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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
7章・天空の島
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5,初飛行

「とまあ、そんな感じです」

「えらく軽く言いましたね?」


 会話の内容を説明して、背中に乗ってみるか聞くとアルフは軽くため息を吐いた。

 そして、少し躊躇ってからドラゴンの頭に手を伸ばす。

 ゆっくりとした手つきで頭を撫でていると、ドラゴンは手に頭を押し付けてきた。


「……乗って、みたいです」

「お、じゃあ、乗りましょう。長の許可も貰いましたし」

「そうなんですか?」

「はい!」


 笑顔で言って、アオイはコガネを見る。

 コガネは頷いて荷物の中からドラゴン用の鞍を取り出した。


「……そんなのあるんですね」

「数年前に作ってもらいまして。便利ですよ」


 ドラゴンは素直に鞍をつけさせてくれた。

 アルフにどこを持ってどこに足をかけるのかを教え、ドラゴンに速度を出し過ぎないように言って少し距離を置く。


 アオイたちが離れたことを確認して、ドラゴンは翼を大きく動かした。

 幼いとはいえ、人を上に乗せて飛ぶ力と体格はある。

 それが目の前で羽ばたいて上昇していくと中々の迫力である。




 空の上に舞い上がって、アルフは恐怖より楽しさを感じていた。

 初めての空の上、初めての「飛行」という行為。

 地面が遠いとか、落ちたら死ぬだろうとか、そんなことは全く気にならない。


 それよりも、思っていたより大陸は狭いとか、必死に移動した距離は実はそんなになさそうだとか、初めて知ったことが脳内を占めていく。


「キュルルッ」

「すまん、言葉は分からん!だが、この景色は凄いな!」

「キュル!」


 アオイは平然と会話をしていたが、普通の人間に別種族の言葉は分からない。

 だが他種族が人間の言葉を理解することは多く、ドラゴンも人の言葉が分かるらしい。

 そう考えると人間の知能などたかが知れているのかも知れない。


「キュウ!」

「なんだ!?」

「キュウッキュル!」

「ダメだ全く分からん!」


 言葉は全く分からないが、ドラゴンも楽しんでいるようだ、とは思う。

 しばらく飛んで、何か合図があったようでドラゴンは降下を始めた。

 ゆっくりと降りて、衝撃も少なく着地する。


「どうでしたか?」


 降りてすぐに駆け寄ってきたアオイに聞かれ、アルフは笑みを浮かべた。


「最高、でした」

「それは良かった」

「キュルル、キュイ!」

「そっかぁー。良かったねぇ」

「なんて言ってるんですか?」

「アルフさんが空からの景色を気に入ってくれて嬉しいそうです」


 ドラゴンの背中から降りると、ドラゴンは甘えるように頭を擦りつけてきた。

 撫でてやると嬉しそうに翼を動かす。

 こういった感情表現はだいぶ分かりやすい。

 嬉しそうならいいだろう、と撫でていると、別のドラゴンが近付いてきた。




 アルフにじゃれつくドラゴンを眺めていると、他のドラゴンたちが寄ってきた。

 近づいてきているのは2頭。どちらも成体だろう。

 アルフを乗せて飛ぶ許可は先に長から貰ってきているので、お咎めではないはずだがどうしたのだろうか。


 話を聞こうと近づいて、誰より先に声を出したのは先ほどアルフを乗せて飛んだ幼いドラゴン。

 話に入るというより、ただ自分の言いたいことを言うだけの行為だったが、他のドラゴンを黙らせる効果はあったらしい。


『兄ちゃん!僕この人乗せて飛ぶ!この人が行きたがってるところ連れてくんだ!』

『いや、おま、え?待て待て、お前、は?』

『僕が乗せる!僕が連れてくの!』

「わーお、何だか意思の疎通が上手く行ってない?」

「アオイさん、これ今何を話してるんですか?」

「ちょっと待ってくださいね、私も認識に時間が……」


 話を聞かずに騒ぐ幼いドラゴンと、話を呑み込めていない寄ってきたドラゴン。

 その間に入り、とりあえずそれぞれの話を聞く。


「えーっと、まず、君はアルフさんを乗せて飛びたいと」

『うん!僕が乗せる!僕が乗せるの!』

「はい、分かりました。で、あなたは何かを伝えに?」

『あ、ああ。こいつが何か迷惑をかけてないかと思って……』

「それは大丈夫ですよ。こちらからお願いしたことなので」

『……こいつ、こうなったら引かないんだよな……』

「こちらとしては願ったり叶ったりですが……困りますよね」


 アオイに聞かれて、ドラゴンは何かを考え込む。

 そして、悩んだ末に長に聞かないとどうにも、と答えた。

 ならもう一度話しに行こう、とアオイが動くと今度はアルフも付いていて、アルフが動いたから幼いドラゴンも付いてくる。


 結果その場にいた全員が移動することになり、長はどうしたのかとそちらに顔を向けた。

 何か問題があったか聞かれ、そうではないと首を振る。


「すみません、先ほどの話なのですが……」

『長!僕この人乗せる!乗せて飛ぶ!』

『ふむ……だが、お前はまだ幼い。外に出るのは……』

『やだ!僕がこの人乗せて飛ぶの!』


 地団駄を踏んで我が儘を言う姿はまさに子供。

 そして、ドラゴンでも孫には弱いらしい。

 最終的には幼いドラゴンの粘り勝ちである。長が折れて、天空の島まで乗せて行ってもらう許可が出た。


 アルフが乗るドラゴンは決まっているが、他の4人が乗る子を決めなくては。となりそれには先ほど寄ってきたドラゴンたちが名乗りを上げてくれた。

 目的は果たされたので、報告も兼ねてそのままリコリスに戻ることになった。

 アオイはコガネに引き上げて貰ってドラゴンの背に座りながら、久々の飛行に心を躍らせた。

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