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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
幕間
80/190

天上の主〈中編〉

 猫と羊のお茶会に混ざった狐が退席を考え始めた頃、天龍が再び通りかかった。

 その腕には光魚が抱えられている。

 どこか魚を思わせる服に身を包み、3人を見つけて楽しそうに両手を振ってくる。


 手を振り返して去っていく2人を見送り、白キツネは席を立った。

 それに合わせて星花猫も立ち上がり、ずっと眺めていた先、闇蝶の元へ歩いて行く。


「星花、行っても拒否され……んもう。聞いてないわね」

「そんなに止めることか?」

「いい加減方法を変えるべきなのよ。同じ方法で関わりに行って何回拒否されてると思う?」

「……星花はそのあたり得意かと思ったんだがな」

「何も見えてないみたいね。まるで恋する乙女よ。男のくせに。乙女よ乙女」


 頬杖をついて星花猫の去って行った方を見送った月花羊は、ため息を吐いて自分のカップに茶を注いだ。

 そして白キツネに優しい笑みを向ける。


「まだ仕事なんでしょう?根を詰めすぎちゃ駄目よ?」

「ああ」


 手を振って月花羊の元を離れ、白キツネは神の元へ向かう。

 神は先ほどと同じように、黒髪の女性を眺めているようだった。


「楽しいですか?」

「いや、中々楽しそうに動くのでな」


 神の覗き込んでいる円形に映し出される光景のなかで、確かに女性は楽しそうに島の中を進んでいた。

 愛おし気にそれを見る神に、白キツネは星花猫と月花羊の出した結論を伝える。

 短く返事をされて、そのまま神は立ち上がった。


「もういいんですか?」

「うむ。……地に居る血族の状況を、近く纏めておいてくれ」

「分かりました」


 どこかへ向かう神の背を見送り、白キツネは自身の仕事部屋へ足を向けた。

 血族。地上で生活している神獣たちの現状を纏めて、その後やることは……と考えていると部屋に着く。

 扉を開けると同時に後ろから何かに飛びつかれた。


「しーろっ!」


 首元に抱き着かれ、背中に衝撃を感じながら白キツネは至って冷静に背中に張り付いた少女を床に下ろした。

 少女は素直に床に足をつけ、キラキラとした瞳を向けてくる。


「何だ、黒」

「おしごとちょーだい!」


 黒ウサギはにっこりと笑って要件を伝えた。

 存在する黒ウサギの中で、最も上手く育った(・・・・・・・)であろうこの黒ウサギは、殺戮衝動を向ける先を求めて白キツネに仕事をせがんでくる。


「あー……派手にやりすぎるなよ」

「分かった!」

「あと、地竜と行け」

「分かった!」


 〈おしごと〉の内容が書かれた紙を受け取り、黒ウサギは元気よく跳ねた。

 白キツネはそれを見ていたが、そこにちょうど通りかかった者に慌てて声をかける。


「地竜!」

「何だ?」

「黒と共に目的の制圧を」

「了解」


 その服の形態を知る者が見れば、軍服と呼ぶであろう服装をした男が呼び止められて近付いてきた。

 片目が髪で隠れ、隠れていない目からは鋭い眼光が放たれている。

 一見すると近付きがたいが、黒ウサギは迷うことなく地竜に飛びついた。


「行こ!」

「ああ」


 そして手を引いて歩いていく。

 それを見送って、白キツネは今度こそ仕事部屋へと入って行った。

 白キツネの仕事部屋には先ほど神が見ていたものと同じ装置が置いてある。

 それを使って地上を眺め、手元の紙に確認した内容を書き留めていく。


 地上に居る神獣は、全てこの天界に居る神獣が元となっている。

 いつか現れる神の代行者のために、代行者の手助けをするために地上に居る。

 神の補佐を行う神獣の能力は衰えさせて良いものではなく、天界に居る最初の神獣の能力をそのまま複製する形で種族として作られた。


 代を跨いで能力の劣化が起こらぬように、神獣はどちらの性にも成りゆるという特殊性を持たせて種を繁栄させ、その特殊さから時々こうして致命的な問題が起こっていないか確認している。

 まあ、地に降りた複製体といってももう種族として確立されているし、神獣であるから能力は高い。


 そう心配しなくてもいいのかもしれないが、神が確認を要求するので白キツネの仕事の一つになっている。

 白キツネが地上を眺めていると、狭間への門が開いた感覚がした。

 黒ウサギと地竜が仕事に向かったようだ。


 天界の存在する時空の狭間と呼ばれる空間には、神話時代の島々や精霊界、魔界などが存在する。

 今回2人に向かってもらったのは無数にある島の一つ。

 2人の能力ならすぐに終わる内容だろうが、帰って来るのはそう早くはないだろう。


 一度狭間に出ると黒ウサギはそこで遊んでから帰って来るし、地竜はあれで黒ウサギに甘い。

 他に急ぎの用事もないから問題はないのだが。


「……一先ず、報告に行くか」


 血族の現状を確認し終え、白キツネは立ち上がった。

 そこそこの時間が掛かっていたので、ぐっと腰を伸ばしてから動き出す。

 生命体かといわれたら微妙なこの身体に疲れがあるのかは分からないが、そこは気分である。


 神を探して近状を纏めた紙を渡し、そこでお茶を淹れてから白キツネは仕事に戻る。

 目新しいこともないはずの天界で、何故か白キツネの仕事は少なくない。

 それらをこなしていると地上の月日は流れ、気付けば別の仕事が舞い込む。


 そんな日々を、白キツネは気に入っていた。

 変動のない日常が続くのは良い事である。

悲しい性質の蝶々ちゃん。好きです。キャラとして好きです。

ちなみに光魚も女の子。自力で歩くことは出来ないので天龍姉さんが姫抱きで運んでます。

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