天上の主〈前編〉
幕間です!書きたかっただけです!いえい!
この世には、神がいる。
単なるおとぎ話ではなく、信仰されているというだけの話でもなく。
確かな存在として、神は世界を見ていた。
神は確かに存在し、神のいる「天界」も存在している。
それは時空の狭間と呼ばれる場所にあり、狭間の中で最も深く、最も高い場所にあった。
そこにたどり着ける人間など居らず、狭間で暮らす精霊族であっても近づくことは出来ない場所。
時折人間の中に、自己を発現出来ない程度の無意識を持って天界に到達する者がおり、その者たちは告げ人などと呼ばれて各国の教会で神の意志を民衆に伝える役割を果たしていた。
夢を介して訪れるその者たちに神の言葉を告げるのは神自身ではなく神の側近というべき位置に居る神獣、白キツネの役割だった。
神は人を見ながら大きな干渉はせず、だが人に分かる程度に小さく手を貸すことはあった。
その神を支える12の者が神獣。
その他に、神の影となり動く3影獣が時折現れ天界にて暮らしている。
「……見ていたんですか?」
「うむ」
「大丈夫だから送り出したんでしょう?」
「されども、心配くらいはしようて」
天空に残した、今は神話時代と呼ばれている時代の産物を探索しに行っていた人間たちを眺めていたらしい神に声をかけ、白キツネは茶を差し出した。
神は……この天界で暮らすものは食事を必要としない。
その生き物の摂理からは離れてしまっているからである。
それでも、嗜好品を好む者はおり、神もまた白キツネの淹れる茶を好んだ。
神の優しげな視線はこの世界では1人しか存在しない神と同色の髪を持つ女性に向けられている。
この世界に置いて唯一自らの意志で天界に赴くことが出来る者。
あらゆる加護を持ち、あらゆるものに愛され、それでいて力を持つことを拒んだ者。
神の加護を受けた彼女は、時折この天界に遊びに来る。
神はそれを心待ちにしているようだ。
その様子を孫を待つおじいちゃんと揶揄した神獣が居たが、神はそれを笑って肯定した。
「……ああ、そうだ。星花と月花が毒の話をしていましたよ」
「そうか。纏まったら聞かせてくれ」
「分かりました」
軽く丸投げされて、白キツネは神の元を離れた。
天界はそう広くなく、だが建物は複数存在する。
その中の一つで星花猫と月花羊が人界の事を話し合っているようだ。
神の思考を手助けするこの2種により、神獣の干渉具合が決まる。
扉を開けると机にお茶会のセットを置いて話し合っている男女が居た。
月の形のループタイを着けている暗色の髪をした男が星花猫、星の飾りを中心につけて胸元にリボンをつけている優し気な目をした女性が月花羊である。
仲のいい2種はお互いのシンボルを交換して身に着けており、楽し気に話しながら会議とお茶会を同時進行していた。
2人は白キツネの入室に気付いて同時に手招きした。
会議の内容はもう終わっていたらしい。
「どうすることにした?」
「もう少し悪化したら声だけかけて、今は様子見」
「まだ私たちが手出しするほどでもないわね」
「そうか」
手元の紙に軽く内容を書き付けた白キツネに、2人は急ぎかと聞いてくる。
首を振ると着席を促され、座ったと同時に茶を差し出された。
「ところで、蝶々はまだ同じところに居るんだ?」
「ああ。動いてないみたいだ」
「……行こうかなぁ」
「この前拒否されたばっかりじゃない」
ティースプーンをくるくると回して、窓から見える先の建物を眺めて呟く星花猫のカップに茶を注ぎながら諭す月花羊に、白キツネは話しかける。
こうなっては星花猫は問いに答えないだろう。
「そんなに頻度高く行ってるのか」
「結構、ね。自分には影響がないってそれだけでも分かってほしいみたい」
星花猫がひたすら構おうとする相手は、闇蝶と言う。
闇蝶が発する鱗粉は触れるものに死を与え、彼女の通った後は死の道となる。
その危険さが故に神獣として神の元に下り、今は天界の端の建物に引きこもっていた。
闇蝶は周りを傷つけたいわけではないのだ。
ただ、自らを守るために発せられる鱗粉が猛毒なだけであり、それを自身で抑えられないだけ。
周りを傷つけたくないと泣いた蝶々は、天界に引きこもり日も見ぬ生活を送っている。
星花猫はそんな闇蝶を外に出したい、そこまで行かなくとも、せめて気軽に話すくらいの距離感に行きたいらしく、ずっと毒への耐性についての研究を続けていた。
最近それが実を結び、闇蝶の毒が効かない魔法が完成したのだという。
だから自分は近くに居ても大丈夫なのだと言いたいが闇蝶も頑なで、なにがあるか分からないのだから近づくな、と入室拒否を突き付けられているらしい。
それでもどうしても闇蝶を構いたいらしい星花猫は、ため息を吐いて茶を啜る。
「何をしているんだ?」
「ん?天龍か。人間の進む先会議だ」
「そうか」
通りかかった神獣の一体、天龍は聞いておいて興味なさげに返事をした。
頭の周りに大きな輪が浮かび、そこから薄い布の下がった飾りが顔に軽くかかっている。
その布を払いもせず、天龍は声をかけた目的であろう問を発する。
「光はどこにいた?」
「中央の泉にいたわ」
「そうか。感謝する」
短く行って、肩にかかった布をはためかせて天龍は去って行く。
彼女は人間に興味がなく、声をかけたのは光魚の居場所を聞くためだろう。
その背中を見送って、星花猫は再びため息を吐いた。
「あれくらい軽く構いに行きたい」
悲し気な呟きは誰に拾われることもなく薄れて消えていった。
幕間なので話数はとても少ないです。
ちょっと前にブクマ50だー!と騒いだはずなのに、気付けば60を超えていました。嬉しい……嬉しい……ありがとうございます……急いで続き書きます。