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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
6章・収穫祭
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8,隠れ家的な

 祭りの翌日、セルリアは朝からはしゃいでいた。

 というのも、昨日出た話「セルリアの杖会議」を本人に聞いてみたのである。

 セルリアは魔法を教えてもらえるということにはしゃいでおり、杖の製作は早めに、という話になった。


「セルちゃん、どんな魔法が使いたいん?」

「えっとね、えっとね、本に書いてあった、お空を飛べるやつ!」

「ああ、ええねえ。練習したら出来ると思うで」

「ほんとう!?」

「うん」


 嬉しそうに飛び跳ねるセルリアを見て、レヨンは若いなーと呟いた。

 そして眩しそうに目を細める。

 その姿は、どことなくおばあちゃん感があった。


 その横で眠そうに茶を啜っていたアオイは、ゆっくりと頷いた。

 この2人の間に流れる空気だけ、流れがゆっくりだった。


「アオイちゃんは魔法使えるんだよね?」

「攻撃からっきしですけどね」

「はは、ぽいぽい」

「レヨンさんは使えるんですか?」

「使えるよ。3分の1エルフだもの」

「使ってるところあんまり見ないですけど」

「飛ばす系苦手なんだ。基本自己強化」

「なるほど」

「纏わせるのは出来るんだけどねー」


 言いながらレヨンは投てき用の細いナイフを取り出した。

 慣れたように手の中で回しているそれに魔力を纏わせ、人のいない方に向かって投げる。

 ナイフは綺麗に飛んでいき、柱に刺さった。

 魔力はまだナイフに留まっている。


「お見事」

「まあ、これくらいは出来ないとね。この国魔物入って来るし」


 緩く言いながら立ち上がってナイフを回収したレヨンを目で追いながら、アオイはふと思い出したことを口にした。


「そういえば、新刊いつですか?」

「ああ、あれねー。もうちょい」

「早くー」

「はいはい」


 笑って頭を撫でられ、軽く机を叩いていた両手を止める。

 レヨンの書いた本はほとんどリコリスに揃っている。

 読みやすいし、面白いのだ。


「さて、アオイちゃんたちは今日予定ないんでしょ?」

「はい。自由散策にしようかと」

「じゃあ、アオイちゃんは私と出かけようか」

「どこに行くんですか?」

「ついてからのお楽しみー」

「私も」

「おっけーい。3人で行こう」


 コガネも同行するらしく、レヨンさんに2人でついて行くことにした。

 以前はキマイラに来たときは錬金術の師匠に会いに行っていたコガネだが、師匠の住居が別の国に移ったので特にやることがないらしい。


 セルリアとシオンはキマイラの探索するらしく、モエギとサクラは行きたいところがあるらしい。

 つまりは、昨日と同じで自由に動く形になるのだ。

 一応昼食代を渡し、きちんと食べるように言って送り出す。


 レヨンは家でお昼を食べてから出かけるようで、それまではいつも通りダラダラと駄弁る。

 同郷であるが故の話もしたりして、時間はあっという間だ。

 お昼を食べて少ししてからレヨンに促されて外に出る。


 先導するレヨンについて行きながら、アオイは1人で帰れないだろうと思った。

 キマイラは地形が凸凹で、整地をしないで建物と道が造られているせいでとても入り組んでいるのだ。

 それが故に探検が楽しいのだが、まあ移動は面倒くさい。


「そろそろだよー」

「お?どこですか?」

「あの建物」


 レヨンが指さしたのは、今立っているところから見ると低い場所にある小さな建物。

 階段を下ってそこまで行くと、手入れが行き届いた花壇がお出迎えしてくれた。

 パッと見お店には見えないが、レヨンが連れてくるということは何かの店なのだろう。


 扉を開くと、いい香りが漂ってきた。

 入っていくレヨンの後ろに続き、中を見る。

 そこには、綺麗に並べられた可愛らしいケーキが並んでいた。


「わあ……」

「最近のお気に入りの場所なんだ」

「いいですね、可愛いですね、美味しそうですね」

「ゆっくりお選び」

「主、主、何にする?」

「せっかくなら別のにしよう。一口づつ交換しよう」


 きゃっきゃっと歓声を上げながら色とりどりのケーキを見ていると、店員らしい女性とレヨンが話してる声が聞こえてきた。


「いらっしゃいませ」

「どうも」

「いつもの、ですか?」

「うん。飲み物もそれで」

「はーい。……それにしても、可愛いお連れ様ですね?」

「でしょう?友人だよ」


 その声を聞きながらコガネと相談し、ケーキをそれぞれ頼む。

 店内で食べていくなら、とドリンクメニューも渡され、それはさほど悩まずに決めた。

 レヨンに誘導されて席に座ると、窓からはキマイラの凸凹ながら整備された道と建物が見えた。


「いいですね。こういう小さいお店」

「隠れ家的な店を探すのが楽しくてね。最近はそんな事ばっかりしてるよ」

「また教えてくださいね」

「アオイちゃんになら、いくらでも」


 にこりとわたって言われ、笑って返すとケーキが運ばれてきた。

 飲み物を口に運び、フォークを手に取る。


 コガネのものは赤い木の実が練りこまれ、上にも乗っている丸いケーキ。

 アオイのものは白いクリームがたっぷりと塗られ、様々な果実の乗った細長いケーキ。

 レヨンのものはおそらくビターチョコレートが混ぜてあるのであろう大人じみたケーキ。


 嬉しそうにケーキを頬張る2人にそれぞれ一口づつおすそ分けをすると、お返しにそれぞれのケーキが一口帰ってきた。

 結果3人とも3つのケーキを一口は楽しみ、食べ終わると満足そうな、少し物足りなそうな息を漏らした。


「……また、連れてきてくださいね」

「もちろん」


 レヨンの返事にアオイは嬉しそうに笑い、茶を啜った。

レヨンさんはオサレなお店をたくさん知ってるイメージがあります。

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