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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
6章・収穫祭
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4,遠出

 夜会から少し時間が経った。

 第3大陸は雨期だろうか。そんなことをふと思った。

 リコリスがあるのは第4大陸。この大陸に雨期はなく、この時期は冷え込んでいる。


 ああ、そろそろだなあ。

 書斎で書き物をしながら考える。

 手紙を書こうかと思っていたら、書斎の扉がノックされた。


「どうぞー」

「主、手紙ですよ」

「ありがとう」


 扉を開けたのはモエギ。肩に自身に似た小鳥を止め、手に手紙を持っている。

 この小鳥たちに手紙を託す人物は1人しかいない。

 どうやら、考える事は同じようだ。


 手紙を開くと、内容もアオイが考えていたものと同じである。

 手早く返事を書いて、小鳥に託す。

 飛び去って行く小鳥を見ながら、モエギに聞く。


「シオン、来ると思う?」

「……セルちゃんがいるなら、来ますかね?」


 出不精なセルリアの世話役は、セルリア初めての遠征に付いてくるだろうか。

 来る気もするし、来ない気もする。

 それに、しばらくリコリスを留守にするなら何か考えなくてはいけない。


 書いていた物を片付け、モエギを連れてリビングに向かう。

 火を入れた暖炉の前で、ソファに座って本を読んでいたセルリアに声をかけると、セルリアは手に持った本を見せてきた。


「アオイ姉さま」

「なあに?」

「あのね、あのね、これ」


 読んでいたのは、魔法の入門書のようだ。

 アオイは読む気になれないそれを楽しそうに読むセルリアは、そのうちの1ページを示す。


「まほうって、手から火が出るの?」

「うーん……手からは、出ないかな。魔法の事なら、コガネに聞くといいよ」

「分かった!」

「火を出したいの?」

「うーん……お花の方がいい」

「そっか」


 セルリアの頭を優しく撫でて、横を見るとモエギが飲み物を淹れていた。

 珍しくセルリアの横に居ないシオンを不思議に思いながら、セルリアの頭から手を離した。


「ねえセルちゃん」

「なあに?」

「お祭りに行こうか」

「おまつり?」

「そう。お祭り」

「行きたい!」


 本を持ったまま勢いよく立ち上がったセルリアを微笑ましそうに眺めて、アオイは続ける。


「シオンが行くかどうか、聞いてきてくれる?」

「うん!」


 セルリアは勢いそのまま駆けていった。

 居場所を知っているようだ。

 元気のよい後姿を見送って微笑むと、モエギに飲み物を差し出された。


「シオンさんが暖炉の前に居ないのは珍しいですね」

「そうだね。……何かしてるのかな」


 シオンは猫である。

 寒いのは嫌いで、1年の中でも冷え込むこの時期は暖炉の前を陣取るのが普通だった。

 この時期にここに居ないとなると、大体は自分の部屋に居て何か作業をしている。


「主」

「お、コガネ。どうしたの?」

「掘り出し物」


 今日は物置の片づけをすると言っていたコガネが現れ、何か箱を差し出してきた。

 開けると、懐かしいものが入っている。


「こんなの取っといてたんだねぇ」

「ね。捨てたかと思ってた」

「わあ、懐かしい」


 箱の中に入っていたのは、リコリスを作る前、旅をしていたころに使っていた道具だった。

 まだシオンやウラハ、トマリと出会う前の物で、見覚えがあるのは小鳥組とコガネ、アオイだけだろう。


「まだ使えそうだよ」

「そっか。……でも、もう長旅はしないだろうしね」

「そうだね」

「……取っておこうか」

「うん」


 物が捨てられない性質ではないが、何となく捨てづらい。

 昔を懐かしむあれこれがあってもいいだろう。

 そう思ってコガネに渡すと、コガネはソファに座って整備を始めた。

 もし、もしセルリアが旅をしたいと言ったら、渡してもいいかもしれない。


「……いや、新しい方がいいか……」

「これでもいいと思うよ?」

「そう?」

「うん」

「何で会話出来てるんでしょうね……」


 何年たっても分からない、と呟くモエギに笑いかけ、温かな飲み物を飲む。

 体の芯から温まる。何が入っているんだろうか。


「アオイ姉さま!」

「おかえりセルちゃん。どうだった?」

「行くって!」

「そっかぁ。じゃあ、準備しないとね」

「じゅんび」

「うん。シオンと一緒に、必要なものを1つに纏めよう」

「分かった!」


 セルリアは嬉しそうに、勢いよくUターンしていった。

 あの出不精が動くとは。相当セルリアが可愛いのだろう。


「シオンがリコリスから出るの、いつ以来?」

「去年じゃない?」

「去年出たっけ?」

「ほら、春に」

「……ああ。ワインが貰える、とかだっけ?」

「そうそう」


 そういえば、シオンの知り合いがワインを作っていて、そのうちの1本を渡すと言われて出かけていった事があった。

 わざわざ第5大陸に足を伸ばしたのだから、相当いいワインだったのだろう。

 アオイはあまり酒を飲まないので、よく分からなかったのだが。


「主は準備しなくていいの?」

「まだいいかな。10分で終わるし」

「……確認してね?」

「はーい」


 疑いの目を向けられた。

 今回はちゃんと確認しよう。心に決めてカップの中身を飲み干す。


「さて。みんなに確認取らなきゃね」

「私は片付けの続きしてくる」

「僕はサクラの回収ですかね」

「サクラ、今どこにいるの?」

「外に居ます」

「わあ、元気……」


 この寒さでも行動が変わらない元気さに思わず笑いが零れた。

 サクラは雪が降ろうが雨が降ろうが霰が降ろうが外に飛び出すのだ。

 まあ、大体はモエギに止められているが。


「さて、と」


 ぐっと伸びをして、勢いをつけて立ち上がる。

 まずはウラハの所に行こう、と決めてウラハを探す。

 外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。

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