9,大きな島
次の島に続いているのは細い通路だった。
大人2人が横に並んで通れるかどうか、と言った広さ。
ツタに覆われ、光は差さないはずだが暗さは感じない。
通路はそう長くもなく、すぐに出口の光が見えてきた。
レークが声を上げて小走りになり、それに伴って助手たちも速度を上げる。
「……コガネ」
「分かった」
少しだけ危険な気がして、アオイはコガネに声をかけた。
コガネは器用にアオイを追い越してレークの背中を追いかける。
アオイも少し距離を置いて4人を追いかけ、ほどんど誤差無く通路を抜けた。
アオイが通路を抜けると同時に、何かの鳴き声が響いた。
声の方向に目を向けると、そこには巨大な鳥がいる。
鳥はこちらを睨んで、勢いよく飛び込んできた。
助手たちがレークの頭を地面に打ち付けるより早くコガネが鳥の胴体に魔法を当て、鳥は力なく落ちた。
地面に落ちる前に鳥は消滅し、レークは勢いよく顔を上げた。おでこが赤くなっている。
「鳥でしたね!」
「でしたねー」
「どこに落ちましたか!?」
「消えたぞ」
「ああああ!!持って帰れない!」
「レーク様、お礼」
「コガネさん、ありがとうございました!」
「ああ」
コガネはアオイを振り返り、どうするか目で聞いてくる。
小さく「待機」と口を動かすと頷いてアオイの横に並んだ。
「今ので終わりかな?」
「ああ。もう魔力は感じない」
「……弱かったね?」
「そうだな。劣化した、という感じはなかった。あれが上限だったんだろう」
「生き物?」
「……いや、違う、と、思う」
動き回るレークを目で追いながら質問を繰り返していると、先ほどより早くレークが戻ってきた。
島の構造も通路の位置も先ほどの島と同じだったらしい。
「次の島が1番大きいですよね!」
「そうですね。……建物も、ありましたっけ」
「楽しみですねぇ!」
子供の様に目を輝かせるレークの姿に思わず笑みがこぼれ、アオイは向かう先に目を向けた。
次の島で襲撃はないと、ないはずの記憶が告げている。
アオイが動くのを待っていたのか、目をキラキラさせたレークと目が合った。
その様子は子供というより餌を前にしたわんこである。
「行きましょうか」
「はい!」
れっつごー!と拳を突き上げたレークに続いて拳を突き上げながら声をあげ、最初よりは幾分か軽い足取りでアオイは進む。
レークが先頭で、その後ろに助手2人が続き、アオイの後ろのコガネがしんがりだ。
次の島への通路も同じような作りで、違いと言ったらツタの張り方くらいである。
やはり通路は長くない。
見え始めた出口の明かりにレークが走り始め、助手たちが慌ててついて行く。
アオイは体力もあり、そこそこの足の速さもあるので難なくついて行き、コガネも余裕の表情でついてきた。
「建物!デカい!」
「これは、畑?」
通路を出て急停止したレークに突撃した助手を避けて止まったアオイは、中央の大きな建物より近くにある耕された土に目がいった。
その声を拾ってレークも目をそちらに向け、その横に崩壊した建物を見つけた。
「これは、入れなそうですね」
「入らなくても中が見えますしね」
屋根は完全になくなり、壁も壊れた建物を確認してから畑の横にしゃがんだレークの斜め上から畑を覗きつつ、アオイは呟きを漏らした。
「……ちゃんと耕されてる。種を植えても問題ない感じ」
「耕した土って、そんなに長く保たれますか?」
「いえ、こんな状態で残ることはあり得ないです。何らかの力が働いてるんでしょうね」
「古代の力だー!」
元気にはしゃぐレークから離れ、アオイはコガネの横に戻った。
レークはベーレスを巻き込んで畑で何かしていたが、満足したのか勢いよく立ち上がった。
「さて!まずは周りの探索をしたいです!」
「はい、じゃあ行きましょう」
「れっつごー!」
「おー」
レークは元気いっぱいに進んでいるが、アルフが軽く息切れしていた。
ベーレスは大丈夫そうなので、コガネはアルフの横を進むことにした。
この程度の距離なら、アオイに何かあっても自分の方が早く動ける自信がある。
「……大丈夫か?」
「はい……すみません」
「いや。……レークは、元気だな?」
「あの人は興味のあるものが目の前にある限りあのテンションです」
「すごいな……」
疲れそうだ、と呟くと、疲れますと返される。
コガネは久々に他人に同情した。
「建物発見!」
「あれも崩れてますねぇ」
前を進む元気のいい2人を眺めつつ、アルフは日陰に避難した。
アルフの体力がないのはレークも知っている。人手が欲しくなったらベーレスが優先的に呼ばれるので、今は休憩である。
せめてそれに時間を使わせないように、今は休むのが優先だ。
「飲むか?」
「あ、ありがとうございます」
コガネから飲み物を差し出され、アルフは勢いよくそれを飲み干した。
カップを返すとまだ飲むかと聞かれて首を振る。
「アオイさんは元気ですね」
「主は体力なら冒険者よりあるぞ」
「それは、登山中も思いました」
楽しそうにレークの行動を眺めるアオイを見ていると、レークがアオイに声をかけてこちらに走ってくる。
アオイも軽く走って戻ってきたので、探索が終わったのだろう。
「アルフ!動けるな!?」
「はい、大丈夫です」
「よし!中央の建物に行きましょう!」
「おー」
言うが早いか駆けだしたレークを追いかけ、アオイも駆けていく。
コガネは気付いた。これ、はしゃぐのが楽しくなってきてるな、と。
アルフはため息を吐きつつ走り出し、コガネもアオイを追いかける。
急ぐ用事などないはずなのだが、何故か全員で走って中央の大きな建物の前に着いた。
アルフが完全に息切れを起こしているが、レークは気付いていないのか一際目を輝かせている。
アオイはそれに気付いて苦笑いして、建物に目を向けた。