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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
5章・美しき茨
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1,上位薬師会

 上位の薬師だけが参加を許される会合がある。

 世界統一薬師には上から順に 最上位、プラチナ級、ゴールド級、シルバー級、上級、中級、下級、初級 がある。

 上位薬師会に参加が許されているのはシルバー級以上。


 こんな会合がある理由は、薬師の暴走を防ぐためや、薬師の質を保つため、薬師の保護のため……などではなく、端的に上位薬師が厄介ごとを抱え込みがちだからである。

 面倒な薬の製作、面倒な相手の対処、等々面倒ごとは多い。

 それをみんなで集まって、少し協力して解決しようという集まりが、上位薬師会である。


 毎回のように顔を出す者も居れば、時々しか現れない者、1回も参加したことがない者もいる。

 参加は自由であり、強制力はない。それが上位薬師会である。


 基本的に誰が来るかは行ってみないと分からないが、1人だけ事前に連絡がある人物がいた。

 その人が来るときは、普段の1.5倍程の人数が会合に参加する。

 まあ、言わずもがな。


 世界唯一の最上位薬師、アオイ・キャラウェイさんである。


 滅多に、それこそ年に一度か二度しか現れないキャラウェイさんが参加するとき、薬師会の会場は大変混雑する。

 それでも、彼女が現れると人混みは綺麗に割れ、彼女の歩みは止まらない。

 アオイはそれを微妙な気持ちになりつつ通るのだが、それを知る人物はいない。


 内心ため息を吐きながら議会場に入り、少し高い位置にある上座に座る。

 その横にもイスが置かれており、コガネが腰を下ろした。


「お忙しいところご足労頂き、ありがとうございます」

「いえ、そう忙しくもありませんから。……これをお願いしても?」

「もちろんです」


 恭しく礼をしてアオイから資料を受け取った薬師を見送り、アオイは背もたれに寄りかかった。


「主、忙しくないのに来てないのバレるぞ」

「そもそも自由参加だもん。ヒエンさんが出てるの見たことないし」

「それは確かに」


 まだ人のいない議会場で、アオイは渡された資料をパラパラとめくる。

 ちなみにこの上位薬師会、薬師以外の入場は基本禁止なのだが、アオイの契約獣はなぜか許可されている。

 最初から入場拒否されなかったのは今でも謎である。契約獣だからかな?


 ゆっくり話しながら資料を見ているうちに会場内に人が入り始め、薬師会が始まる。

 アオイは基本聞き専だ。

 聞かれたことには答えるが、自分からは話さない。

 今日のように自分が提示した資料がある場合は別だが。


「えー……それでは上位薬師会始めさせて頂きます。まずは、キャラウェイ殿がお持ちくださった資料から始めましょう」


 アオイが製作しておいた資料はすでに全員の手に渡っているらしい。

 話を振られ、会場内の目が自分に集まるのを感じてスッと目を落とす。

 周りからは、資料を見ているように見えるだろうが、資料など見ていない。

 目線から逃れたいだけである。


「……記入の通りです。製作途中の薬にルベアの実を入れたところ、爆発したのでその注意喚起を。薬の詳細は手元の資料をご確認ください」

「爆発ですか」

「爆発です」


 薬師たちは手元の資料を見て、作られていた薬の内容を見て、自分たちが二の舞を踏むことはないと確信した。こんな薬、作れるわけがない。

 だが、最上位薬師からの注意喚起。覚えておこう。


「爆発の規模は?」

「かなり大きかったですね。私の使っている作業部屋は特別頑丈だったので崩壊はしませんでしたが」

「無強化の木造の家なら飛ぶんじゃないか?」


 横から付け足したコガネの言葉に、薬師たちは身震いした。

 最上位薬師って大変なんだな……


「何か質問は?……ないな。次に行ってもよろしいですか?」

「もちろんです」


 にっこりと笑ったアオイに何人かが見惚れ、その間にも薬師会は進行される。

 ここからのアオイの仕事は、他の薬師たちが結論を出せなかった体調不良の原因等を探ることである。

 ちなみに参加者全員上位薬師である薬師会で結論が出なかった内容、とても面倒くさい。


「では、2枚目の資料をご覧ください」


 資料をめくる。

 そこに記された資料の作成者が立ち上がり、説明を始める。


「詳しくは言えないのですが、とある人物の解毒を依頼されています。その毒は現存の薬では解毒できず、古の書に記された薬もいくつか試しましたが思わしくありません」


 アオイは思う。

 なんか、最近そんなのやったなぁ……

 まあ、もう少し聞いていよう。口を出すにはまだ早い。


「それは、どのような反応が出ましたか?」

「魔力式、手動式双方試しましたが、両方で強力な毒の反応が出ました」


 まだ。まだ早い。

 解毒法が確立されていない強力な毒は何種類かある。

 そんな、ピンポイントで同じものはないだろう。


「毒の進行状況は?」

「最初は少しの違和感だったそうですが、今は歩くのも辛そうです。早くに呼ばれましたので、進行は抑えていますがいつまで持つかは」


 まだです。まだ早いです。

 コガネ、ちらちらこっち見ないの。

 前か資料見てなさい。


「予想される毒はいくつありますか?」

「今の所、ギューヴィルの毒の表記に似ていると……」


 ……おうふ。


「よろしいですか?」


 アオイは内心を全く見せずにスッと手を挙げた。

 コガネはアオイが色々考えていたことも内容も大体知っているが何も言わなかった。


「どうされましたか?キャラウェイ殿」

「ギューヴィルの毒なら、つい先日解毒に成功しました」

「本当ですか!?」

「はい」


 アオイは手を降ろし、考えるように頬に手を当てて声を発する。


「この短期間で同じ毒牙にかかる人がいるとは思わなかったので、製作中の薬学書に収めるつもりだったのですが……それだけでも今持って来させましょうか?」

「お願いできるのであればぜひ!」


 アオイがコガネに声をかけ、コガネが何かするのを待つ間、薬師たちは小さくざわめいた。

 流石は最上位薬師。流石はキャラウェイ殿。

 ギューヴィルの毒に侵されたものなど、死しかないと思っていたら。


 小さくざわざわしているうちに、コガネの身体から魔力が発され始める。

 それは少しして止まり、もう少ししてから闇が動いた。

 アオイの座るイスの陰から出てきたトマリがアオイに持ってきたものを渡し、アオイはその場で何かメモを書いて資料の上に乗せ、今も立ってアオイを見ていた者にそれを渡した。


「薬の製作方法です。製作が困難な場合は、第3大陸のガルダにいる、ヒエン・ウィーリア・ハーブを頼ってください。そのメモを見せれば協力してくれるはずです」

「ありがとうございます!」


 薬師は渡された資料を大事そうに抱えた。

 そのまま順調に薬師会は進み、終了する。

 アオイはすぐに席を立ち、笑顔を見せてから去って行った。


 残された薬師たちは彼女の去って行った後を見送りながら、ゆったりと会話をする。

 話題の9割がアオイの事だろう。


「すげえな、最上位薬師って」

「そうだな……ところで、ヒエン・ウィーリア・ハーブって、あのハーブさん?」

「そうそう。キャラウェイ様の師匠らしいぜ」

「マジか。繋がりがすげえ」

「なー」


 緩い会話をしながら帰り支度を進め、薬師たちはそれぞれの帰路を辿った。

ふとした疑問なのですが、エキナセアから読んでくださってる方ってどのくらいいるんですかね?

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