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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
6章・収穫祭
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3,レッツ夜会

 ウラハに髪飾りを見せると、それでドレスが決まった。

 何枚も置いてあったドレスは1枚を残して片付けられ、とりあえず着てくれと渡される。

 サクラが手伝いに付いてきた。


「主ーしゃがんでー」

「はーい」


 言われた通りにしゃがむと、首元のリボンを結ばれる。

 そのまま腰のリボンも整え、髪飾りをつける。

 仮に着ただけなので、少し緩くしてある。


「よし!出来た!」

「ありがとう、サクラ」


 モエギの正確な目測により作られたドレスはとても美しく、白を基調にしたはずなのに体型は膨張して見えない。

 用意されたレースの手袋を着ければ、ドレスアップは完成だ。

 明日は化粧までされるだろうが、今日は別にいいだろう。


 扉を開けるとモクランも来ていて、アオイを見たコガネの両手が宙をさまよう。

 いつもの事なのでそれは置いておく。

 ウラハが親指を立てたのを見て、同じポーズを返しておく。


「どうですか?」

「いいんじゃない?」

「えへへ」


 モクランからも感想を貰い、視線を感じて下を見る。

 セルリアがキラキラした瞳でアオイを見上げていた。


「アオイ姉さま、おひめさまみたい」

「そう?」

「うん。かわいい」

「ありがとう」


 目を輝かせたセルリアを撫で、モエギを見ると何かを決意した表情をしていた。

 これは、近いうちにセルリア用のドレスが出来るな。

 そんな予想をし、許可が出たのでドレスを脱ぐ。


 その日はそのまま眠り、朝もいつも通りに過ごした。

 朝食が終わってからアオイはウラハに呼ばれ、ドレスの着付けが始まる。

 あまりきつくはされなかったがコルセットを締めて、あまり履きたくないのだがヒールを履く。


「白って汚しそうで怖いんだけど……」

「コガネちゃんが保護をかけてくれたから大丈夫よ」

「そうなの?」

「ええ」


 話しながら着付けが終わり、イスに座って髪のセットとメイクをされる。

 どちらも普段しないので、あまり好きではない。


「マスターはほんのり薄化粧が一番ね」

「そうなの?」

「ええ」


 よく分からないが、そうらしいので全てお任せだ。

 たっぷり時間をかけて準備が終了する。

 ウラハにエスコートされつつ部屋から出て、外で待っているらしいモクランの元に向かう。


 扉を開けると正装に身を包んだモクランが待っていて、馬の上に引き上げられる。

 もうすでに荷物は渡されているようだ。

 帰りはドレスではないので、少しだけ我慢と自分に言い聞かせる。


 リコリスから出て森を進んでいる間に確認したが、ドレスはコガネの掛けた保護魔法に守られて傷が付かず着崩れないようになっているらしい。

 森を抜け、ふとモクランの左耳に手を伸ばす。


「なに?」

「……何でもないですよ?」

「その割には嬉しそうだけど?」

「そんなことないですよ?」


 左耳にどこか神聖な光を発しているピアスが揺れているのを確認し、頬を緩める。

 小指の先ほどの大きさの剣で、持ち手にドラゴンが止まっている。

 剣の刀身には幾何学模様が描かれ、とても精密なつくりをしていた。


「ふふっ」

「やっぱり嬉しそうじゃん」

「そんなことないですよー」


 緩く笑いあえば、馬は気を使って少し速度を落とす。

 それに気付いてモクランが速度を上げ、目的地までは順調に進んだ。

 それでも着いたときは夕暮れである。


 アオイは外套を羽織ってフードを被り、人目を避けている。

 先に馬と荷物を宿屋に預け、夜会の会場に向かう。

 入口で招待状を見せると、アオイの外套を取るように言われた。


 素直に従い外套を脱ぐ。

 黒髪が月明かりで輝いた。

 そこにいた者は皆アオイに見惚れ、アオイは入ってもいいか笑顔で尋ねる。

 慌てて頷いた門番に礼を言って、アオイはモクランにエスコートされ会場内に進んだ。


「まず、主催者に挨拶に行くよ」

「はい」


 アオイとモクランが会場に入った瞬間、一瞬だが時が止まった。

 その後、少しのざわめきを加えて時が動き出す。

 アオイは素知らぬ顔でモクランについて行く。

 正直場違い感を感じているので、モクランのいう事だけ聞こうと思っていた。


 中央にある階段を上がり、そこに居る主催者に挨拶をする。

 モクランが礼をすると主催者から話しかけてきた。


「お久しぶりですな、モクラン殿」

「お久しぶりです、ハリム様」

「来ていただき光栄ですぞ。……それにしても、お隣の女性は……?至上に美しい方ですが……」


 モクランに促され、アオイが礼の姿勢を取る。

 カーネリアに教わったもので、その姿勢は正しく美しい。

 高貴な出の者だと思われるには十分だった。


「お初にお目にかかります。最上位薬師、アオイ・キャラウェイと申します」

「おお、貴女があの!噂以上の美しさだ。礼に見惚れるなど、久しくなかった事ですぞ」

「お褒めいただき恐縮です」


 目を細めて笑えば、ハリムと呼ばれた目の前の男性は見惚れたのか固まった。

 その横に、若い女性が立っていることに気が付いた。

 アオイより少し年下か、年頃であろう娘はモクランとアオイをちらちらと見ている。


 笑いかけると、顔を下げてしまった。

 なにか悪いことをしただろうか。考えているうちにハリムが声を出した。


「それでは、お楽しみください。……キャラウェイ殿とは、これが縁になることを願っておりますぞ」

「こうして言葉を交わしましたから、それがすでに縁でしょう。……それでは」

「失礼します。……足元」

「はい」


 その後夜会中、モクランはアオイを気遣ってか側におり、アオイは昔を思い出しつつあれこれと質問しているうちに時間が過ぎる。

 夜会が終わり宿に戻ると、慣れないことをした疲れかすぐに寝てしまった。

 起きれば辺りは明るくなっている。


「起きた?」

「はい……おはようござ……ふあぁ……」

「朝ごはん食べたら出るよ。着替えな」

「はーい……」


 目を擦ってベッドから降り、支度をしている間に朝食が用意されている。

 リコリスを建てる前、各地を旅した頃も、こんなふうに至れり尽くせりであった。

 自分で何もしていないな、と思いつつ甘えてしまっているのだから成長しない。


 朝食を食べているうちに荷物が纏められ、すぐに宿を出た。

 馬に跨りリコリスに戻る途中、モクランに聞かれる。


「どうだった、夜会」

「うーん……モクランさんとお喋りした記憶しかないです」

「まあ、そうかもね」


 次はそうはいかない、と言われ、次はないと答える。

 緩い会話をしているうちに森が見えてきた。


「やっぱり、家が一番です」

「そっか」


 結論が出て、アオイは満足げに頷いた。

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