0,生きる意味を
5章行きまぁす!
ついに連日投稿が途絶えましたね。
第1大陸には、人が生きられぬ暗黒の大地がある。
大陸の端にそれはあり、その先には魔界があると言われている。
その暗黒の地の近くに座する国がある。
クンバカルナという。
暗黒の地はその先の魔界から現れるのか、魔物や魔獣が多く出没する。
他の地より強力なものも多く、それらから国を守るために結界術が進歩した国である。
その優れた結界術を応用し、国に進行する魔物を食い止める研究をしている女性がいた。
国から少し離れた暗黒の地に近いその場所に結界の基盤を埋め込み、魔物、魔獣にのみ発動する防衛システムを構築する。
それが彼女の研究内容であり、何年もやり続けている「生きる理由」である。
数名の研究員と共に基盤の埋め込みを終えた彼女は、色の違う両目で発動させた結界を見た。
その目はスッと細められ、片手が上がる。
停止の指示を出して結界を解除し、魔法で基盤を回収した。
「やっぱり、これだと発動基準が広すぎるな……」
「絞りすぎると前みたいになるぜ?」
「わーってらぁ」
短い髪をガシガシと掻いて、天を仰ぐ。
男に間違われる原因の1つであろうその動作に、仲間の研究員が背中を押した。
「ま、ここで考えてもどうにもならん。今日は戻ろうぜ」
「そうだな」
国に帰り、研究所に基盤を置いて彼女は自室に戻る。
研究所と同じ建物にある、研究員の部屋だ。
その部屋で、今日の結果を書き起こす。
パッと思いつく改善点をいくつか記し、長く使っているノートを閉じた。
飲み物でも作ろうかと思って立ち上がり、扉に手をかける直前右目に鋭い痛みが走った。
痛みは目から頭に広がり、立っていられなくなって壁に手を付いてしゃがみ込む。
平衡感覚が失われ、どちらが上かも分からなくなる。
身体が浮いたような感覚を味わいながら、痛みで開かない右目を押さえる。
しばらくそうしていると、次第に痛みは引いて行った。
立てるようになり、部屋を出ずに棚に置かれた鏡を手に取る。
青い左目。彼女本来の色。
少し赤が混ざった右目。魔力の高まりにより、変色した瞳。
「……もう少し、待ってくれよ……」
悔しげな呟きは、誰にも聞かれず虚空に消えた。
今日の朝まで、先ほど基盤の実験に出た時まで赤紫だったその瞳は、青の強い紫へと色を変えた。
魔力が抜けている。
おそらくは、研究のために無理に使用してきた魔力に目が耐えられず、身体を守るため魔力を下げようとしているのだろう。
防衛本能と言えばいいのか、生存本能と言えばいいのか。
それは今、邪魔でしかない。
それで身体が、命が守られようと、それでは研究を満足に進められない。
それでは、生きている意味がない。
このまま魔力が落ち続け、右目が完全に元の色に戻ることがあれば、自分は長く生きられるのだろう。
今まで命を削るような生活をしてきたが、それをやめてゆっくりとした時間が流れる生活を送れば、自分は長く生きられるのだろう。
だが、その生活の生きがいは何だ?
彼女は、旅支度を始めた。
研究を続けられない身体など、その場で捨ててやる。
そんなことを思い、このままでは細くなるのであろう自分の命を、無理にでも太くするためにとある場所へ向かった。
置き手紙だけ机の上に乗せて、振り返ることもなく建物を出る。
その動きに、迷いはなかった。
ブクマ、評価ありがとうございます!