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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
6章・収穫祭
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5,キマイラの祭り

 レヨンから手紙が来て数日が経った。

 キマイラの祭りは明日に迫り、リコリスは朝から賑やかだった。

 祭りに行くのはウラハとトマリ以外だが、トマリは影に入って付いてくるだろうから実質リコリスに残るのはウラハだけになる。


「ごめんねー」

「いいのよ。楽しんできてね」

「うん。お土産買ってくるね!」

「ええ、楽しみにしてるわ」


 見送られて、昨日コガネとトマリが先に借りてきた馬に跨る。

 小鳥組は小鳥の姿を取り、アオイはコガネが操る馬に、セルリアはシオンが操る馬に乗る。

 初めての馬を怖がるかと思ったが、セルリアは楽しそうに過ごしていた。


 きゃあきゃあと歓声を上げながらはしゃぐセルリアを落とさないように気を使っているのか、シオンはいつもより速度を出さない。

 普段は誰よりも速度を上げる暴走族は、今日に限って安全運転だった。


「マスター、一気に行くんやろ?」

「うん!」

「やって、セルちゃん。そんなにはしゃがんで」


 片手でセルリアを抑えて、片手で手綱を握るのは中々骨が折れそうだが、シオンはどこか楽しそうだ。

 セルリアも危ないと言われたことはしないので、順調に進む。


「……昔に比べて移動が楽になったねぇ」

「世界的には変わってないけどな」

「私は激変だよ」

「そうだな。……でも、旅してた頃も変わらないだろう?」

「そうなんだけどね。やっぱり衝撃が大きいと記憶に残るじゃん?」

「まあ、そうだな」


 アオイとコガネは、アオイが魔物や魔獣に狙われやすかったころを懐かしみつつ進む。

 当時は本当に笑えないほど狙われていたのだが、今となっては思い出である。


「だって国から国に移動してる間に確実に2桁襲われたもんね」

「今考えるとよく移動する気になったよな」


 普通なら5,6回襲われるかどうか、と言ったところで、数えるのを止めるほど襲われたのも最早思い出である。

 襲われ過ぎて、なぜか国内でも襲われて人と出会ったことも思い出である。


「キマイラも久々だなぁ」

「そうだな」

「レヨンさん、髪型もアシメになったらしいよ」

「……もう、何も対称じゃないな」

「靴は、対称かな?」


 話しながら、アオイはフードを被った。

 もうすぐ大陸の境目、関所である。

 この馬の足なら関所からキマイラまでそう時間はかからないだろう。


 関所を越え、セルリアが慣れてきたのかシオンが速度を上げる。

 それでも普段からは考えられない安全運転で、笑いが漏れてしまう。

 シオンの方からは不満げな声が聞こえてきた。


 不思議そうにしているセルリアに何でもないと告げ、進んでいるうちにキマイラが見えてきた。

 キマイラは国を囲む塀も、国内の地形も凸凹でこぼこしている国だ。

 別名は、凹凸おうとつの国。

 その凹凸の所為か、魔物が国内に侵入することがある。


 第3大陸内では最も内海に近く、それでもあまり商売に発達しているわけではない国。

 特殊なことをしている人が多くいる印象が強い。


「セルちゃんは、第4大陸から出るの初めてかな?」

「うん」

「もうキマイラに入るから、シオンと逸れないようにね」

「はーい」


 キマイラに入り、馬から降りる。

 明日の方が賑やかだが、今日も祭りの日である。人は多く賑やかだった。

 シオンとコガネが馬を返しに行っている間に、サクラとモエギが人型を取っていた。

 2人が戻って来たので、目的地に向かう。


 階段を上り、少し高台にある一軒家をノックする。

 少し待つと中から女性が出てきた。


「おー。やあっほーアオイちゃん」

「お久しぶりです、レヨンさん!」


 服装を細かく書くと字数がとても増える人、キマイラで情報屋をしているレヨン・ベールという女性である。

 トマリから聞いていた通り、髪型まで左右非対称になっている。


「その子がセルリアちゃん?」

「はい。セルちゃん、ご挨拶」

「こんにちは」

「こんにちはー。お入りよ」


 家の中に招かれて、扉を潜る。

 入ってすぐに机とイス、その奥に衝立があり、レヨンはその奥に入って行った。

 アオイが慣れたようについて行くと、セルリアもシオンの後ろに隠れつつ付いてきた。

 もしかしたら、人見知りする性質だっただろうか。


「レヨンさーん!」

「やっほーサクラ。髪伸びた?」

「分かんない!」

「そっかー」


 サクラとモエギは、アオイの元に来る前ここに居たのだ。

 2人ともレヨンの事は好きなので、こうして会うとはしゃぐ。主にサクラが。


「今日はウラハ来なかったんだ?」

「はい。珍しくシオンが来たので」

「なーるほど。セルリアチャンはシオンに懐いてるのかな?」

「はい。お世話係ですよ」

「アオイちゃん、お主さては丸投げしたね?」

「ソンナコトナイデスヨー」


 いつものように軽口を叩きながらついて行くと、3つ部屋を示される。


「アオイちゃんとコガネ君はいつものとこでいいでしょ。シオンとセルリアちゃんはこの部屋使ってー。サクラとモエギはどうする?そのまま寝るならここ」

「どうする?」

「うーん。ここ借りようか」

「おっけ。荷物置いたらリビングにおいでー」

「主、荷解きしとくよ」

「ありがとう」


 コガネが荷物をすべて持って部屋に入って行ったので、アオイはそのままレヨンについて行く。

 いろいろな本と何に使うのか分からない道具が置いてあるこの家は、探索すると面白い。

 過去に一度だけ許可を貰って見て回ったことがある。


「レヨンさーん」

「なんだーい」

「もしやリビング入りきれないのでは?」

「安心なさい。ここの扉を開くじゃろ」

「ほうほう」

「そしてここに収めるじゃろ」

「え、何その動き」

「ほれ、これで広間の完成じゃ」

「すごーい。初めて見たー」


 壁かと思っていた部分が開き、扉部分と合わせて横に納まった。

 繋がった先の部屋は物がほとんど置かれていなかったので、広い部屋の完成だ。


「こんなこと出来たんですね」

「久々にやったけどね。人が集まる時はこうしてたんだ」


 懐かしそうに語るレヨンの横顔が少し悲しげなので、その話題は掘り下げずに別の話題を引き出す。

 久々に会った友人は、いつもと同じ調子で乗ってきた。

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