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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
8章・樹木の巡り
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7,樹木の巡り

 アオイに樹化の事を話してから、レドは少しだけ、自分の種族について考えていた。

 たがまあ、少しだけだ。夜寝る前に5分だけ考える、とかそのくらい。

 その時間以外はいつも通り、安全にクリア出来るレベルのクエストを受注して過ごしていた。


 変化があったのは、リコリスに赴いてから2か月ほどが経過した頃。

 受けていたクエストをクリアして、次は何を受けるか、どこに行くかと考えていたレドの元に1羽の小鳥が舞い込んできた。


 その姿には、見覚えがある。

 アオイの契約獣。人の姿を取る前から知っている。

 舞い込んできたサクラは、レドの前に十分な空間があることを確認してから人の形を取った。


「やっほう!レド君!」

「やっほうサクラちゃん。なんかあった?」

「薬が出来たから呼んできてって主が!」

「……早くない?」


 世界最高峰の薬師であったとしてもまあ半年くらいはかかるだろう、と思っていたレドからしたら、あまりに早い完成報告だった。

 小鳥に戻ったサクラを肩に乗せて、泊まっていた宿を出て、適当に馬を借りてリコリスに向かう。


 個人的には落ち着く森の雰囲気に囲われながら迷いの森を進み、着いたのは陽が沈むころだった。

 これでも、大陸を跨いでその日のうちに来たのだから超特急である。

 到着したレドを見てアオイが速いね、と呟いたので、レドは思わず笑ってしまった。


「それ、こっちのセリフだよ」

「いや、サクラがレド君見つけるところから考えたら、すごく速かったから。明後日到着くらいかと思ってた」

「俺は、あと4か月は待つつもりだった」

「そんなに長時間同じ薬作ってると、私が壊れるよ」

「壊れないように休憩も入れて半年くらいだと思ってたんだよ」


 最上位薬師を甘く見たな、と胸を張ったアオイに苦笑いして、レドはリコリスに入った。

 モエギから夕食のお誘いを受けて、ありがたく同席させてもらう。

 アオイの可愛い妹はもう眠ったらしい。


「サクラから今日帰れそう、って連絡来たから待ってたんだ」

「そうだったんだ」

「うん。デザートもあるよ」


 デザート、という言葉に反応したのはレドよりサクラで、モエギがそれを嬉しそうに眺めていた。


「で、アオイさん。ここで聞くのもあれかもだけど、薬出来たんだよね」

「出来たよ。……多分、ね。樹化してる植人には試してないから、駄目な可能性もある」

「それは仕方ないよ。ありがとねー」


 いくら?と聞くと、アオイは笑った。

 これの代金はいいから買い物をして行ってくれ、と言われて、なら大量に買っていこうと財布の中身を確認する。


 そんなことをしていると夕食が目の前に出され、レドの腹の虫は盛大に声を上げた。

 一応は行儀よく食べながら、レドは思う。

 金払っていいから、この飯を食いに通いたい。むしろ払いたい。


「あー……美味い……モエギさんもう店出そうぜ……俺通い詰めるよ」

「ありがとうございます。でも、ここから出る気はないので」


 取り留めのないことを話して、今日は遅いから泊まっていくように言われてその言葉に甘える。

 信頼できる人の好意には甘えておくのがレドの旅のしかたである。

 これでもギルドでは中堅と呼ばれる位置。普段は気を張っているので、ここでは気を抜いていたい。


 アオイは何かしてくるわけはないし、その契約獣たちもアオイの意に歯向かうことはしない。

 一時、陰に潜む狼を警戒したことがあったが、彼もアオイには逆らわないと感じ取って警戒はやめた。

 アオイは、決して支配はしない。ただ、制圧はする。


 自分で気付いていないだけで、彼女の場の制圧力はとても高いのだ。

 だが、そのどこか威圧感に似た気配を時折感じさせたとしても、動物に、精霊に好かれる純粋さを持っていた。


「人ならざる者からすると、もはや怖いくらい」

「だろうよ」

「わー。聞いてたんだ?」


 ぼやいた言葉に返事をされ、レドは苦笑いした。

 陰に潜む彼は、攻撃はしないが侵入はするらしい。

 明日が早いなら早く寝ろ、と言われてしまい、レドは大人しくベッドに潜り込んだ。


 そして翌朝、アオイから薬を受け取り、モエギから朝食と昼食を頂戴し、馬に跨ってリコリスを後にした。

 薬屋で買い物もしたし、これでやることは全てのはずだ。


 手を振ってリコリスを出て、向かうのは嘆きの森と呼ばれるようになった、知り合いのいる穏やかな森である。

 彼女はまだ嘆き続けているらしい。

 なので近くに人はいないだろう。


 好都合、である。

 途中食事を挟みながら、急ぎ足で森に向かう。

 森に近付くにつれ、同族の気配を、強い嘆きの気配を感じるようになった。


「……そんなに嘆いていると、周りが怖がるよ」


 森に入る前に馬から降りて、森の中心に座している女性に声をかけた。

 女性は一時嘆くのを止め、そのどこか虚ろな目を向けてくる。


「久しぶり、マーニ」


 声を発することも忘れてしまったのか、マーニからの返事はない。

 それでもレドは彼女に話しかけながら、腰に付けたポーチを漁る。

 取り出したのは、小ビンに入った液体。


「これね、無理を言って作ってもらったんだ。樹化を、治せるかもしれない」

「え、あ……」


 マーニの目は驚きに見開かれ、それを求めるように手を伸ばしてくる。

 その皮膚は人のものより、樹皮に近くなっていた。


「口開けてて。1つしかないから、落とさないように」


 レドが近付くと、マーニは大人しく上を向いて口を開けた。

 自分の手では落としてしまうかもしれないと、マーニも思っていたようだ。

 有色透明な液体をマーニの口の中に流しいれて、レドは少し距離を取った。


 説明されているのはここまで。ここから先は、どうなるのか分からない。

 レドが見つめる先で、マーニは液体を全て飲み干したようだった。

 少しして、その体に異変が起こる。


 急速に、樹化が進み始めたのだ。

 レドが驚きで動けなくなっている間に、マーニはどんどん木に成っていく。

 失敗したのか、と頭が理解をしようとした時、ドサリ、と重いものが落ちる音がした。


 木の根元、ここから見ると裏側に何か落ちたようで、裏に回り込んでそれを見たレドの表情は、たちまち明るくなっていった。


「久しぶり、マーニ」

「……レド」

「よかった、失敗したのかと思ったよ」

「ええ、私もよ。……なんだか、不思議な気分。魂はそのまま、身体は新しくなったみたい」

「見た目は変わってないよ」

「そう?」

「うん。綺麗な赤茶髪」


 マーニの身体は全く問題ないようで、それを確認したレドはそれじゃ、と軽く言って立ち去ろうとした。


「あ、待って!この薬、誰が作ってくれたの!?」

「あー。本人が、身分明かしたがらないんだよね」


 だからごめんね、とレドは今度こそ立ち上がる。

 嘆いていた同族の嘆きが収まるのは良い事であり、このまま時間が経てば嘆きの森なんて呼ばれ方もされなくなるだろう。


 それに、自分はもう日常に戻るから、それは関係のない話だ。


「まずは、今日の宿。それから、次に受けるクエストだなー」


 どこに行こう、と呟いて、レドは馬に跨った。

薬の製作過程を書く力は私にはなかった(時間を飛ばしながら)

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