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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
4章・女王の花
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2,悪意

 カーネリアを侵すものが何なのか調べるために、アオイは色々なものを取り出していった。

 普段ならコガネに手伝ってもらって魔法でどうにかするが、ここはイピリア。魔法の使えぬ国である。

 だが、ここに居るのは最上位薬師。


 魔法より多少時間がかかる程度で判明自体は出来る。

 それでも、その時間が惜しかった。

 カーネリアの体力がどこまで持つか分からない。


 なんでもっと早く呼ばなかったのか文句を言えば、そもそもアオイを呼んだのは鳥の独断である、と言われた。

 アオイはさらに文句を言った。


 文句を言いつつ作業を進め、カーネリアの部屋に簡易薬師セットが完成した。

 メイドとカーネリアに許可を取って血を少量採取し、薬と混ぜて反応を見る。


「それは、何をしているんだ?」

「血に入った情報から、原因を探るんです。毒なら毒の反応が、呪いなら呪いの反応が出ます」

「ほう……」

「薬師の中ではよく知られた方法ですよ」


 そう告げれば、カーネリアは面白そうに目を細めた。

 小さく聞こえた、本を揃えるか、という呟きに思わず笑う。


「読書もいいですけど、やってみるのが早いです。薬学書は理屈っぽい」

「なら、アオイが書けばいい」

「無理でーす」


 軽く返して、反応が出始めた薬をじっと眺める。

 出た色は、毒。

 それも普通の毒の色ではない。


 緩く笑っていたアオイの表情が抜け落ちた。

 そして、カーネリアではなくメイドに告げる。


「……人為的にでないと摂取されない、希少で強力な毒ですね」


 メイドはそれを聞いて、顔色を変えずにいつものように礼をした。

 だが明らかな怒りのオーラが出ており、そのまま去って行った彼女が何をするつもりなのかは聞けなかった。

 コガネはケロッとしていたが、アオイは内心怯えていた。


 メイドが去って行った後、アオイはカーネリアに毒消しを渡したが、効果はほとんど見られなかった。

 ポーション、邪払い等も効果は見られず、アオイが珍しく舌打ちをしてコガネに窘められた。

 カーネリアは本当に珍しいものを見た、という風に笑っていた。


「笑い事じゃないですよ」

「アオイのそんな行動は初めて見た」

「普段はやりませんもん」


 言いながら何か準備し始めたアオイをカーネリアが眺める。

 サフィニアは忙しいらしく、後ろ髪を引かれるのか振り返りながら部屋を出て行った。

 カーネリアは終わってから来い、と軽く言って手を振っていたが、サフィニアはそれでも不安げにしていた。


「あれはどうにも、気負い過ぎるな」

「それだけカーネリア様が好きなんですよ。あ、これ飲んでください」

「ん。…………だが、我は良い母親ではないだろう」

「うーん……それは、人によりますねぇ」


 話しながら薬を渡し、効果を診る。

 あまり良い効果が出なくとも、様子から細かくメモを残し、色々と薬を混ぜ込む。

 時折何か考えて、コガネに声をかける。


「……コガネ」

「これか?」

「うん」

「残りはこれの半分だな」

「あー……こっちは?」

「同じだけ」


 2人にしか分からない会話はしばらく続き、コガネが何かのメモを持って部屋を出て行った。

 アオイはそれを見送り、手元の小さな鍋をかき混ぜる。

 静かな時間が続き、体力の落ちていたカーネリアは眠りに誘われた。




 メイドは1人城の中を歩いていた。

 メイド長でありカーネリアの側近である彼女は、それなりの権力を持っている。

 その権力を使い、信頼できる者だけに指示を出す。


「……逃げられると?」


 普段はカーネリアの後ろで気配を消している彼女は、静かに呟いた。

 その言葉は隠す気のない殺意である。

 自分の主を、最愛の人を殺そうとした輩の生が続くなど、自分が耐えられない。


 彼女がカーネリアに向けている親愛の、敬愛の念は彼女の血縁をはるかに上回る。

 何があったかは言わないが、彼女たちは幼いころから共に居る。

 主従であり、ある種姉妹のような気のかけ方をする。


 メイドは静かに進む。

 足音はほどんど立たず、微かに聞こえるそれは完璧な一律のテンポ。

 上半身は揺れず、まっすぐ前だけ見て歩くその姿はメイドの鏡と言っていい。


 その歩みを止めるのは、廊下の角に立っていた彼女の信頼できる部下。

 頼んでいた情報は簡潔に紙に纏められていて、それをすれ違いざまに渡して去っていく。

 メイドは素早くそれを確認して紙を切り裂きポケットに入れた。


 そして、向かう方向を変える。

 メイド長としての気配を作り、コツコツと足音を立ててキッチンに向かう。扉を開いてそこに佇むシェフに声をかけた。


「上手く逝かなかったようですね?」

「何のことです?」

「……手伝いましょうか」

「……キッチンはシェフの仕事場ですよ」


 爆発しそうな空気の中、メイドは不敵に笑った。

 そして、言う。


「良いのですか?女王に最も近付けるのは私ですよ?」

「……貴女が、女王に危害を加えるわけがない」

「ふふっ……認めるんですねぇ」

「ここに貴女が来た、諦めるには十分でしょう」

「そうですか。……では、お手伝いして差し上げますね」


 メイドはにこりと笑った。

 滅多に見られぬ彼女の笑みを最後に、シェフの視界は消える。

 メイドがキッチンから出ると、部下の1人が掃除用具を持って待機していた。


 軽く外見の確認をして、メイドはカーネリアの元に戻る。

 誰も居ない廊下を進みながら、静かに呟いた。


「私が獲物を逃すと?」


 その声に何かが反応し、影が揺れた。

 通り過ぎて行ったそれを見送って、メイドは再び歩き出す。

 音を立てずに、一定のリズムで。

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