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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
6章・収穫祭
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13,クリソベリル

 朝、アオイが目を開けるとコガネとモエギとサクラが並んで顔だけベッドの縁に乗せていた。

 驚いて飛び起きると、成功だーと走り去っていく。

 ガルダで過ごした記憶のある3人は、遊びに来ると子供の様なことをする時がある。

 今日のはヒエンの入れ知恵な気もする。後で問いただそう。


 アオイが寝ていた部屋は、エキナセアに居た時アオイが使っていた部屋である。

 そのまま残されていて、アオイは来るたびにここを使っている。

 今回は人数が増えたので宿を取らないといけないかと思っていたが、2階に部屋増設されていた。建物の外観は変わっていない。軽々と時空を歪めないでほしい。


「おはよう、アオイちゃん」

「おはよーございます。朝のあれはヒエンさんの入れ知恵ですか?」

「さあ、何のことだか~」


 音符でも飛んでいそうな口調で言われて、何となく少しだけイラっとした。

 この人は分かっていてそういった口調を使うことがある。

 そんなんだからモアさんに殴られるんだ。などと考えていると、コガネが寄ってきた。


「主、早く行こう」

「お祭りまだでしょ?」

「クリソベリルはもう出てるよ」

「お、じゃあ行こう」


 朝食を手早く食べて外に向かうと、カウンターの内側にシオンとセルリアが座っていた。

 リコリスでも基本そこに居るから落ち着くんだろうか。


「セルちゃん紹介しなきゃ」

「ああ、そうやねえ。行こか、セルちゃん」

「うん」


 セルリアも連れて外に出る。

 祭りはまだ始まっていないが、出店の用意をしている人向けの店は始まっているようだ。

 祭り会場になる時計塔の近くに向かうと、人が集まっている場所があった。


 見慣れた後姿に声をかけると、そのうちの1人が勢いよく振り返ってすごい速さで近づいてくる。

 気付いた時には腕の中に納まっていた。


「久しぶりね!アオイちゃん!」

「お久しぶりです、アヤメさん」

「はあ、いつ見ても可愛いわ。少し髪が伸びたかしら、前の髪型も可愛かったけど今のもすごく似合ってるわ」

「ありがとうございます」


 アオイを抱きしめて当然のように話し始めたこの女性は、クリソベリルのメンバーである。

 とても強いし普段はクールビューティーな人なのだが、可愛いものに目がない。

 そのせいでアオイやコガネと関わると暴走する。ちなみに、会えなくなるからとアオイの独立に反対し続けた人である。


 そんなアヤメはスッとアオイの後ろに目を向け、セルリアの前にしゃがんだ。

 目線を合わせてニコニコと笑い、驚いているのか固まったセルリアに声をかける。


「貴女がセルリアちゃんね。モクランが言ってたわ。可愛いわー、髪色と目の色がいい組み合わせね。将来美人になるわ私が保証する」


 声をかける、というか、独り言だった。

 セルリアが驚きで固まる中、アヤメの後ろに人影が現れた。アヤメは気付いていない。


「あ、お久しぶりです、リーダーさん」

「よお、久しぶりだな。すまんなアヤメが」

「いえいえ」


 話している間にクリソベリルのリーダーはアヤメの首根っこを掴んで引きずって行った。

 抵抗する間もなく引きずられていくアヤメを見送りながら、逆に近付いてきた人たちに挨拶をする。


「お久しぶりです、ジェードさんツルバミさん。モクランさんはこんにちは」

「やあ、……この子、目つき悪い人大丈夫?」

「大丈夫ですよー、トマリで慣れてます」

「ああ、なるほど。良かったねツル」

「別に子供と関わりたいわけじゃねえんだけど……」

「怖がられるよりいいでしょ?」


 コガネはジェードに懐いており、スススっとそちらに寄って行った。

 セルリアはツルバミの持っている杖が気になるらしく、それをじっと見つめている。

 ツルバミはクリソベリルでも随一の水魔法の使い手であり、高い背よりも大きな杖を持ち歩いている。

 セルリアの目線に気付いたのか、ツルバミは無言でいくつかの水の玉を空中に浮かべ、セルリアの周りを彷徨わせ始める。


 セルリアは目を輝かせて水を追いかけてクルクル回っている。

 ツルバミの操作が上手いのか水は掴まる寸前で逃げていき、セルリアは楽しそうに笑った。

 シオンはそれを微笑ましそうに眺めながら自分の腕をしっかりと握った。

 正直その水を追いかけたいが、ここは我慢である。保護者のプライドは猫の本能に負けてはいけない。


 シオンが自分との闘いを始めたのを横目に、アオイはモクランに話しかける。

 水を目で追っていたモクランはアオイに呼ばれて向き直り、どうしたのか目で聞いてきた。


「今日から数えて5日の間に、お休みってありますか?」

「あるよ。どこ行きたいの」

「時計屋さんに……」

「まだ道覚えてないんだ?」

「えへへ……」


 笑ってごまかしながら目線をセルリアに戻すと、セルリアは水の玉を1つ捕まえたところだった。

 潰さないように手でそっと囲みながら嬉しそうにツルバミに差し出している。

 ツルバミはセルリアの頭をわしゃわしゃと撫でて、手の上に乗った水の玉を消した。


「……ツルバミさんとかモクランさんの杖って、どこで作ったんですか?」

「ツルのは知らないけど……俺のはガルダの職人街だよ」

「へぇ……」

「杖作る気になったの?」

「私のじゃなくて、セルちゃんのです」

「ああ、魔法能力高そうだもんね、あの子」


 そんな会話をしていると、リーダーが集合をかけていた。

 引き留めるわけにもいかず見送り、一旦エキナセアに戻る。


「……セルちゃんの紹介を、と思って出てきたはずなのに、話してただけだったな」


 気付いてしまったが悔やんでも遅いので、紹介にはなっただろうと無理やり納得する。

 セルリアが楽しそうだったので、まあいいだろう。

(私が)大好きクリソベリル!!

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