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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
6章・収穫祭
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6,賑やかな日

 到着した日はすぐに休んで、翌日に祭りに参加する。

 朝食を食べ、セルリアから順番に服を着替えて髪もセットして、昼頃に祭り会場に向かう。

 キマイラの祭りは夜に舞踏会が始まるため、そこそこ長い。

 流石にセルリアを夜遅くまで居させる気はないので、お小遣いを渡してシオンと探索に行かせた。


 サクラとモエギは2人で見て回るらしく、手を繋いで駆けていった。

 服は相変わらず同じようなデザインで、モエギの服は男物の作りをしているのにモエギは美少女に見えた。逃れられない運命である。

 アオイはコガネと共にレヨンの挨拶周りについて回っている。


「あ、お久しぶりです、ヴィスリさん、ファルさん」

「アオイちゃーん。久しぶり~」

「お久しぶりです」


 顔なじみに挨拶をしたり、レヨンが気軽に話しかける偉い人にペコペコしたり。キマイラの祭りに来たら絶対にやるので、この周回はもう慣れたものだ。

 アオイはここで外面という仮面を作り上げたと言っても過言ではない。

 最上位薬師として呼ばれる場面で必需品な外面を生成してくれたレヨンの挨拶周りに感謝である。



 アオイが方々にペコペコしている時、セルリアはシオンと手を繋いで祭り会場を回っていた。

 首から財布を下げて、中に入れた大事なお小遣いを握りしめてあれこれ目移りしながら人混みを進む。

 最初は少し遠慮気味に、シオンの後ろに隠れるように見て回っていたのだが、誰もセルリアの目の色を気にしない事が分かると元気よくシオンの手を引き始めた。


「シオンにい、シオンにい」

「なんやあ、セルちゃん」

「あれ、あれなあに?」

「あれは焼き菓子やな。買ってみるか?」

「うーん、お菓子はモエギお兄ちゃんのがおいしい……」

「ははっ。そうやなぁ」


 楽しげに会場を回り、一通り見てもセルリアの財布からお金が出ることはなかった。財布の紐は固い子である。

 だが、なら別の並びを見てみよう、となった時に何かを見つけて動きが止まった。

 それまでは目移りしながらも移動していたのだが、足を止めてジッと何かを見ている。


 目線の先を追うと、魔道具の出店の様だった。

 目をキラキラさせてその出店を見ていたセルリアは、窺うようにシオンを見上げてくる。


「気になるん?」

「うん」

「じゃあ、見てみよか」


 シオンの言葉に、セルリアは表情を明るくして出店に近付いた。

 様々な魔道具が並ぶ中、店主に許可を貰って1つ1つ手に取りながら楽しそうに物色する。


「どんなのがいいん?」

「えっとね、重たいものが運べるようになるやつ」

「強化系?なんか運びたいん?」

「シオンにいの本、重たいんだもん」


 楽しそうに文句を言うセルリアに、シオンは苦笑いして魔道具の効果を調べていく。

 筋力強化の魔道具は3つほどで、セルリアが気に入った1つを購入して出店を離れた。

 アオイが持っているような身に着けるものではなく、装備品などにつけるタイプの魔道具だ。


「その色で良かったん?」

「うん!」


 淡紫の魔石がはまった魔道具を持って嬉しそうに笑うセルリアに、シオンも笑いかえす。

 「女の子」はピンク系の色を好むものかと思っていたが、セルリアはそうでもないらしい。



 セルリアとシオンが祭り会場を見て回っているのと同じ時間、小鳥組も別の場所を探索していた。

 この2人にとっては故郷のようなものであるこの国は、来るたびに何かが変わっている。

 それでもなじみの店は残っているので、祭りの日であっても平然と店を開いているそこに向かうのだ。


 普段はサクラが行きたい場所に、と移動するが、今日だけはモエギの先導で手を繋いで移動する。

 向かうのは、両サイドを高台に挟まれた窪地にある1軒の店。

 窪地にあるはずなのになぜか日当たりは悪くないこの店は、モエギが人型を取れるようになってからよく訪れるようになった店である。


「こんにちはー」

「んー?おー。いらっしゃーい」


 ダンテル・ボワという名の店で、店主は植人と呼ばれる種族である。


「こんな日に来るのは君くらいだよー。祭りはいいのかーい?」

「こんな日じゃないと、キマイラにも来れないですからね」

「んー。そういうものかー」


 低いカウンターの後ろでロッキングチェアに揺られて、店主はのんびりと言った。

 植人と言っても、見た目は人と変わらない。


「それで、今日は何を探してるのー?」

「淡い赤と、白と、水色ですかね」

「また、多いねぇー」


 店主は笑って店の一角を示す。


「自由に見ていいよー」

「ありがとうございます!」


 モエギは嬉しそうに言って、示された一角に向かう。

 棚に丁寧に並べられているのは、手編みのレース。

 色も模様も幅もそれぞれで、この中から欲しいものを探し出すのだ。


 多くの客が欲しい幅だけ買っていくのだが、モエギは基本丸ごと買っている。

 あれば使うし、端の処理も自分で出来るし、ここのレースは本当にどれも綺麗なのだ。


「いつも聞くけど、持って帰れるのかい?」

「はい!……トマリさん」


 モエギに呼ばれて、トマリが床の闇から生えてきた。

 頭だけ出して、何の用かと聞いてくるのでモエギはしゃがんで目線を合わせる。


「レースを3種類ほど買いたくて」

「……これ丸ごとか」

「はい」


 トマリは考える。

 トマリの服も、モエギが作ったものである。着心地も良いし動きやすい。

 それに、食事もモエギが作っている。時々起こる「今どうしてもあれが食べたい」という欲求を解消してくれるのもモエギである。

 貸し借りで言ったら借りしかない気がしてきた。


「いいぞ」

「ありがとうございます」


 モエギはにっこりと笑って買い物を再開した。

 トマリは闇から出てきてカウンターの近くで待機する。


「影獣にものを頼むなんてねー。あの子もすごいねー」

「まあ、特殊かもな」

「君は収まってる感じがするもんねー。特殊は特殊だねー」


 何をどこまで知っているのか、緩く話す植人を見てみてもその内心は読めない。

 トマリは頭を掻いて、モエギの買い物が終わるのを待った。

 サクラとあれこれ話しながら選んでいた最後の1つが決まったらしく、モエギは3つのレースを抱えて持ってくる。


 決して安くはない金額を平然と支払い、モエギはほくほく顔である。

 物欲がほとんどないモエギの金の使い道は、基本服を作る道具だ。

 丁寧に包まれたレースを持って闇の中に沈み、モエギに声をかける。


「リコリスに置いとくぞ」

「はい。ありがとうございます」


 いい笑顔で見送られ、トマリは完全に闇に入って行った。

トマリはこうして物だけ先に家に置いてこれるのです……宅急便みたいなものなのです……()

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