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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
6章・収穫祭
51/190

2,やはり淡色

「ちなみに、どこで開催なんですか?」

「ペルーダ。行ったことあるよね?」

「はい!でも、久しぶりです」


 客間に移動し、ソファに座る。

 ペルーダは第6大陸唯一の国である。

 リコリスのある第4大陸と第6大陸は陸続きだ。


「そういえば、内海に魔神が出たの知ってる?」

「知らないです。いつですか?」

「1か月前くらいかな。討伐依頼が来たんだよね」

「わぁ……気を付けてくださいね」


 内海。字の通り、内にある海である。

 第1から第5大陸までが内海に接しており、内海と外海を行き来出来るのは第1大陸と第5大陸の隙間のみ。

 第6、7大陸は内海に接していない。

 内海は、第1、5大陸を繋ぐ道であり、他にも海路を多く使う国はある。


 クリソベリルに依頼ということは、国からの要請なのだろう。

 SR冒険者でないと討伐出来ない魔神など、現れたのはいつ以来か。

 考え込んだアオイを安心させるように、モクランはアオイの頭を軽くポスポスと叩く。


「大丈夫だよ。ちゃんと準備もするし」

「そう……ですよね。うん。……でも、邪払いくらい作りますからね!」


 毒消しの最上位版を作ると意気込むアオイを軽く流し、モクランは話を戻す。

 今は魔神討伐より夜会の事が優先だ。


「で、夜会なんだけど」

「あ、はい」

「開催者がペルーダの上流貴族サマなんだよね」

「わー。私が行って大丈夫なやつですか?それ」

「君、最上位薬師でしょ」

「そうですけど……」


 話していると、モエギがお茶を持ってきた。

 それをテーブルに置きつつアオイを見るので、何かと思って首を傾げる。


「……うーん。やっぱり青系ですかね……」

「何が?」

「ドレスです。何枚か出してるんですけど……」

「何枚もあるの!?」


 リコリスで服を作ることが出来るのはモエギとウラハの2人だけなので、2人が作ったのだろうがいつの間に。

 そういえば、カーネリアのドレスを作る時もとても楽しそうだった。

 服を作るのが好きなのか、ドレスを作るのが好きなのか。


「モクランさんはどう思いますか?」

「俺?」

「はい」

「……薄色なら何でもいいと思うけど」

「やっぱり薄色ですよね。そう思って、濃い色のドレスは出さなかったんです」

「それもあるの!?」


 なぜ作ったのか。

 本気で聞きただそうかと思ったが、やめておく。

 そのうちコガネに着せよう。


「髪飾りも考えないと……」

「ほどほどにしてね」

「分かりました。気をつけます」

「本当にお願いね……!」


 モエギが去って行く。

 軽く息を吐くと、横から微かな笑い声が聞こえてきた。


「何で笑ってるんですか」

「いや、別に」


 軽く笑って頬杖をつく姿がやけにかっこいいので、潰れないように目を逸らしておく。

 ついでに話題も逸らしてしまおう。


「モクランさんは何を着るんですか?」

「普通に正装だよ」

「燕尾服……」

「ではない」

「見たかったのに……」


 不満を言うと、おでこをペチッと叩かれる。

 おでこを抑えて不満の目を向けても、目線の先で何食わぬ顔をされる。

 独立する前からお世話になっているこの人には、どうにもこうにも敵わない。


「うーん、モクランお兄さん」

「その呼び方はやめてって言ってるでしょ」


 ペチン!

 昔から言うたびに叩かれているが、ついうっかり言ってしまう。

 この呼び方をすると叩く威力が上がる。そんなに嫌なのか。


「出発はいつって言ってましたっけ」

「明日の昼。向こうに泊まって、明後日戻ってくるよ」

「はーい」


 手を挙げて返事をすれば、ふわりと笑われる。


「独立して大人っぽくなったかと思ってたんだけど」

「なりましたよ?」

「今の見た後だと同意できない」

「……モクランさんは、すごく身長伸びましたよね」

「そうだね」


 出会った当初はそれほどでもなかった身長差は年を重ねるごとに大きくなり、今では見上げないといけなくなった。

 目線が離れてしまい、少し寂しい。


「ちょっと縮みません?」

「無理」


 そっけなく返され、机に頭をつける。

 少しくらいいいじゃない……とぼやいても返事はないので諦める。


「薬屋順調?」

「はい。お陰様で」


 話題を変えられたので、そのまま流れに乗る。

 昔、店番の最中にダラダラと話していたことを思い出す。

 懐かしい。


「何笑ってるの?」

「懐かしいなぁ、と思って」

「何が?」

「こうしてダラダラ話してるの」

「……まあ、その時間は減ったよね」


 時折会っては出かけるので、のんびりだらけて喋る機会はとても少なくなった。

 昔は雨季の度にダラダラと話していたのだ。

 他のお客さんが来ないから、と店でだらけていたころは、もうずいぶん昔に思えた。


「今では店番しませんからね」

「店主って店番しないものなの?」

「ヒエンさんはだらけてるだけです」

「……あ、そうだ。ハーブさんから預かりものしてたんだ」


 そう言って荷物を漁るモクランを眺めながら、師匠の事を思い出す。

 あの人が贈ってくるものは、役立つか過保護な物かネタかの3択だ。

 今回はどれか。おみくじ気分である。


「これ」

「小さめですね」


 何の変哲もない紙袋を受け取り、アオイは首を傾げる。

 サプライズ大好きな人だから、中身は普通ではないだろうが重さも普通である。

 珍しく普通の物が贈られてきたかと思い、袋を開ける。


 中身は、白い花の髪飾りだった。

 少しだけ水色の花も混じった髪飾りは何とも豪華で、普段使いは出来なさそうだ。

 まさに、パーティー用である。


「……モクランさん、ヒエンさんに夜会の事言ったんですか?」

「言ってないよ。君の所に行くってのも言ってない」

「あの人は……」


 一体どこで知って、いつ用意したのか。

 何を言っても誤魔化されるだろうが、これは言及しよう。

 そう決めて髪飾りを握る。


「ウラハに見せて来ます。これでドレスも決まると思うので」

「はいはい。行ってらっしゃい」


 客間を出て母屋に向かいつつ、アオイは結われた髪に触れる。

 髪型はウラハにお任せだが、どうなるだろうか。

今までで一番テンションがエキナセアに近い気がします。

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