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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
8章・樹木の巡り
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4,試行

 ここ数日、アオイは書斎に籠っていた。

 と言っても途中で飽きて出てきて、休憩して戻っていくということを繰り返しているだけなのだが。

 それでも普段の読書量から考えたらかなりの長時間書斎に居り、コガネはしばらくそわそわとしていた。


 それを見かねたモエギがお茶を淹れて書斎に持っていくように頼んだり、サクラが畑の収穫物を運ぶのを手伝ってくれと言ってきたり、小鳥たちはとにかく気を紛らわせようと動いていた。

 2人とも、周りをよく見ていて気遣いの出来るいい子なのである。


 それでもどうにも落ち着かなかったコガネは、意味もなく辺りをウロウロしていて、トマリに足を掛けられたりしていた。

 そのたびにじゃれあいになっていたのだが、それが一番気が紛れたようだ。


「……疲れた……もうしばらく本読みたくない……シオンとセルちゃんは何でそんなに読書してるの……?」

「楽しいよ?」

「お疲れマスター。とりあえず座りや」


 コガネとトマリが本日5度目のじゃれ合いを開始したと同時に、アオイが書斎から出てきてソファに倒れこんだ。

 コガネはそれに反応してトマリを放置しアオイに駆け寄る。


「お疲れ主。何か飲む?」

「飲むー……」


 ぐったりと目を閉じるアオイの気だるげな返事を聞いて、コガネはすぐにお茶の準備を始めた。

 それを眺めながらトマリはアオイの腰かけているソファの背もたれに座る。


「進んだのか?」

「うん……とりあえず、今欲しい情報は集まった」

「上々じゃねえか」

「ふふん。もっと褒めていいのよ」


 ぐったりしたまま胸を張るという謎の器用さを発揮したアオイを横目に、シオンは持っていた本を閉じる。

 そしてそれを机に置き、アオイに声をかけた。


「なあマスター。読み終わった本借りてもええ?」

「いいよー、お好きにお読み」

「ありがとうなー」


 返事を聞いてすぐにシオンは立ち上がって書斎に向かった。

 シオンが今読んでいる本はもうすでに読み終えてしまっているものだろうから、アオイが新しい本を買ってきた時点で読みたかったのだろう。


「……すごいねえ、無類の本好きは」

「アオイ姉さまは好きじゃないの?」

「うーん……難しい本は苦手かな」

「そうなの」


 小首を傾げて訪ねてきたセルリアの腕には、シオンが持っている中ではやさしい、それでもセルリアの歳で読むには難しすぎる気がする本が抱えられている。

 前々からそうだろうとは思っていたが、うちにはもうすでに読書家第2号が爆誕していたようだ。


 知識をつけるのは良いことだー。と呟き、アオイの思考は停止する。

 コガネから差し出されたお茶を受け取り、それを啜りながら書斎から持ってきたメモを眺める。


「……出来そう?」

「うーん、とりあえず、これを作ってみないとね」

「そっか。手伝うよ」

「ありがとう」


 長く共に居るコガネは、アオイの手伝いにも慣れている。

 より多くの事を手伝うため、師匠の店にいた頃に薬師免許も上級まで取得済みだ。

 実は薬師が2人いる薬屋リコリス、ポーション類の製作はかなり速い。


「始めるのは明日かなー。時間かかりそうだし、途中で止めたくないから」

「なら、明日の昼食は作業しながらつまめるものにしますね」

「ありがとーモエギ。とても助かる」


 夕食の支度をしていたモエギからありがたい提案を受け、アオイは立ち上がってモエギの頭を撫でる。

 嬉しそうな、くすぐったそうな表情を浮かべたモエギはしばらく大人しく撫でられていたが、煮立ったナベに呼ばれて作業を再開した。


 その日はそのまま夕食を食べて風呂に入って眠りにつき、翌朝コガネに起こされリビングに降りる。

 珍しく眠たげなシオンに目が止まり、思ったことをそのまま珍しいと言えば、夜遅くまで本を読んでいたのだと返された。


「うーん、本の虫」

「猫やけどね」


 そんな会話をしながら朝食の席に着き、アオイは食事を終えると同時に手袋を装着して作業部屋に向かった。

 コガネもその後を追い、いそいそとエプロンを付ける。


 このエプロンはモエギ作で、アオイが着けているものと似たデザインだが、コガネが後ろで蝶結びを作れないので腰ひもが長く作られており、前で結んでいる。アオイはそれを見るたびに一度は可愛いと呟く。


「うーん、可愛い」

「また言ってる……そんなにお気に入り?」

「うん。とても好み。可愛い」


 ニコニコと上機嫌なアオイは親指を立てて大きく頷き、コガネはアオイの好みならいいかと頬を緩めた。

 作業はそんな緩い会話から始まったが、本格的に作業を始めれば2人の表情は真剣なものに変化する。

 アオイが進める作業に必要なものをコガネが先に用意し、必要なくなったものを手早く片付ける。


 長年続けてきた連携は綺麗に続き、途中運ばれてきたサンドイッチを齧りながら作業は進む。

 アオイの両手は塞がっているのでコガネがアオイの口にサンドイッチを放り込むところまで完璧な連携だ。

 何なら、サンドイッチを一口サイズで作ってくれているモエギも連携の対象である。


「んむ、んむんむ」

「分かった」

「んむー」


 口にサンドイッチを入れたまま何かを訴えたアオイの発言を、なぜか理解してコガネは次の作業の準備をする。

 これは連携というより特殊能力である。

過度に頭を使うと、アオイちゃんの思考は停止します。

そして可愛いものを愛でるだけの機械と化します。

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