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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
8章・樹木の巡り
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2,薬師なので

 レドの言葉には冗談など欠片もなく、止められないと言ったそれを止めようと、戻そうとしているのだとその目が告げている。

 アオイはその目を正面から見返し、ゆっくりと口を開いた。


「……無理、ではないの?」

「今は、無理。止めることも戻ることも出来ない」

「……可能性は?」

「分からないなぁ……俺、別に頭良くないしね」

「それは言い訳にならないよぉ……」


 アオイが勢いよくカウンターに伏せたので、横に居たコガネは慌ててティーカップを避けた。

 カウンターに頭を打ち付けたアオイは、そのまま顔を動かしてレドを見る。


「……で、どうして樹化を治したいの?」

「知り合いが樹化しててさ。あんまりにも悲しそうだから、流石にかわいそうになって」

「へえ……やっぱり受け入れる人が全てじゃないんだね」


 よいしょ、と身体を起こして、アオイは頬杖をついた。

 そして、コガネに目を向ける。

 コガネは珍しくアオイの意志を汲み取り損ねたようで、軽く首を傾げた。


「どうしたの?」

「樹化について、何か知ってたりする?」

「うーん……あんまり関わらない種族の事だしね……レドの知ってること以外は、分からないかな」


 コガネは申し訳なさそうにそう言って、アオイはその表情に思わず頭を撫でた。

 レドはそれを見ていたが、撫でている時間があまりにも長いのでお茶を啜ってから口を挟む。


「……で、アオイさん。どうだろ?」

「……やってはみるよ。薬屋だからね。でも、出来たとしても時間がかかると思うし、出来るかは分からない」

「それでいいよ。無茶言ってるのはこっちだしね」

「樹化の進行とかって大丈夫なものなの?」

「うん。完全に木になりきるまでにはまだ時間がかかるから。……速くても後1年は大丈夫」

「そっか。じゃあ、やるだけやってみるよ」

「ありがとー。それじゃ、俺はここで」

「うん。バイバーイ。気を付けてね」


 手を振って去って行くレドを見送って、アオイはぐっと伸びをした。

 そして、コガネに軽く声をかけてから部屋の隅に出来た影に声をかける。


「トマリ」

「何だ」

「調べてくれる?植人の性質」

「成りか?」

「うん」

「分かった、行ってくる」

「お願い」


 アオイの話を聞いて闇に溶けていったトマリを見送り、アオイは書斎に向かった。

 まだ日は高い。調べ物なら出来るだろうし、次の行動を纏める時間はあるだろう。

 書斎の本を何冊か抱えて机に乗せ、それを捲りながらメモを取る。


「……資料、足りないな」


 次の買い物はいつだったか、と考えながら、アオイはひとまず今ある資料分のメモを終える。

 これ以上はどうにもならないので、作業部屋に場所を移して考え事は続く。

 やってはみると言った以上、出来ることはやるべきだ。


 作業部屋の戸棚を漁り、使えそうなものをいくつか取り出して机に並べる。

 並べて比べて、考えながら弄って頭の中を整理して。

 そうしているうちに時間が経っていたようで、作業部屋の扉がノックされてサクラが顔を出した。


「主ー。ご飯だよー」

「はーい、すぐ行くね」


 夕食を食べたら再開しようと作業していた物はそのまま残し、作業部屋を出てエプロンを外す。

 手袋も外して纏めてソファに置き、夕食が用意された席に座った。


「アオイ姉さま、今度はなにを作ってるの?」

「うーん……悲しい人が、悲しくならなくなるための薬、かな」

「すごい」

「そうだね、完成するといいね」

「姉さまなら、出来るでしょ?」


 無邪気に言われて、アオイはフッと笑った。

 この無邪気な期待に応えたいな、という意地のようなものを感じて、何とも言えない気持ちになる。

 保護者のプライドについてはシオンのそれを横で見ていたが、なるほど壊したくないものだ。


「……あ、コガネ。明日のフォーン私も付いてくね」

「分かった」

「なら、私が店番に行きましょうか?」

「お願いしようかな」

「分かったわ。マスターたちには買い物もお願いするわね」

「分かった」「はーい」


 和やかな会話と共に食事は終わり、アオイはエプロンと手袋を持って作業部屋に戻った。

 中断していた作業を再開し、メモを取りながら使うかも分からない資料を集め。

 次にそれが中断されたのは夜も完全に更けた頃、流石に時間が遅いから、とコガネに止められて風呂に入り自室に上がる。


 纏まりきらなかった脳内を纏めているうちに眠りにつき、気付けば朝になっている。

 いつものようにコガネに布団をはがされ、日光に呻きながらベッドから落ちた。


「おはよう、主」

「おはよう……」

「フォーン行くんでしょ」

「行く……」


 なら早く起きろ、と言ってコガネは部屋から出ていった。

 その背中を見送ってクローゼットを開き、適当に服を取り出して着替える。

 そうしているうちに目も覚めるので、リビングに降りてすでに集まっている者たちに挨拶をして、積み荷の準備をしているらしいトマリの元へ歩いて行く。


「おはよう、トマリ」

「ん?おお。なんかあったか?」

「いや、出てきてみただけ」

「そうか」


 緩く会話をしていると朝食に呼ばれたので、リビングに戻って食事を済ませる。

 積み荷の確認を済ませて乗り込み、セルリアに手を振ってリコリスを出発する。

 アオイにとっては久々のフォーンである。

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