15,杖作り
その日、セルリアははしゃいでいた。
どのくらいはしゃいでいたかというと、アオイを起こす3人に混ざりこむくらいにははしゃいでいた。
今日は祭りが終わって薬屋が大繁盛した翌日である。
今日から、色々な店が開き始める。
薬屋の方もまだ客足は多いが、サクラとモエギが店番をしているらしい。
そのため、アオイとコガネの手は空いている。
ついでに言うと、今日はモクランの休みの日らしい。
「セルちゃーん、行くよー」
「はーい!」
アオイに呼ばれてリビングから店に飛び出す。
エキナセアはまだ開店前、客はいない。
サクラとモエギが開店準備をしているだけで、あとはアオイが扉を開けて待っていた。
セルリアとシオンが扉から出ると、コガネとモクランが立っている。
モクランの事は苦手ではないが、積極的に話しかけようとも思えない。
アオイがモクランといると楽しそうなので、悪い人ではないことは知っている。
「じゃ、行こうか」
「はい」
モクランの先導でガルダ内を進み、走っている路面列車に乗り込む。
セルリアは初めて見るその乗り物に興味津々で、窓の外を眺めたりイスの上で軽く跳ねたりしている。
「……君も最初こんなだったよね」
「思い出さないでくださーい」
あれこれ話しているうちに列車は進み、西区に着いたところで降りる。
ガルダの国内は4つの区画に分かれており、それぞれ東西南北で呼ばれている。
大通りのある冒険者の多い区画は南区、クリソベリルの拠点があるのは東区、今いる西区には職人街と呼ばれる武器や防具を作る工房の多い通りがあり、ここも冒険者でにぎわっている。
今回ここに来たのはセルリアの杖を作るためである。
モクランが使っている杖を作った職人がここに居るらしく、案内をお願いしたのだ。
職人街、冒険者が多い、と並ぶとなんだか治安が良くなさそうだが、店の親父たちが強いおかげで治安は保たれている。
モクランが向かった店は狭い隙間に入口だけがある不思議な店。
扉を開けるとまっすぐに廊下が伸びているので、通りに接しているのは入口だけで、店は通りから外れているらしい。
「すごい形のお店ですね?」
「まあ、そうだね。最初は入るのためらう人が多いらしいよ」
話しながら狭い廊下を奥に進むと、空間が開けた。
店内は太陽光の入る明るい作りで、壁には大量の杖がかけられている。
「ん?モクラン?なんだ、壊したなんて言わないよな?」
「まだ壊してないよ。俺じゃなくて、この子」
店主は若い男性だった。だが、若いのは見た目だけである。
男性の額には魔石が光っていて、微かに見える首元も魔石で構築されている。
特殊な種族なのだとモクランから聞いていたため、アオイはそこまで驚かなかったが、セルリアは驚いたようでモクランに押し出されたまま固まっている。
「なんだ、風か?まあいい。杖を作るのは初めてか?」
「あ、はい……」
「なら、少し失礼するぜ」
男性はセルリアの手を取って額をつけた。
シオンが一瞬動いた。過保護である。
セルリアは抵抗せずそれを見つめていた。男性の額の魔石が淡く光っている。
「……あー……これは、あれだな、何をしたいか、だな」
「なに?そんなに自由が利くの?」
「ステッキはやめた方がいい。どっちか極端な方が楽なはずだぜ」
男性はセルリアの手を放して、まっすぐに目を見た。
「お嬢ちゃん、魔法を使って何がしたい?」
「えっと、えっとね……」
「別に怒りも笑いもしねえから、素直に答えな」
「えっとね、お空、飛びたいの」
「なら、ロングステッキだな。多分飛べるぜ、お嬢ちゃん」
「ほんとう!?」
「嘘は言わねえよ」
男性はスッと立ち上がり、壁に立てかけてある杖を3本ほど持って戻ってきた。
1本づつセルリアに渡し、何かを確認するようにじっと見つめる。
「……とりあえず、今はこれだな。もっと成長したら別のやつが良いかもしれねえが、今はこれで慣れた方がいいと思うぜ」
その杖は、ロングステッキのなかでは短いのだろうがセルリアの身長よりは大きい物。
セルリアはその杖を見つめ、キラキラとした目でアオイとシオンと男性を順に見渡した。
「コガネ?」
「いいと思うよ。私、杖の事はよく分からない」
「モクランさん?」
「杖ならあいつの方が詳しいよ」
「じゃあ、これで。セルちゃんもいいかな?」
「うん!」
セルリアは杖をしっかり握り、大きく頷いた。
アオイが代金を払っている間に何かモクランと話しており、そちらに意識を向けていると男性に話しかけられる。
「あんた、魔法はそんなでもなくてもなんかデカい力を持ってんだろ?」
「……そんなに分かるものですか?」
「俺は魔石が反応するからだ。ほかの奴は分かんねえよ」
「なら、まあ、安心……」
「で、本題だ。あの嬢ちゃん、多分本気を出せば程度の低いロングステッキ何て魔力量で壊すぜ」
「へ?」
「必ずうちに来いとは言わねえが、杖の買い替えの時は気をつけな」
言いながらお釣りを渡されて、アオイは混乱した。
杖が魔力量に負ける、という話は聞いたことがない。
リングは壊れるが、あれは元々耐久力が低いからである。
杖と呼ばれる3種が壊れるなど、相当な魔力をつぎ込まないと起こせない現象だ。
セルリアの魔力が強いことは聞いていたが、そこまでとは思っていなかった。
考えていると、コガネに声を掛けられる。
「主?」
「あ、ううん。何でもない。行こうか」
「うん」
心配そうにのぞき込んで来るコガネに笑って返し、思考を切り替える。
もしや、うちの子すごいのでは?
そう考えていると、楽しくなってくるのだから単純だ。
セルリアに何から魔法を教えるべきか話していたらしいモクランとコガネがアオイに意見を求めてきたので、全てを丸投げする宣言をしてアオイは列車の外に目を向けた。
6章はここで終わりです。次はいつになるかなぁ……
今月中には上げたいものです……
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