3,判別の手段
カーネリアに使われた毒の判別は終わった。
今はほどんど使われていない、希少で強力な毒だ。
どうやって入手したのか、それも謎である。
「コガネ、これって、どこで取れるんだっけ?」
「第1大陸、暗黒の地に少数生息している」
「強いよね?」
「強い。上位種だ」
それを聞いて唸って、どうやって入手したのか、と考える。
コガネに肩を叩かれ、これを考えるのは私ではない、と思い直す。
そして、解毒法を思い出そうとして、ハッとする。
この毒の解毒法は、確立されていない。
「うあああ」
「どうした主」
「解毒法作らなきゃ」
「頑張れ」
とりあえず色々な解毒法を思い出そう、と考えを巡らせ、パッと思いつく。
「考えてもダメだ。作ろう」
「そうだな。爆発は起こさないでくれ」
「分かってる!」
勢いよく言って、ナベに中身を入れていく。
コトコト煮ながら別のものを刻み、別の鍋に入れる。
じっくり煮詰めてろ過し、有色透明な液体をビンに溜めていく。
何ビンも何ビンも作り、窓際に並べていく。
それだけ見たらとても綺麗な光景で、コガネはそれに少し見惚れた。
入ってくる日の光を液体が自分の色に染め、部屋を彩っていく。
しばらくその作業を続け、気付けば日は落ちきっていた。
コガネに肩を叩かれ、振り返って目を丸くする。
「あれ、こんなに暗くなってたの?」
「うん。そろそろ一旦お暇しよう」
分かった、と言ってアオイは立ち上がる。
「これ、このままでも大丈夫ですか?」
「ああ。部屋は用意した。案内させよう」
「ありがとうございます」
いつの間にか戻ってきていたメイドに案内され、城内を進む。
アオイは手にメモを持ったままだ。
部屋に案内されてからも作業をするつもりなのだろう。
コガネはほどほどにさせて寝かせよう、と決意して、アオイの後ろをついて行った。
通された部屋は、城だけあってとても豪華な部屋だった。
「ほえ、すごい」
「そうだね」
言いながら荷物を置いて、アオイは備え付けの机に向かった。
メイドが食事を運んできてくれたので、それを食べつつ資料を纏める。
周りから見ればただひたすら薬を作り続けていただけだが、アオイ的にはキチンとした研究である。
メモした内容を纏めて、内容を見比べていく。
色分けして別の用紙に纏め、それを元に表を作る。
「うーん……これだとなぁ」
「どうしたの?」
「効果が薄いんだ。特に、このタイプの毒に関しては」
「こっちは?」
「これはね、ここの材料の効果だね。これはこっちに混ぜると効果なくなっちゃうの」
「……ああ、これ?」
「そうそう」
コガネがメモを見て判断できるのは付き合いが長く、補佐のようなこともしてきたからである。
普通の薬師でもこのメモだけで内容を読み解くのは難しい。
アオイが行う研究は「最上位薬師」に相応しいものであり、理解するにも相応の知識が必要である。
パラパラとメモをめくって、やっていないことをメモして明日の準備をする。
それをコガネに預け、せっつかれて睡眠に入った。
コガネも隣のベッドに入り、アオイを眺める。
「……おい」
そして何かを脅すような声を出し、反応しないのを見て布団に潜り込んだ。
翌朝、アオイは珍しく早起きして昨晩のメモを確認し、メイドに許可を取ってカーネリアの部屋に向かった。
カーネリアはまだ眠っている。
その顔色はいいとは言えず、アオイは悔しそうに唇を噛んだ。
そして、窓際に並べられた薬を見て、ナベに向かう。
昨日の続きから、足りていない資料を作るための作業である。
これが終われば解毒剤の作り方も予測できるだろう。
だから、今はこれを進めるのが近道で、焦ることはないのだ。
自分に言い聞かせながら、作業を進める。
少しいい反応が出たものを目を覚ましたカーネリアに飲んでもらったら、苦いと苦情を言われた。
カーネリアはそのままメイドに何か頼んでおり、アオイはカーネリアの反応を視つつ次の薬を作り始める。
次に出来上がったものはカーネリアに渡さず、別の薬に混ぜて反応を見た。
そうこうしているうちにメイドが朝食を用意してくれたので、カーネリアと共に食事をとり、息を吐く。
「まあ、そう焦らずともまだ死なん」
「死にかけてた人が何言ってるんですか」
「お主が来たからな。まだ死なんさ」
「そりゃ、死なせませんよ」
言いながらお茶を啜っていると、誰かが部屋をノックした。
入ってきたのはサフィニアとサクラ。
珍しい組み合わせに目を丸くすると、そこで会ったから共に来たのだ、と言われる。
サフィニアはカーネリアの側に駆け寄り、サクラはアオイの元に来る。
サクラは手に持っていたカゴをアオイに向かって誇らしそうに掲げた。
「主!サクラ宅配便だよ!」
「ありがとう、大変だったでしょ?」
「大丈夫!」
アオイはサクラの頭を撫で、ナベの元へ戻る。
カゴの中身はコガネ経由で連絡して持ってきてもらった薬の材料である。
使いつくした物、必要だが手元になかったものをリコリスから持ってきてもらい、いつものように頼んではいないが持たされたらしいものが2,3種入っている。
これを持たせるのはシオンとウラハ。
種族としての性質もあり、2人はアオイの必要とするものをアオイ以上に把握していることがある。
そんな2人からの預かり物を確認して、アオイはナベをかき混ぜた。
もうすぐ、もうすぐで形が見える。
もう少しで、完成になるだろう。