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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
5章・美しき茨
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7,会いに

「アオイさん?」

「……あ、ごめんね。ちょっとボーっとしちゃって」


 リコリスの店内で、アオイは2人の少女と話していた。

 猫と羊の獣人で、アオイが独立する前からの知り合いである。

 可愛い2人は顔を見合わせ、商品を受け取った。


「あんまり無理しないでくださいね」

「また来ますね」

「うん。ありがとう、気を付けてね」


 フードを被って店を出た2人を見送り、アオイはため息を吐いた。

 このところ、ボーっとすることが増えた。

 原因は分かっていたが、解決法は分からない。


 カウンターの内側に座って、ぼんやりと外を眺める。

 普段なら気付くコガネの接近にも気付かないほどである。


「主」

「ん……?ああ、コガネ」


 手にお茶を持ったコガネは、アオイの横に座った。

 差し出されたお茶をゆっくりと飲み始めるアオイを窺っていると、アオイの手が伸びてきた。

 優しく髪を撫でるその手に身を任せ、逆の手に持たれたお茶を心配しながらアオイが何か言うのを待つ。


 しばらくその時間が続き、アオイがカップを置いた。

 そして、コガネの髪から手を放す。


「コガネ」

「なに?」

「山に行こう」

「分かった」


 アオイは一旦置いたお茶を飲み干し、立ち上がった。

 コガネも準備のために部屋に戻る。

 他の者に出かけることを告げ、リコリスを出た。


 コガネがアオイを抱えて移動し、しばらく飛んで目的の山の麓に着く。

 そこでアオイを降ろして、せかせかと山を登るアオイの後ろをついて行く。

 登って、登って。山頂が近くなったところで、アオイが振り返る。


 分かっている、と頷けば、アオイは乱れた息を整えて山頂に向かった。

 山の形で見えなくなったアオイを待つため、コガネはそこで腰を下ろす。

 山からの景色は、とても綺麗である。



 コガネを待たせて山頂に上がったアオイは、そこで目を閉じて座る人物の後ろに座った。

 声は掛けず、向こうが動くのをジッと待つ。

 しばらくして、その人物が振り返った。


「おお、愛し子か。どうした?」


 振り返ったその人の横に移動し、縦長の瞳孔をした瞳を見つめる。

 なんと言おうか考えている間、その人は何も言わずに待ってくれた。


「……生きてほしかった人の命を、短くしたんです」

「ほう?」

「細く、長く、静かに続くその命を、短く、太くしたんです」


 考えながら話していると、収めたはずの涙が零れていく。

 揺れる声で話し続ければ、その人は静かに聞いていてくれた。


「生きてほしかった。でも、それは、あの人の願いじゃなかった」

「……焦らなくともよい。ゆっくり、整理をつければよい」

「生きて、ほしかった。居なくならないでほしかった」

「願いが違ったか。そうか。辛かったの」

「わたしは、わがままですか?人の願いを叶えたいから、薬屋になったと思っていたのに、叶えたいのは、自分の願いだ」

「それが人であろうて。それでも自分より他者の願いを優先したのだ。自分を責めずともよい」


 アオイを抱きしめて、その人は続けた。

 優しい声が静かに響く。


「忘れなければよい。忘れなければ、その者は心の中で生き続けるでの」


 ゆっくりと優しく頭を撫でる手に、涙が止まらなくなる。


「ゆっくり考えて、落ち着けばよい。そのために来たのであろう?」

「はい……」

「なにが正解かはな、誰にも分からんのだ。自分なりの正解を探すしかないのだ」

「貴方にも分からないんですか?」

「ああ。こうして数百年考えているが、分かったことなどほんに少ない」


 アオイから離れたその人は、再び前を向いて目を閉じた。

 その横で同じように目を閉じて、アオイはゆっくりと頭の中を整理する。


 この人は、黙想蛇という12神獣の1種であり、この山に根を下ろした人だ。

 この山は静かである。静かに思考を巡らせる黙想蛇が選んだ場所に相応しく、考え事には最適である。

 横に座るその人の息遣いすら聞こえる静かな空間で、散らかった頭の中を片付ける。


 言われた通り、ゆっくりと。

 そうしていると分からなくなっていたあれこれも思い出せ、心のざわめきも収まっていく。

 閉じていた目を開けると、辺りは闇に包まれていた。


「落ち着いたか?」

「……はい」


 星に包まれ、アオイは笑った。

 いつもと同じ、屈託のない笑みである。


「お邪魔しました」

「なに。我は何もしておらん。またおいで」

「はい。ありがとうございました」


 山を少し下ると、コガネが待っていた。

 アオイの顔を見て、安心したように笑う。


「帰ろっか」

「うん」


 行きと同じように抱えられ、アオイはゆっくり息を吸った。

 もう、大丈夫。

これで5章は終わりです。

どうにも長くなりません。困った……

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