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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
6章・収穫祭
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14,収穫祭

 昼が近くなるにつれ、ガルダ内は賑やかになっていく。収穫祭とは言っても、別に何の収穫を祈る訳でも感謝するわけでもない。ただ、国で開催される大規模な祭りである。

 今は昼。出店も開き始め、回るのが楽しい時間だ。

 ただ、人の量がすごいので逸れないよう注意が必要である。


 あまりの人の量に小鳥組は小鳥になってアオイの肩に止まっている。

 シオンも動きたくなさそうだったが、セルリアが居るのに猫状態になることは出来ないようだ。

 セルリアは人が多いのも平気なようで、人混みから微かに見える出店を見て楽しそうにしている。


「あ、焼き鳥」

「買う?」

「うん。塩で」

「はいはい」


 アオイは例年通りの回り方をしており、時々声を掛けられて返事をしている。

 今日は休みの店が多いが、土産物などを売る店はいつも通り開店して売り上げを伸ばしているようだ。

 それで思い出し、アオイはコガネに声をかけた。


「コガネ、ワックスフラワー行こ」

「いいよ。焼き鳥は?」

「食べてから行こう」

「うん」


 ガルダに住んでいたころよく行っていた店は、今日も開店しているはずである。

 店主とも仲の良かった店なので、来たら顔を出そうと思っていたのだ。

 セルリアも好きだろうと思うので、とりあえず焼き鳥を食してから大通りを進む。


 人波に流されかけていたら、いつの間にやら前にトマリが立っていた。

 無言で進むトマリの後ろに1列に並んでついて行くと、目的地の前に出る。


「おお、ありがとうトマリ」

「おう」


 それだけ言ってトマリは影の中に入って行った。

 今更だが、来ていたのか。

 トマリが入って行った影を眺めながらそんなことを考え、まあ、来ていても不思議ではないからと店の扉を開けた。


「こんにちはー」

「あら、アオイちゃん。いらっしゃい」

「お久しぶりです、アリアさん」

「あ」


 この店、ワックスフラワーは髪飾りやネックレスといった装飾品を製作、販売している店である。

 店員はアリアだけで、店は小さいが商品の繊細な作りに人気があり、繁盛している店だ。

 今は他に客がおらず、その為かセルリアの小さな声が聞こえた。

 どうしたのかとセルリアを見ると、セルリアはアリアをまっすぐ見つめている。


「アオイちゃん、その子は?」

「あ、セルリアです。妹です」

「そうなの。こんにちは、初めましてセルリアちゃん」

「初めまして……あの、あの、目の色……」


 なぜアリアをじっと見ているのか不思議に思っていたが、その言葉で納得する。

 アリアの目は緑の入った銀色。ちなみに髪も同色だ。

 アリアはその言葉に一瞬何かを考え、すぐににっこりと笑った。


「ええ、私も緑色よ。お揃いね」


 その言葉に、セルリアの表情がぱあっと明るくなった。

 おそろい!と嬉しそうに言ったセルリアに、好きなものを選ぶよう言って店内を回らせると、セルリアは目をキラキラさせてそちらに釘付けになる。


「妹、なんて急に言うから驚いちゃった」

「えへへ、ごめんなさい」

「でもまあ、何となく事情は察したわ。……それより、今回はいつまでガルダに居るの?」

「5日くらいです。色々しようかと思ってて」

「そうなの。じゃあ、暇が出来たら遊びに来てね。やっぱりアオイちゃんがいると作りたい物が思いつくのよ」

「そう言われると連日お邪魔したくなる……」

「あら、いいわよ?」


 ふわりと笑って言われて、少し見惚れる。

 サラサラと流れる綺麗な髪と、同じ色の目が優しく細められてセルリアに向いた。


「目の事、気にしないで過ごせるようになればいいわね」

「そうですね。……綺麗な色なのに、隠してちゃ勿体ないですから」

「そうね。あの色の組み合わせは、とっても綺麗ね。飾り、作ろうかしら」


 何か考えて楽しそうに笑ったアリアにもう一度見惚れ、アオイはポンッと手を叩いた。


「そうだ、ウラハにお土産にって思ってたんです」

「あら、そうなの?」

「はい!」


 この店の商品は全てアリアの手作りで、とても綺麗な作りをしている。

 アオイのよく着けている髪留めも、コガネの髪留めもこの店で買ったものだ。

 ウラハにはどんなものが似合うだろうか、と考えて店の中を見て回る。


 セルリアはシオンに抱き上げて貰って商品を見ているようだ。

 髪が伸びてきたし、纏められるものがあれば良さそうだと思った時にパッと思い浮かんだのがこの店だったので連れてきたが、予想以上に楽しそうだ。

 案外、アオイと趣味が似ているのかもしれない。


「セルちゃん、どんなのにするか決まった?」

「うーんとね、水色とね、紫のがね、可愛かったの」

「へえ、どれ?」

「あれー」


 セルリアが指さす先にあったのは、薄紫と水色の花で彩られた髪留め。

 愛らしいそれは、中々アオイの好みである。

 そして、この色合いを見ていると何か思い出すものがある。


「アオイ姉さまは?何探してるの?」

「ああ、ウラハのお土産をね」

「ウラハねえの?」

「うん」

「私も一緒に探す!」

「じゃあ、先にセルちゃんの髪留めを選んじゃおうか」

「うん!」


 元気に返事をしたセルリアは真剣な眼差しで髪留めの飾られた棚を見ている。

 この前も紫の魔石がはめ込まれた魔道具を選んでいたが、紫が好きなのだろうか。

 中々渋い趣味だ、と思うが、何となく似合うのでアリなのだろう。


 その後数十分悩み、セルリアが選んだのはアジサイのようにたくさんの小さな花と葉っぱの付いた薄紫の髪留め。

 試しに着けさせてもらったところ、これがとてもよく似合う。

 淡い色は大体似合うのでは、とモエギが言っていたが、そうかもしれない。


「これにする!」

「うん、似合ってるで」


 セルリアが嬉しそうなので、会計を済ませて着けたままウラハのお土産を探す。

 アオイとセルリアが真剣に選んでいるからか、シオンとコガネは暇そうである。

 だが2人共楽しそうに動くアオイとセルリアを見て微笑んでいるので、これもありなのだろう


「決まった?」

「「決まった!」」


 2人の相談も終了し、ウラハのお土産のネックレスも購入する。

 アリアに手を振って外に出て、再び大通りで人に流される。

 祭りはまだまだこれからである。

 もっといろいろ見て回らないと損だろう。

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