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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
7章・天空の島
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12,シオンとの出会い

 朝日が顔にダイレクトアタックを仕掛けてきたので、アオイはそれを躱すために布団に潜り込もうとしてコガネから妨害を受けた。


「ひああ……」

「ご飯いらない?」

「いるぅ……」


 天空の島に赴いて数日が経ち、リコリスは完全に平常運転に戻っていた。

 コガネに布団をはがされて、唸りながらアオイはベッドから降りる。

 アオイが起きたのを確認してコガネは部屋から去って行き、アオイは伸びをしてクローゼットに向かう。


 着替えを終えて寝間着を畳んでベッドの上に放り、ふと机の上を見るとレークから渡された魔道具に変化があった。

 魔石の中に閉じ込められていた金糸が浮き上がり、文字を作っている。

 カードの分析が進んだのだろうか、と覗き込むと、そこには


〈全く分からないです!思いつく分析方法は全部やりました!続き頑張ります!〉


 と書かれている。

 アオイは苦笑いをした後に〈頑張ってください〉と返信をし、朝食を食べるために部屋を出た。


「おはよぉー」

「おはよ、アオイ姉さま」

「セルちゃんは元気だねー」

「うん」


 駆け寄ってきたセルリアの頭を撫でて席に座り、用意されていた食事に手を付ける。

 今日は急ぎの用事もなく、何をしようかと考えながら朝食を食べきり流しに食器を持っていく。

 セルリアは今日も魔法の特訓をするらしい。


 アオイはグーッと伸びをして書斎に向かった。

 そういえば一つ考えていた薬の新案があった。あれを纏めよう。

 そう思って書斎に入り、書きかけの文と必要な本を机の上に並べる。


 放置していたのに、始めてしまえば中々楽しい。

 いつもの事だが始めると集中してしまい、時間を忘れて書斎にこもる。

 昼食と午後のお茶会と夕食に呼ばれた以外は書斎にこもり、気付けば日が暮れている。


 夕食後はセルリアが寝るのを見送り、アオイはリビングのソファで本を読んでいた。

 他の者が皆2階に上がった後、シオンが降りてきて声を掛けられる。

 天気がいいから、と外に誘って柔らかな草の上に腰を下ろす。


「星が綺麗だねぇ」

「そうやな」

「……こんなに綺麗なのは、出会った時以来な気がする」

「そう、やな。あの日も明るかったもんな」


 懐かしむようなシオンの声色に、アオイは微笑みを浮かべる。

 まだ契約獣がコガネと小鳥組とヒソクだけだったころ。アオイが自分の店を持つ前に、世界中を見て回っていたころ。星の綺麗な夜に、シオンと出会ったのだ。


 出会ったのはアオイが会いにいったからで、会いに行ったのはそこにシオンがいたからではなく、星花猫がいたから。

 ただ、神獣がいるから、と。一度は会っておいた方がいいだろうと。それだけの軽い気持ちで会いに行って、その時はその場で別れたのだ。


 その近くにいる間はそこそこの頻度で話しに行ったが、別の国に行くときには名残惜しかったが予定を伸ばすことはなく、そのまま笑顔で手を振って別れた。

 再会して契約を結んだのは、アオイが独立して店を持つことになった時。

 これからいろいろあるだろうから、と旅の途中で出会った者の中から数名に声をかけて契約を結び、リコリスに置いた。


 シオンは来るかどうか微妙な所だったのだ。

 ただ、先にウラハに声をかけていたので、なし崩し的にシオンがついてきた、という感じである。

 ウラハとシオンが知り合いだったわけではない。シオンが星花猫で、ウラハが月花羊だから。ただそれだけで、最初の頃はシオンの興味リコリスへの、アオイへの興味はそれほどなかっただろう。


「でも、ずっといてくれるもんね」

「なんやあ急に。そんなフラっとどっか行ったりしないで」

「セルちゃんも居るもんね」

「……マスター、それが留まる理由なら、もうとっくに出て行ってるわ。過小評価も大概にし」

「はあい」


 強い語彙で言われて、アオイは笑う。

 本気で怒っているところも知っているから、これはデコピン程度のお叱りであると理解できる。

 その関係になれたことを喜びつつ、アオイは星を見上げた。


「……薬、出来そうなん?」

「うん。でも、ちょっと大変。ヒエンさんを頼っちゃおうかな」

「ヒエンさんなぁ……俺、あの人苦手やわ……」


 初めて聞くその言葉に驚いて、アオイはシオンの顔を見る。

 困ったようなその表情は、確かに多少なり苦手らしい。


「何かされたの?」

「……こないだ、ガルダ行ったやん?その時にな、セルちゃんが横に居るのに、あの人やたらみょんみょんと動く棒を持って話すねん……!なんやあの棒。なんであんなみょんみょん動くんや……」

「あー……」


 どうやらアオイの知らないところで、保護者の威厳を保ちたいシオンVS猫の本能を引き出したいヒエンの戦いが行われていたらしい。

 それはヒエンが悪い。120%くらいヒエンが悪い。


「……今度、セルちゃんが居ない時遊んでな」

「あ、持ってきたんだ」

「またやられたら堪らんからな」


 大真面目な顔で言っているが、これは遊びたいだけである。

 アオイは笑ってそうだねーと言った。

 心が籠っていないと言われて、もう一度繰り返す。


 何度か繰り返して2人で笑い、夜も遅いからと家の中に入る。

 それぞれの部屋の前におやすみ、と言って部屋に入り、ベッドに潜り込む。

 星の綺麗な夜であった。

みょんみょんと動く棒。

これで7章は終わりです。

次はきっと早いはず。早い、はず。

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