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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
6章・収穫祭
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10,一月後

 セルリアは朝起きてぐっと伸びをした。

 そしてベッドから降りて、クローゼットを開く。

 最近増えた服を取り出し、着替えて猫のぬいぐるみを抱える。


 リビングに降りると、珍しくアオイが起きてきていた。

 珍しいと思って駆け寄ると、眠たげに微笑まれる。


「おはよう、セルちゃん」

「おはよ、アオイ姉さま。今日は早起き?」

「うん……もうすぐ、ガルダの収穫祭だからね……行くための準備があってね……」

「しゅうかくさい。お祭り?」

「うん。一緒に行こうね……」

「うん!」


 セルリアが嬉しそうに笑うと、アオイもふわりと笑った。

 そして欠伸を噛み殺す。

 そんなアオイにコガネがお茶を差し出し、アオイはそれを受け取ってゆっくりと飲み始めた。


「主、零れる零れる」

「大丈夫、だいじょーぶ」


 心配そうに見守るコガネにふにゃりと笑って、アオイはカップの中身を飲む。

 少しづつ飲み進めて、空になるころには目も覚めたようだった。


「おはよう、主」

「おはよう、コガネ。今日は色々作るから手伝ってくれる?」

「もちろん」


 そんな話をしている間に朝食が出来上がり、アオイは席についてぼんやりと考える。

 私、これ相当なダメ人間生活してる気がする……いやでも、昔に比べたら全然か。まだ真人間、真人間。

 すまし顔でそんなことを考えながら、朝食に手を付ける。


 今日も今日とてご飯が美味しいので生きていける。

 はあ、美味しい。モエギが契約獣で良かった。

 考えながら朝食を完食して、コガネを連れて作業部屋に向かう。


 やらなくてはいけない作業はほとんどが簡単な薬作りなので手早く作業を進めてしまう。

 ビンに入れる作業はコガネに任せ、2つ並んでいるナベを両方使って一気に終わらせる。

 できれば午前中に終わらせてしまいたかった。


「ひーん」

「どうしたの?」

「かき混ぜるの面倒……」

「頑張れ」

「はーい……」


 師匠は魔法でやってたな、などと思いながら手動でナベをかき混ぜ、せっせと必要なものを作る。

 なぜ在庫が一気になくなるのか。

 なぜ同時なのか。せめて1種類づつにして欲しかった。


 心の中で文句を言ってみても作業は減らないので手を動かし、泣き言を吐きながら作業を進める。

 ああ、辛い。腕が辛い。日頃サボるからこうなるのだとは分かっているが、辛いものは辛い。


「ほら主、もう少し」

「もう少しぃ……」


 どうにか午前中に作業を終わらせてリビングに向かい、倒れるようにソファに座る。

 モエギがすぐに寄ってきてお茶を置いてくれたので、身体を起こしてそれを啜りながら横に座ったコガネに体重を預けた。

 コガネもアオイに体重を乗せてきたので、何となく絶妙なバランスを保ってお互いに寄りかかる。


「コガネ」

「なに?」

「ガルダ、久々だね」

「そうだね」

「いろんな人に会えるね」

「うん」


 会話に特に意味はないのだが、何となくダラダラと話し続ける。


「師匠もガルダに行ったからね」

「そうだったね。会わないとね」

「まあ、普通に会うと思うけどね」

「そうだねぇ。住まいが住まいだからねぇ」


 コガネの錬金術の師匠もいるし、アオイの薬学の師匠もいる。

 ガルダにはそこそこ長く住んでいたから、懐かしい人がたくさんいる。

 みんなに会って、セルリアを紹介しなくては。


「アヤメさんにセルちゃん会せたら暴走しないかな?」

「……しそう」

「抑えなきゃ」

「まず抱き着かれるのは主だけどね?」

「それはいいんだよ。もう慣れたよ」


 コガネも抱き着かれるよ?と言えば、コガネも慣れたと返してくる。

 サクラは抱き着かれても抱き着き返して楽しそうにはしゃぐし、問題はない。

 モエギは一時停止するが、まあ、脱出できるし問題ないだろう。


「セルちゃんがビックリするだろうからなぁ」

「アヤメも、そうすぐに抱き着きはしないと思うよ」

「そうだよね。紳士だもんね」

「女だけどね?」


 ぼんやりと続く会話は昼食の時間になったことで終わり、昼食を食べた後はコガネがやることがあるのでアオイは1人になる。

 特にすることも思い浮かばなかったので書斎に入って放置していた資料の片づけを開始し、やっているうちに細かいところが気になり始めて大掃除になった。


 大掃除も夕方までには終わり、アオイは外に出て沈む夕日を眺めていた。

 ガルダの収穫祭は、キマイラの祭りのちょうど一月後。

 盛大に行われる祭りではしゃいだ大人たちが、祭りの翌日に薬を買いに訪れるまでが祭りという認識だった。


「今年もお手伝いしようかなぁ」


 ぼんやりと呟いて、昔を思い出してクスリと笑う。

 今も楽しいが、あの頃も楽しかった。

 今から行くのが楽しみである。

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