0,雪の中の強行軍
2章投げまーす!(/・ω・)/
一面が見事な銀世界だった。
日の光を反射してキラキラと輝き、風が吹いて粉雪が舞う。
そんな美しい銀世界に、自分の後ろに道を作り上げながら歩いている人影があった。
息を切らして、半分以上身体を埋める雪に足を取られて転びそうになりながら進む。
一つに括った髪はぼさぼさで、顔には濃く疲労が見えた。
若い女性なのに、雰囲気だけなら人生に疲れた中年に見えるほどだ。
女性の後ろには通った後がはっきりと残られている。
今日は晴れているが、昨日は雪だった。
小さな洞窟から伸びている道は1つしかなく、昨日までに女性が作っただろう道は消えてしまっていた。
女性は息を切らして、歩きなれない雪の中をどこに行くのかも分からないまま歩いていた。
昨日は洞窟で休めたが、今日はどうなるか分からない。
天気のいいうちに出来るだけ進みたかった。
だが、その考えとは裏腹に体は疲労を訴える。
足が痛い、体が重い、動き続けて汗をかいているのに、雪に埋もれているせいで止まるとすぐに体温を奪われる。
喉が渇いた、意識が、遠のく。
女性は、雪の中に倒れこんだ。
視界が白いのは、意識が曖昧だからなのか、雪の中だからなのか。
ああ、せめて、と何かを願い、女性の意識は闇に落ちた。
落ちる直前、温かな風が頬を撫でたような気がした。
1人の青年が、暖かいお茶を淹れていた。
目の前には暖炉があり、2つあるソファの1つに腰かけている。
時折確認するような目線を隣のソファに向け、目線を戻す。
木のカップに注いだお茶を冷ましながら飲み、手元の本を読み進める。
しばらくそうしていると、隣のソファの上で何かが動いた。
青年はもう1つカップを用意しながら声をかける。
「目が覚めたか?」
「え、あの、ここは……」
ソファの上で身体を起こした女性に、青年はカップを手渡した。
戸惑いながら受け取り、女性は首を傾げる。
「あなたは……?」
「雪の中に倒れているのを見つけたから、連れてきた。自殺かと思ったがやたら必死に進んだ後があったからな。どこか行きたいのか?」
「行きたい、場所は、分からないんです。ただ、行かなきゃいけない……」
言いながら、女性はカップに口をつける。
温かな優しい味がした。
「ここは、どこなんですか?」
「第6大陸の端だ」
「それは、まあ、知ってます」
「常冬の地。雪に覆われた、俺以外には人がいない土地だよ」
そう言って、青年は女性に向き直る。
「こんな土地に、何をしに来たんだ?」
「……妹が、村の生贄にされてしまうんです。私は、それを避けたくて、村の文献を読み漁ったら、雪がどうとかって書いてあって……」
「それだけでこんなところに来たのか?」
「それしか手掛かりがなかったんです」
女性は、今にも泣き出しそうな表情をした。
そんな表情をしていると幼さがあり、まだ大人になりきってはいない歳なのだろうと思った。
「……雪が関係あるのか」
「はい。生贄を求めている魔神の弱点なんかはすべて塗りつぶされていて……1つだけ、雪だけ読めたんです」
青年は何かを考えるように下を向いた。
そして、思い出したように奥の扉を見る。
女性が釣られてそちらを見ると、青年が声を張った。
「トネル!フドル!」
呼ばれて、扉から2匹の大型犬が飛び出してきた。
まず青年の元へ飛びつき、そこから少しだけ落ち着いた状態で女性に向き直る。
その尻尾はちぎれんばかりに振られていた。
「えっと、この子たちは?」
「トネルとフドルだ。普段は俺の暖房役と、犬ぞりを引いてる。君を見つけたのもこいつらだ。心配していたようだからな、目が覚めたのを教えようと思って」
2匹の大型犬は、自分の名前が呼ばれた時だけ青年を見る。
2匹とも白が多いモフモフとした毛並みだが、背中の毛が黒っぽいのがトネル、灰色っぽいのがフドルのようだ。
2匹は青年と女性にじゃれついて満足したのか、足元で座って落ち着いた。
「さて……このまま返しても、君はまたここに来るか?」
「はい。何か、分かるまで」
「なら、1つ取引をしよう」
青年の言葉に、女性は首を傾げる。
青年は手のひらを上に向けて手を差し出した。
何かと思って見ていると、その上に雪が降り始める。
「え?」
「俺の属性は雪だ。何か見つかるまで君の手助けをする。その代わり君の妹を助けたら、少し俺の手伝いをしてくれ」
「雪、属性……初めて聞きました」
「珍しいらしいからな」
「分かりました。あなたの手伝いは……私に出来る事ですか?」
「ああ。それじゃあ、しばらくの間よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
人は皆、属性を持っている。
それは扱いやすい魔法の種類であり、相性のいい気候だったりもする。
なにも属性がない者はいない。無属性は、「無という属性を持っている」ことになる。
雪は珍しい属性であり、青年は自分の血縁しかその属性を見たことがなかった。
「そういえば、名前を聞いてなかったな。俺はジーブだ」
「フレアです」
2人は握手をして笑った。
トネルとフドルはシベリアンハスキーみたいなイメージです。
でっかいわんこっていいですよね。
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