ。

 知られているなら話は早い。

 明かしてしまえば、門番はすぐに地図をくれた。


「この印の場所です。詳しい案内が必要でしょうか」

「いえ、大丈夫です。代わり、と言っては何ですが、馬貸しにこの馬を返しておいて貰えませんか?」

「お安い御用です。軍の馬をお貸しします。それに乗って、拠点まで」

「ありがとうございます」


 話はまとまり、馬を交換して目的地に向かうことになった。

 移動中コガネに聞いたら、やはり先ほどの人物は偉い人らしい。門番長、だとか。

私は弟子さんと呼んでいた、コガネの師匠の名前がやっと出てきました。やったぁ。

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