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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
幕間
81/190

天上の主〈後編〉

「ちょーうちょう」

「また来たの……?帰って、何度来たって、答えは同じよ」


 引きこもっている建物の扉をノックされ、闇蝶はびくりと身体を揺らした。

 ここに来るのなんて、光魚だけでも多いのに、扉の向こうの星花猫は度々こうしてやってくる。

 光魚が来るのは、まだいいのだ。


 あれには毒の耐性がある。闇に大きく依存する闇蝶の毒は、常に光に包まれている光魚には効かない。

 できれば来ないでほしいし、来たなら一刻も早く去ってほしいが、まだ、いいのだ。

 だが、他は別である。


 耐性を付けた、防御の魔法が出来た、そうはいってもいつどこで何が起こってそれが効果を発揮しなくなるか。それは誰にも分らず、そうなればそれを使っていた者は死ぬのだ。

 もう、人を傷つけたくはない。もう、他の者を死なせたくはない。


「帰って。……この扉は、開けない」


 自分一人が寂しいだけなら、それでいいじゃないか。

 誰も死なないのなら、自分は1人で居るべきだ。

 神獣と呼ばれるようになったとしても、私の根本は殺戮兵器。

 人殺しのための道具が誰かと一緒になんて、居られるわけがない。



 シュンとして戻ってきた星花猫に茶を注ぎながら月花羊は言う。

 少しは考えて行動しなさい。得意でしょう?と。


「……なんか、他にやり方が分からない」

「……貴方の特性どこに行ったの?」

「闇蝶のとこー」

「あらそう。おかわりは?」

「いる。ありがとう」


 ダラダラと話している2人の元に、音もなく1人の者が近付いてきた。

 動きにくそうな服装なのにスルスルと。首についている飾りから垂れ後ろになびく布の音を立てずに。

 いつの間にか横に移動してきていた黙想蛇は縦割れの瞳孔をした目を細めて言う。


「静かな場所で、1人考えを巡らせる時間を過ごすのは如何いかがかな?」

「それか、何をも考えない無の時間を過ごしてみるか?」


 黙想蛇の後ろから顔を出した瞑想亀に続いて言われ、星花猫は考える。

 それもいいかもしれない。数多の選択肢を作ることが役割の自分が1つの選択肢しか持たないのは、いささか問題だろう。


「そうだねぇ……どっちかについて行こうかな」


 何か悟っていそうな目の前の2人は、どちらについて行っても文句はないらしい。

 どうしようか考えていると、遠くから声が聞こえてきた。


「あ!亀さーん!あっそびーましょー!」


 声が聞こえた方向から、少女が飛ぶように駆けてきた。

 瞑想亀の直前で停止し、もう一度遊びましょう!と繰り返す。


「はは、元気よのお。何をする?」

「それは、今から考えます!」


 駆けてきたのは炎鳥。黒ウサギと合わせて小さい者クラブと呼ばれているとか呼ばれていないとか定かではない、少女の姿をした神獣である。

 その姿にたがわず、溢れ出る末っ子感で皆から愛されている。

 瞑想亀は特に炎鳥に甘く、孫を前にした祖父のような面持ちで頭を撫でていた。


「……亀さんは向こう行くみたいだし、蛇さんの所にお邪魔しようかな」

「うむ。なら共に行こう」

「あ、私もお邪魔していいですか?」

「勿論だとも」


 にっこりと笑って黙想蛇は歩き始める。

 星花猫と月花羊はその後ろをついて行き、黙想蛇と瞑想亀の生活している区画に向かう。

 天界でも一際静かなその場所に着く前に、別の者が声をかけてきた。


「あ、やっほう」

「ああ、狼か。やっほう」

「鳥がそっちに駆けてったでしょ?」

「ええ。亀さんと遊んでるわ。……そっちに用事?」

「いや、俺は白のとこ」


 バイバーイと手を振って去って行った大きな背中を見送り、3人は再び歩き始める。

 彼、氷狼が白キツネを構いに行くのはいつもであり、狼と言うにはあまりにゆるふわしている雰囲気に気を抜かれるのもいつもの事である。


 狼らしい要素と言ったら、腰からぶら下がっている尻尾のような飾りくらいだ。

 自分でも尻尾と呼んでいるその装飾品を揺らしながら氷狼は白キツネの仕事部屋まで行き、扉をノックした。


「しーろ」

「ん?……ああ、何かあったのか?」

「何もないよ。無いから遊びに来た」

「これが終わるまでは……」

「分かってるよー。お茶淹れるね」

「ああ」


 白キツネの仕事を邪魔する気はないので、お茶を淹れたり菓子を出したり、部屋の中を少し弄ってみたりして氷狼は時間を潰す。

 白キツネもそれは別に構わないようで、彼はこの仕事部屋で好きに過ごせる数少ない者になっている。


 白キツネの仕事が終わればどこかへ連れ出して息抜きをさせる。

 影獣の方の狼は嫌いなのに、この狼は好きらしい白キツネは書いていた紙を纏めて空中に浮かべた。

 広げて確認を終え、全て纏めて仕舞う。


「よし」

「終わったー?」

「ああ」


 置かれているソファでひっくり返って本を読んでいた氷狼はその声を聞いて起き上がる。


「何を読んでいたんだ?」

「人が書いた本。世界とは何か」

「すごいタイトルだな」

「意外と的を得てるよ」


 そんな会話をしながら部屋を出て、どこへ行こうかと話す。

 広くはない天界だが、出来ることは意外と多いのだ。

 平和に過ぎていく神獣たちの様子を眺めて、神は満足そうに微笑んだ。

幕間はこれで終わりです。うーん、短い。


そういえば、ついったに緩い神獣の落書きを上げてみたりしているので、気になる方はぜひ。

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