0,植物の嘆き
深緑の美しい森の中、女の嘆く声が響いていた。
もう何日も前から、ずっとその声は響いている。
ああ、なぜ、なぜ私なの。なぜ今なの。
全ての者が成る訳ではないのに、なぜ私がこうなってしまうの。
これを望む者も居るというのに、なぜ望まない私にこれを差し向けたの。
ああ、神よ。居るというのなら、なぜ私の嘆きを聞いてはくれないの。
身体が固くなっていく感覚が、徐々に自由が利かなくなっている事実が女性の嘆きを大きくした。
涙を流し、その涙さえ日に日に変わっていく身体の状況を知らせる要因になる。
気が狂ってしまいそうなその感覚は途切れない。
大地に嘆き、神に嘆き、そして森に嘆いた。
いくら嘆いても、それを聞いてくれる者はない。答えてくれる者はない。
いつまで続くのか分からないこの感覚は、つまり自分がいつまで自分であるか分からないという恐怖を連れてくる。
どうしたらいいのかも分からず、固くなっていく身体では調べる事すらままならない。
この森の中、女性の嘆きを聞く者はいないのだから、誰をも頼ることは出来ない。
なぜ森に来たのか、街に、国に居ればもっと結果は変わったのかもしれない。だが、こうなってしまった以上森に来ることは種としての本能であり、抗えるものではなかった。
森から離れることも出来ず、これを止める方法を調べることも出来ず、女性はただ嘆く。
それしか、出来ることはなかった。
嘆き続けて1月ほど経ったころ、彼女の嘆きに森が共鳴し始めた。
それは嘆く理由が進行している証であり、だがそれを気に留める余裕は彼女にはない。
森の共鳴も伴って、嘆きは大きさを増していく。
付近の人間は異常を感知してその森から離れ、何かの予兆かとすら思われた。
その嘆きは今も途切れることなく続いている。
お待たせ……した気がします。8章です。