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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
6章・収穫祭
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9,帰宅

「じゃあ、またね」

「はーい。また来ますね」


 朝、レヨンに見送られてキマイラを出発する。

 来たときと同じように馬に跨り、手を振ってキマイラから出た。

 行きと違ってセルリアが馬に多少慣れているので、行きよりも速度を出して進む。


 荷物は少し増えたが、そのくらいは誤差である。

 アオイはコガネに体重を預け、ゆっくりと考える。

 結局キマイラ滞在中トマリの姿を見なかったが、来ていなかったのだろうか。


「主」

「うん?」

「関所」

「はーい」


 気を抜いていたら、いつの間にか関所まで来ていたようだ。

 特に何の問題もなく通り抜け、そのまま迷いの森に入る。

 かなり順調に進んだが、気付けば昼過ぎである。


 第4大陸に入った時点でモエギとサクラは先に飛んで戻っており、帰ったら遅めの昼食になるようだ。

 森の中は進みにくい。普段から行き来しているコガネは道も覚えているようでスルスルと進むが、引きこもっているシオンは少し大変そうだった。


 それでもコガネの後ろに続いて順調に進み、リコリスに到着した。

 馬を返しに行くのは明日にして、家の中に入る。

 リビングにはサクラがいて、何か荷物を運んでいるようだった。


 モエギとウラハが昼食の準備をしていて、トマリの姿は見えない。

 アオイたちが帰ってきたことに気付いて、ウラハは作業の手を止めて出迎えてくれた。


「おかえりなさい、マスター」

「ただいまー。お土産いろいろ買ってきたよー」

「ありがとう。セルちゃんも、おかえりなさい」

「ただいま!」


 ウラハに飛び着いたセルリアを抱え上げて手を洗いに行ったシオンを見送り、アオイはウラハに向き直った。


「セルちゃんに魔法を教えようって話になったの」

「そうなの。でも、そうね。早い方がいいかもしれないわね」


 納得したように頷くウラハに笑いかけ、その肩越しにキッチンを覗く。


「ところで、ご飯はなーに?」

「ふふっ。その前に手を洗ってらっしゃい」

「はーい」


 背中を押されて、手を洗いに行く。

 途中シオンとセルリアとすれ違った。

 コガネは荷物を部屋に運んでいるようだ。


 手を洗ってリビングに戻ると、昼食が出来上がっていた。

 促されてイスに座り、全員そろってから手を合わせる。

 食べながら祭りの内容などあれこれ話し、少ししてからウラハがポンッと手を叩いた。


「そう、マスターに手紙が来てたのよ」

「手紙?誰から?」

「開けてないけど、手紙だけ飛んできたから多分……」

「うん。分かった。そんな事する人1人だもんね」


 そもそも私に手紙送ってくる人なんて少ないもんね、と続けてアオイは席を立った。


「ご馳走様、美味しかったよ」

「良かったです。お皿は置いといてください」

「はーい」


 部屋に置いておいたというので、手紙を取りに向かう。

 その途中でトマリが現れ、何か渡してきた。


「なあに?」

「俺の知り合いからだ。まあ、見るだけ見といてくれ」


 それだけ言って陰に入って行ったトマリを見送り、受け取った小箱を開ける。

 中には綺麗な魔石とメモが入っていた。

 メモの内容は、


《きっとあなたが一番上手く使ってくれると思う。

 どう使うかは任せるので、悪い方に回らぬように》


 とだけ書いてある。

 誰からの贈り物なのかも分からないが、まあ受け取っておこう。

 きっと、どこかで必要になるのだろう。


 魔石の質と内容については後でコガネに聞こう。

 そう考えながら小箱の蓋を閉める。

 部屋に入ってその箱を机の上に置き、置いてあった手紙を手に取った。


 手紙の内容と送り主は予想通りで、この人になら返事は要らないだろうと読み終えた手紙は机の引き出しにしまう。

 その後は特に予定もないので部屋に運ばれていた荷物の荷解きを始め、あらかた片付けてフッとため息を吐いた。

 出かけるのも、そこで久々に知り合いに会うのも楽しいが、やはり自分の部屋が落ち着く。


「あー……やる気あるうちに新薬開発進めるかなぁー……」


 ぼんやりと呟いて、中途半端な状態で放置していた記録を引っ張り出す。

 今ならやる気がある気がする。

 今なら。今ならこれも進む気がする。


「やるか!」


 勢いをつけて立ち上がり、記録を持って作業部屋に向かう。

 作業部屋に入る前にリビングに居たウラハにお土産を渡し、少し話してから作業部屋の扉を開けた。

 記録を机の上に放り、棚を開けて中から花の種を取り出す。

 

 それを複数のビンに1粒づつ入れ、中にそれぞれ別の液体を注ぎ込む。

 置き場に迷って外に持ち出し、コガネを見つけて相談する。

 コガネがその場で台を作ってくれたのでその上に置き、それだけで作業に飽きたのでコガネと昼寝をすることにした。


「主」

「なあに?」

「流石に飽きるのが早いと思う」

「いや、ほら、あの、続きは時間がかかるから……」

「ガルダに行くまでに出来るところまでやろうね」

「は、はい」


 にっこり笑って諭され、アオイは逃げるように目を瞑った。

 午後の温かな日差しに包まれ、アオイは幸せそうに笑った。

 その顔を見て、コガネも困ったように優しく笑い、その横に寝転がる。


 ほどなくして2人共寝息を立て始め、それに気付いたサクラが寄ってきてコガネとは逆のアオイの横に寝転がった。

 夕方モエギに起こされるまで3人の昼寝は続き、アオイは起きた時にはそれまで話していた作業の事など覚えてはいなかった。

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