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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
8章・樹木の巡り
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6,方向性

 リビングに降りるともうすでに朝食が用意されていて、シオンもいつも通りそこに居た。

 やはり昨日はセルリアと共に早寝をしたらしい。


「昼間に読むからええんやぁ」


 と、そんなことを言って笑う姿は何とも幸せそうである。

 セルリアはそんなシオンの隣で本を読んでおり、今日は2人で読書なんだそうだ。

 今日は、というかいつもな気がするが、そんなことは気にしてはいけない。


「主、今日も?」

「うん。今日も1日作業だね」

「分かった」

「ごめんねー。ありがとう」


 コガネの頭を撫でながら、アオイは今日の作業内容を頭の中で整理する。

 昨日作っていたとは違う種類の薬。

 それを作って、それの出来によってどちらで製作を進めるか決める。


「……流石に、頭を使うなぁ……」


 ぽつりと零した言葉はコガネに聞こえていたと思うが、コガネは何も言わずにお茶を差し出すだけだった。

 差し出されたお茶を啜り、用意された朝食を食べて、その間にアオイの頭の中は整理された。

 1日の流れをコガネに伝え、そのまま2人揃って作業部屋に向かう。


 その背中を見送り、他の者たちは思い思いに過ごし始める。

 シオンとセルリアは本を抱えて庭に。サクラとモエギ、そしてウラハはリビングでとある作業を。トマリは昼食は要らないと告げて、闇の中へ溶けていった。


 作業部屋に入ったアオイとコガネは、まず昨日の鉢植えの観察を始めた。

 結果は、変化なし。

 それが分かっただけでも進展として、今日の作業に取り掛かる。


 昨日とは違う薬を、昨日と似たような手法で作っていく。

 作業に没頭して、気付けば昼食が置かれていて、また没頭して、今度は夜になっている。

 夜には薬も出来上がり、昨日とは別の鉢植えにそれをかけて結果を確認する。


 アオイが薬をかける横でコガネがメモを取り、その経過を記録していく。

 今日の薬は、花を咲かせた鉢植えにかけるとその花が蕾になり、萎んでいった。

 アオイが難しい表情でそれを見つめるので、コガネはそっと声をかける。


「主、どうする?」

「……昨日の、方かな」

「そっか。……これは?」

「貰う。ありがとうね」


 コガネからメモを受け取り、アオイはようやく表情を緩めた。

 普段はふんわりを微笑みを浮かべているアオイがここまで険しい表情をするのは珍しく、それだけ薬の製作が難しいのだろう、とコガネは考える。


 ここから先は、コガネの手の出せない範囲の事になってくる。

 そうなるとコガネはしばらくやることがなくなり、そわそわとアオイの作業終了を待つことになる。

 それは、とても落ち着かない。


 まだ何か手伝えることがあるのではないか、と考えていたコガネに、アオイが声をかけた。

 手には先ほどコガネが渡した物とは別のメモが握られている。


「コガネ、おつかい頼んでもいい?」

「いいよ」

「ありがとう。……どこで売ってるかも分からないんだよね……アジサシさんを見つけられたら、それが早いと思う」

「そうなんだ……私に頼むの、珍しいね?」

「そうだねー。まあ、たまにはね」


 アオイは基本、極端な遠出や時間のかかる探し物はトマリに頼む。

 その方が早いし、適性があるから、と。

 それを今回に限ってコガネに頼むというのは、家の中でそわそわと待っているなと言われているようである。

 そんなことを思って、少しだけしゅんとしたコガネに気付いたのか、アオイは微笑んでその頭を撫でた。


「その材料ね。闇に沈めると曇っちゃうんだ」

「……そうなんだ」

「うん。サクラとモエギは忙しそうだし、お願いね」

「分かった」


 理由を話され、コガネは表情を明るくした。

 アオイはそんなお供の姿を見て頬を緩める。

 普段は保護者と思っているが、こういうことがあると庇護欲をそそられる。


「……実際は、私が100%守られる側だけどね」

「どうしたの?」

「何でもないよ」


 思わず声に出てしまった心の中を呟きをごまかしながら、アオイは立ち上がった。

 エプロンを外して机に投げると、コガネに向き直る。


「さて、夕食食べに行こう。お腹空いた」

「うん」


 コガネと共にリビングに向かうと、珍しくウラハとモエギが慌てた様子で支度を進めていた。

 普段ならもう出来上がる時間だが、まだ出来ていないらしい。


「あら、珍しい」

「ごめんねマスター。没頭しちゃって」

「いいよー。作ってくれてありがとうね」


 手を動かしながら申し訳なさそうに言ってくるウラハに笑顔で手を振る。

 任せきりにしているのはこちらであり、たまには自分の作業に没頭する日もあるだろう。

 普段家事をやっていないアオイが文句を言えるわけはなく、そもそも言う気もないのでソファで溶けているシオンにちょっかいを出しに行く。


 キッチンは、3人以上入ると動きにくくなってしまうのだ。

 今はサクラが手伝っているので、あれで定員である。


「シーオン」

「んあ、マスター。終わったん?」

「うん。今日の分はね」

「そっかぁ」

「シオンは読書進んだの?」

「あ、2冊目借りたで」

「はや……」


 緩い会話をしているうちにトマリが現れ、夕食が出来始めて配膳が始まる。

 セルリアと共に配膳を手伝いながら、アオイはまだ薬の事を考えていた。

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