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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
8章・樹木の巡り
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5,第1弾

 気付けば日は落ちきっていた。

 1日中作業をして、まずは1つ目の試作品が完成した。

 ぐっと伸びたコガネに出来を聞かれ、アオイはまあ成功はしていないだろうと言う。


 そして言いながら、凝り固まった肩を回した。

 バキバキと中々すごい音がする。

 流石に凝り過ぎだと言われ、アオイは苦笑いした。しながら完成した試作品を手に取って、光に透かして有色透明な液体を眺める。


「これはまだ、不確定要素があり過ぎるからね。これで成功したらむしろ怖い」

「そっか、すぐに試す?」

「うん。経過記録もとりたいし」

「分かった」


 アオイの言葉を聞いて、コガネは手早く実験の準備を始めた。

 鉢植えで育てている、実験用の花を取り出す。その花に薬をかけ、反応を見る。

 結果は、花が枯れただけ。


 急激に時間が経過したかのように、葉は茶色く萎み、花弁は散っていった。

 ただ枯れたというより、寿命を迎えて散った、という方が似合う散り方だった。


 アオイはそれを見て何かを考え、今度は芽が出たばかりのものを持ってくる。

 それに薬をかけると、途端にツルが伸び蕾を作った。

 両方の結果を紙に記録しながら、コガネはアオイの表情を窺う。


「うーん……」


 唸るアオイに手渡しながら、コガネはそっと声をかけた。

 何か考え込んでいるなら、その思考の邪魔にならないように、そっと。


「どう?」

「方向性としては、一つの正解。ただ、これは失敗。……もう一つ方法を考えてるから、そっちもやってみてから進むほうを考えようかな」

「分かった。じゃあ、とりあえずご飯食べに行こう」

「そうだねー。流石にお腹空いた……」


 ぐっと伸びをして、アオイは鉢植えを窓際に並べた。

 そして手袋とエプロンを外して、リビングに向かう。

 リビングではモエギとウラハが忙しそうに動いていた。


 今日は手伝える内容がなかったのか、それをそわそわしながら横で見ていたサクラがいち早くアオイに気付いて声を上げた。


「あ、主!終わったー?」

「うん、とりあえずね」

「ああ、なら、夜食は要らなかったですね」

「ごめんねー」

「いえいえ」


 そんな会話をしていると、ソファに転がって読書に耽っていたシオンが会話にぬっと入ってきた。

 手元の本から一旦目を上げ、ソファの背もたれから顔だけ覗かせている。

 起き上がる気はないらしい。


「なあ、その夜食貰ってもええ?」

「いいですよー」

「シオン、夜更かしは体に毒よ」

「分かってるー。ほどほどに、な」


 ふにゃっと笑って軽く手を振ったシオンに、セルリアが歩み寄る。

 そしてシオンの口をぬいぐるみの手で覆い、勢いよく宣言する。


「私、今日はシオンにいの部屋で寝る!」

「え、急やね」

「だから、一緒に寝よ?」

「…………せやね、寝よか」


 シオンの夜更かし阻止に成功したセルリアはニコニコと笑っており、シオンはそれを見て困ったような笑みを浮かべる。

 それを見て、アオイはあら平和ーと呟いた。


「夜食は保存ですかね」

「せやねぇー」

「……それ、なんだ?」

「パンですよ。中身はタレ漬けのお肉と野菜です」

「貰っていいか?」

「いいですよー」


 シオンが夜食を諦めたのを確認してから、今度はトマリがモエギに声をかけた。

 内容を聞いて、紙に包まれた夜食に手を伸ばす。

 それを見て、アオイはトマリの背をつつく。


「トマリどこか行くの?」

「ああ、ちょっとな」

「夜更かしは体に毒よー」

「おー」


 ウラハの真似をして言ってみたが、真面目に聞いていないのか軽く流されてしまう。

 まあ、トマリは本来夜行性なのだ。

 今はアオイの生活に合わせて昼間活動しているが、時々夜に動く音が聞こえたり、昼に眠っている様子が見られたりしているので、昼型になったわけではないのだろう。


「まあ、本能だもんね」

「おう。どうにもならねえ」

「分かるよー。私も朝は眠い」

「それは違げぇ」

「なんだと!?」


 完全に同意を得たと思っていたアオイは大袈裟にのけ反り、コガネからもそれは違うと言われてシュンとした。

 コガネにまで言われてしまうと、反論の余地はないのだ。


「よし、夕食ですよ」

「わーい」

「わーい」

「お腹空いたー」


 モエギの声に、セルリアとサクラとアオイが反応し、シオンは気だるげに体を起こす。

 トマリはもうすでに席についているし、ウラハは飲み物を淹れてから座るらしい。

 平和な夕食は平和なまま終わり、アオイは疲れからか早寝した。


 早く寝ても翌朝起きる時間は変わらず、結局コガネに起こされる。

 昔からそうなので、もう直らないだろう。


「コガネが居なかったら生きていけないねぇ……」


 眠たい目を擦りながらそういうと、コガネは聖母のような笑みを見せた。

 顔がいいから様になる。

 朝からそんな表情をされると眩しくて目が開かない。


「ずっといるから、大丈夫だよ」

「じゃあ、ずっと自立出来ないね」

「しなくていいよ」

「ひええ、甘い。甘いよー。甘すぎるよぉ」


 軽く笑いあってから、コガネは部屋を出ていった。

 アオイはその背中を見送って着替えを取り出し、勢いよく寝間着を脱ぎ捨てる。

 今日もやることはあるのだ。早く目を覚まさなければ。

今日から新年号になったんでしたっけ。

すごーい(小並感)(語彙力)

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