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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
9章・前線へ
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1,第2大陸へ

 カーネリアから、正式な依頼という形で戦場に赴くことになったアオイは、帰ってすぐに準備を始めた。

 とりあえずで思いつく、薬作りに必要な道具を纏めておいて置き、コガネに魔法で運んでもらうことにした。


「誰を連れて行く?」

「うーん……とりあえず、コガネは来てね?」

「もちろん」

「後は……サクラかな」

「……モエギが何か言いそうだね」

「そうだね。でも、連れていった方がいい」


 アオイがここまで言うのも珍しく、コガネは黙って頷いた。

 コガネとしてもサクラかモエギ、どちらかいた方が何かと動きやすいし、今回の場合連れて行くのはサクラがいいだろう。と思う。


「戦場かぁ……」

「前にもあったね」

「あったねぇ。4年前?」

「かな。4年と半年くらいだと思うよ」


 昔のことを懐かしみながら準備を進め、準備が終わったら用意されている夕食を食べに向かう。

 夕食を作って待っていたモエギに、サクラを連れて行くと伝えると一瞬動きが止まった。

 何か言おうとして、モエギは結局何も言わずに頷いた。

 モエギもアオイとの付き合いは長い。決定事項だと察したらしい。


「分かりました。……まあ、大丈夫ですよ。逃げ足は速いですし……」

「そんなに危険なことはないと思うよ」

「分かってます。前線に立つわけじゃないですもんね」


 コガネが声をかけても、モエギは心配そうにつぶやき続ける。

 小鳥のささやき程度の音で続く呟きは、サクラがリビングに現れたことで終わりを迎えた。


「どうしたのー?」

「ああ、サクラ。サクラも、付いてきてくれる?」

「あ!モルモーだよね?行くー!」


 元気よく、なんのためらいもなく発せられた声に、モエギは軽く笑った。

 そして、前線だから気を付けろ、むやみに動ぎまわるな、夜には連絡をくれ、と勢いよく言い始める。

 サクラは慣れたように分かったーと言っており、その会話を聞いていたアオイとコガネは顔を見合わせて笑う。


 このやり取りも、いつもの事だ。

 普段は連れて行かない危険の伴うところにサクラを連れていく時は、毎回やっているやり取りである。

 ちなみにモエギだけを連れていくことにすると、サクラが落ち着かなそうにこちらを窺ってくる。


 似た者同士、本物の兄妹のような2羽は、お互いが大事で仕方ない。

 あまり心配させる気もないので、こまめに連絡は入れるが、まあ心配は心配だろう。


「よし、じゃあ明日に備えて寝ようか」

「はーい」

「主、明日早く起こすからね」

「うっ……分かった……」


 アオイはコガネの言葉に頬を引き攣らせており、そのままいそいそと部屋に入っていった。

 コガネも自分の部屋に戻り、小鳥達も揃って部屋に入っていく。

 明日は一日移動で終わるだろうから、早く寝なければ。



 翌朝、いつも通りコガネに起こされたアオイは、眠たげに目を擦っていた。

 荷物は昨日のうちに纏めておいたし、後はアオイが起きて着替えるだけだ。

 コガネに急かされて寝巻きから旅用の服に着替え、外套を持って部屋を出る。


 リビングに降りるともう既に朝食は用意されていて、皆そこに揃っていた。

 今日は普段より早起きのはずだが、皆これくらいは誤差らしい。


「……早起きだねぇ」

「おはよ、姉さま」

「おはようセルちゃん」


 寄ってきたセルリアの頭を撫で、アオイは自分の席に座った。

 朝食を食べて、少しだけ時間があるのでアオイ不在中の指示を出していると、ウラハがアオイの後ろに立った。


「マスター、髪を結ってもいいかしら?」

「あ、おねがーい」


 身を委ねると慣れた手つきで髪がまとめられていく。

 ずっと移動している日に、髪を流したままなのは何かと面倒だろう。

 以前からウラハは、そう言ってアオイの髪をまとめる。


 ずっと留守番をするウラハなりの気遣いであり、激励なのだ。

 綺麗に髪を結ばれて、アオイは笑顔でお礼を言った。


「行ってらっしゃい。気を付けてね」

「うん。行ってきます」


 手を振ってリコリスを出て、まず向かうのはフォーンである。

 そこで馬を借りて、その後は一気に行けるところまで進む。

 多少高くともいい馬を借りて行くことにして、森の中でアオイはコガネに声をかけた。


「荷物、トマリが運んでくれるって?」

「ああ。着いてきてるらしい」

「そっかー」


 話しながら進んで、フォーンに入って馬を借りる。

 馬を借りるだけで、他は何もせずにすぐ出発だ。


「飛ばすぞ」

「大丈夫ー!」


 コガネにしっかり掴まって、アオイは目を瞑った。

 普段は安全第一で進むコガネが、今日だけはシオン並の暴走族っぷりを見せている。

 アオイは落ちないようにするので精一杯で、馬の操作も周囲の警戒も全てコガネが行っていた。


 それくらいいつもの事なので、何か特別思うところがある訳では無いのだが。

 ただ、アオイが小さくゼッキョウケイダメゼッタイ……と呟いていることだけがコガネの注意を引いていた。


 昔から言っているので、苦手なのは知っている。

 知っているから普段はアオイが怯えない速度で行くのだが、今回ばかりは仕方がない。

 もう一度、掴まっていろと声を掛けてからコガネは速度をさらに上げた。

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