7,明るい夜
昼は自由に回っていた祭り会場で、夕方に全員を集める。
全員何か欲しかったものを買ったのか、ニコニコしながら集まってきた。
特にモエギはニッコニコである。
「みんなご飯食べた?」
「食べてないです」
「串焼きつまんだくらいやね」
「じゃあ、何か食べようか」
その一言でぞろぞろと移動し、休憩用に用意されているテーブルとイスと確保する。
食事というほどのものでもなく、各自食べたいものを買い食いするだけなのだが祭りというのは雰囲気だけでも楽しいものだ。
アオイなんかは買い食いこそ祭りだと思っているので、あれこれつまんでコガネに窘められたりしている。
そんなことをしているうちに日は落ちてきて、会場はダンスパーティーの雰囲気になってくる。
流石にそろそろセルリアを居させる訳にはいかなくなってくる時間である。
小鳥組がセルリアと共に先に帰って待っているらしいので、レヨンから鍵を受け取り家に向かっていった。
「さーて、これからは大人の時間だー!」
「レヨンさん、さては飲む気ですね?」
「ダメかい?」
「いいですけど、レヨンさん酔わないですよね?」
「酔うから飲むんじゃない、飲みたいから飲むんだ」
「分からない……」
成人はしているが酒は飲まないアオイは、祭りのたびにワインやその他の酒を開けているレヨンの気持ちはよく分からない。
かなりの量を飲んでいるはずなのに酔っている姿を見た事がないので、おそらくレヨンは何かが狂っているのだろう。
ダンスパーティー中はアオイは基本人に声を掛けられては断り、掛けられては断りを繰り返す形になる。
ダンスも一通り踊れはするのだが、踊る相手がいないので今日は保留だ。
コガネが男の姿を取っていれば踊ることもあるが、今日のコガネは可愛らしい少女の姿である。
モエギが作ったレースの多いワンピースに身を包んだコガネは実に愛らしい。かわいい。撫で繰り回したい。
「シオンは飲まないの?」
「んー?まあ、今日は別にええや」
「そっか」
その判断基準も、よく分からない。
だが、シオンがいいというのだからいいのだろう。
ちなみにレヨンはもうビンを1つ開けている。早い。
「ああ、そうだ。ところでなんだがねアオイちゃん」
「なんですかー?」
「セルリアちゃんは、人間かい?」
「へ?」
質問の意図が読めず、首を傾げた。
冗談には聞こえないし、レヨンはこんな冗談を言うタイプではない。
真剣な表情で聞いてくるレヨンに答えたのは、アオイではなくシオンだった。
「人間やで」
「うーん、そうか」
「え、うん?」
「ああ、ごめんね」
アオイが理解できていないことを察して、レヨンはアオイに向き直った。
そして、ゆっくりとワイングラスを傾ける。
中身を飲み干しながら、レヨンは言う。
「いや、やけに魔力量が多いと思って。私は3分の1エルフだからね、そこら辺は敏感なんだ」
「魔力量、ですか」
ワイングラスをあおるレヨンを横目に、アオイはコガネに目を向けた。
コガネはその視線に気付いてコクリと頷く。
「セルリアの魔力量は、主の2倍くらいかな」
「え」
「まだ発展途上だから、もっと伸びると思うよ」
「私、別に魔力量少なくないよね?」
「うん。セルリアが異常だね。レヨンが不思議に思うのも無理ないくらい」
「そうなんよねぇ……」
シオンが頬杖をついて頷いた。
何か考えるように遠くを見ながら、ぼんやりと呟く。
「セルちゃんの魔力量多いのは気付いてたし、報告しようかとも思ったんけどね?ただの大魔導士の卵なだけの気もせんでもないし、まだ見守る感じでええやろ、ってウラハと結論出しててん」
「そうだったんだ」
「魔力制御くらいは早めに教えた方がいいかもよ?暴走してからじゃかわいそうでしょ」
「そうだね。杖作る?」
「うーん、そうだね……あった方がいいかな?」
考えながら、差し出された串焼きの肉を齧る。美味しい。
シオンも頬杖を突きながら肉を齧っていた。
レヨンは3本目のビンを開けている。早くないですか?
そのままセルリアを杖会議が始まり、まあ本人に聞いてからということで収まった。
緩く終わりかける会話を繋いだのはレヨンだった。ふと何かに気付いたようにアオイに向き直る。
「そういや、アオイちゃんは今日踊らないの?」
「踊る相手がいないですから」
「お、それなら」
レヨンはにやりと笑って立ち上がり、アオイの前で片膝をついた。
ドレスではなくいつもの服で祭りに参加し、髪を一つに括っているのでその見た目に違和感は少ない。
「綺麗なお嬢さん、よろしければ私と一曲」
「カッコイイ……!レヨンさんリード踊れるんですか?」
「もっちろん。完璧よぉ」
「じゃあ、喜んでー」
アオイが差し出された手に手を重ねると、レヨンは立ち上がって広場の中央に向かう。
曲の始まりに合わせて踊り始めると、レヨンは確かに男型のステップも完璧だった。
それにしても、この人すでにワインを3本開けているはずである。なぜこんなにも足取りがしっかりしているのか。
踊っているうちに楽しくなり、次の曲も続けて踊る。
そのまま数曲踊り、笑いながら元々座っていた位置に戻った。
「アオイちゃん、体力あるよね」
「ふふん、そこだけは自信ありですよ」
気付けが夜も更けている。
空には綺麗な月が浮かんでいた。