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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
4章・女王の花
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7,セルリアの1日

 セルリアは、朝起きるのが得意だった。

 流石に1番早くはないが、起こされる前に自分で起きる。

 今日も、陽の光で目が覚めた。


 起きて、もぞもぞとベッドから降りる。

 そしてクローゼットを開け、服を引っ張り出した。

 ここに入っている服は、すべてモエギが作ってくれたものである。


 正確な測定はしていないが、モエギの正確な目測によりサイズはピッタリである。

 最近のお気に入りは、エプロンドレスと合わせて作られたワンピース。

 特にエプロンドレスの部分がお気に入りである。


 裾にフリルの着いた白いエプロンは、アオイが作業をするときに着けるものに少し似ている。

 それが理由で目下ダントツのお気に入りであり、高頻度で着られている。

 今日もそのお気に入りの服に着替え、猫のぬいぐるみを抱えて部屋を出る。


 階段を降りてリビングに入ると、もうすでに朝食の支度を始めていたモエギとウラハが立っている。

 サクラも居て、モエギの後ろをウロウロしていた。

 セルリアに1番に気付くのは、暇を持て余していたサクラである。


「おはよー、セルちゃん!」

「おはよ、サクラお姉ちゃん」


 その声で料理中の2人も気付き、おはよう、と交し合う。

 そうこうしているとトマリが降りてきて、水を飲むために食器棚を開ける。

 セルリアはそんなトマリの近くに寄り、精一杯トマリを見上げた。


「おはよ、トマリお兄ちゃん」

「ん?おお、セルリア。おはよ」


 トマリはセルリアの頭を雑に撫で、水を汲んで席に座る。

 初めはセルリアを避けていたトマリだが、シオンに仕向けられたセルリアが周りをちょろちょろしているうちにセルリアが自分を怖がっていない事を理解したらしく、今は普通に接していた。

 ただ、踏みそうだから周りをちょろちょろするな、とは言った。


 トマリに声をかける、というミッションをクリアし、返事も貰ったセルリアは嬉しそうにその場に留まる。

 そして階段を下る音に気付いて階段に身体を向けた。


「おはよ、シオンにい」

「おはようセルちゃん」


 予想通りの人物に声をかけ、頭を撫でられセルリアはご満悦だ。

 シオンはこの時セルリアの頭を撫でて、トマリが乱した髪を整えている。

 一度撫で方が雑だ、と言ってみたが直らなかったので妥協案である。


「セルちゃん、お皿並べるの手伝ってくれる?」

「うん!」


 ウラハに言われてお皿を受け取り、それぞれの席に置いていく。

 暇を持て余していたサクラも手伝い、並べ終わるとすぐに朝食が出来上がった。

 盛り付けている間にコガネに起こされて、この家で唯一朝が苦手なアオイが起きてくる。


 全員そろって朝食を食べ、それぞれの過ごし方が始まる。

 トマリはすぐに消え、ウラハは食器の片づけ、モエギは家の掃除でサクラはモエギの手伝いをしている。

 セルリアはシオンと共に店番、という名の読書タイムである。


 今日アオイは薬の作り方を清書しているらしい。

 カウンターに座って読書に勤しんでいると、コガネが現れ作業部屋に入って行った。

 作業部屋は薬の製作だけでなく、ポーション等を入れるビンの製作場所でもある。


 リコリスで使っているビンは、材料だけ買ってきてコガネが錬金術で作っている。

 セルリアはその作業を一度見せてもらったことがあった。

 サラサラした砂のような材料が、見る間にビンの形になっていくのは何度見ても不思議である。


 しばらくすると作業が終わったのかコガネが出てきて、それから間もなく昼食の時間になる。

 書斎に居るアオイをコガネが呼びに行っている間にどこからかトマリが現れ、全員そろって席につく。

 その後はまたそれぞれの過ごし方。


 今日は天気がいいから外に行こう、とシオンに誘われ、セルリアは外に出た。

 2人そろって寝転がり、雲を眺める。

 天気が良くポカポカとしていて、だんだん眠くなってくる。


 うたた寝していると、声を掛けられた。

 目を開けると、綺麗な黒髪が飛び込んでくる。


「アオイ姉さま?」

「おはよう、セルちゃん。ちょっとお話しよう?」

「うん」


 身体を起こすと、アオイは1枚の紙を手渡してきた。

 どうやらカーネリアからの手紙らしい。


「カーネリア様が、次の茶会にセルちゃんも来ないかって」

「お城にいくの?」

「うん」


 セルリアは目を輝かせた。

 お城。お姫様がいるところ。

 絵本で読んだ、すごいところ。


 セルリアは目を輝かせ、大きくうなずいた。

 アオイは笑って肩に止まった鳥の足に用意していた手紙を取り付ける。

 鳥はすぐに飛び去った。


 行く前に教える、とアオイに言われ、セルリアは再び寝転がる。

 期待と興奮で眠気はどこかに行ってしまった。

 猫のぬいぐるみを抱えて足をパタパタさせていたら、シオンに頭を撫でられる。


「良かったなぁ、セルちゃん」

「うん!」


 寝ていると思っていたが、聞いていたらしい。

 セルリアはそのまま、お城がどんなところなのかシオンに尋ねた。

 シオンは持っている知識の中のお城をあれこれ教えて、セルリアは目を輝かせる。


「後は、見てのお楽しみやな」

「えー」

「自分で見た方がずっと綺麗やからな」

「そうなの?」

「うん」


 確かに、宝石のキラキラも、大きな噴水のキラキラもパッとイメージできない。

 それなら、実際見た方が分かるのだろう。


「たのしみ」

「帰ってきたら、どんなところだったか教えてな」

「うん!」


 満面の笑みで頷くセルリアの頭をそっと撫で、シオンは眠気に負けた。

 その横でゴロゴロしているうちにセルリアも眠くなり、結局いつものように2人そろって昼寝である。

 家事を終えたウラハはそれを発見し、幸せそうに眠る2人を起こさないようにそっとブランケットを掛けた。


 夕方、寒くなる前にシオンは目を覚まし、セルリアを起こして室内に戻る。

 そして夕飯までカウンターの内側にいる。

 セルリアが読書をする横で、アオイの書いた薬の作り方の誤字脱字確認に精を出す。


 数か所直し、もう一度読んで紙を纏めた。

 そうこうしていると暖簾をくぐってサクラが現れる。

 夕飯を食べ、アオイとセルリアが一番風呂に入り、ウラハに髪を乾かしてもらう。


 その間にシオンがカラスの行水を済ませて戻ってくる。

 セルリアはシオンと手を繋いで2階に上がり、一度部屋に戻ってからシオンの部屋を覗いた。


「シオンにい、一緒にねていい?」

「ええよ。おいで」


 ベッドをポンポンと叩くシオンに駆け寄り、その横に入り込む。

 普段抱えて眠るぬいぐるみは、シオンの横で眠る時だけ机の上である。

 電気を消して時間が経って、暗闇に目が慣れると普段結んでいる髪を降ろしたシオンと目が合う。


「シオンにい、かみ長いよね」

「魔法で使うことがあるんよ」

「そうなの?」

「うん」


 ゆっくりと話しているうちに、段々眠くなってくる。

 2人とも昼寝をしたのに、2人そろって早寝である。

 星の明るい夜だが、セルリアはそれに気付く間もなく眠りに落ちた。

4章はこれで終わりです。

うーん、短い……

次はもう少し長く、なるといいなぁ(願望)

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