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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
4章・女王の花
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1,来訪鳥

 アオイはいつも通りの日常を送っていた。

 自室で嫌々ながらに薬師会に持ち寄る書類の整理をしていると、窓を叩く音が入ってきた。

 横を見ると、カーネリアの鳥が止まっている。


 美しい鳥を見て、頬を緩ませながらペンを置いた。

 前回の茶会からそんなに時間も経っていないが、茶会の誘いは頻繁に来る。

 今回もそれだろう、と窓を開け鳥を中に入れたが、何かがおかしい。


 普段はすぐに足を差し出し手紙の回収を求めるその鳥が、なぜか足を出してこない。

 足を見ればその手紙が付いていない。

 どうしたのかと思っていると、初めて話しかけられた。


 主君を助けてください


 普段は何も言わぬカーネリアの、友人の愛鳥が、それだけ言ってこちらを窺ってくる。

 アオイはすぐに立ち上がった。

 理解するより先に体が動いた。


 真っ先にコガネに声をかけて、真っ白になった頭を必死に動かして作業部屋から必要になりそうなものを回収する。

 鳥は先に城に向かったようだ。

 アオイはコガネに抱えられてリコリスを後にした。


 移動しながら、家に居る者たちにコガネが連絡を送る。

 すぐにそれぞれから了解の意が返ってきた。

 コガネは加速してイピリアに向かう。

 アオイは不安そうにコガネにしがみ付いていた。


「……主。主が冷静でいないと」

「うん。そうだよね。大丈夫、落ち着くから」

「……俺は側にいるからな」

「うん。ありがとう、コガネ」


 弱弱しく笑ったアオイを見て、コガネは少しだけアオイを抱える力を強めた。

 自己主張するようなその行動に、アオイは笑みを深めてもう一度


「大丈夫」


 と言った。

 コガネは力は緩めずに、無言で前を向き直して加速した。


 イピリアに入り、城の前まで行ってアオイを降ろす。

 アオイは門番に止められる前に被っていたフードを取って、唖然とする門番の横をすり抜けるようにして城内に駆け込んだ。

 すぐにメイドが現れ、カーネリアの自室に案内される。


 カーネリアの部屋に入ると、そこにはベッドに横たわるカーネリアがいた。

 ベッドの横には彼女の側近のメイドと、目に水の膜を作ったサフィニアがいる。

 部屋に居るのは、その3人のみ。


 信頼できる人物しか入れないのであろうその部屋に、アオイは立ち入る。

 アオイに気付いたカーネリアに手招きされて、サフィニアとは逆のベッドサイドに立った。


「アオイか……」

「はい」

「誰に、呼ばれた……?」

「貴方の愛鳥に」

「……そうか……あれが……」


 イピリアの強く美しい女王は、息も絶え絶えにそう言った。

 その顔は白く、まるで雪の精にでもなったかのようである。

 美しいその顔に安らかな笑みを浮かべ、女王は言う。


「お主に、会えたなら……もう、未練は思い浮かばんな……」


 その言葉に、アオイは顔を伏せた。

 そして、ベッドサイドに勢いよく手を突く。

 コガネがそっと目線を外し、他の3人は目を見開いた。


「何を、何を言ってるんですか!」


 珍しく、本当に珍しく怒声を出したアオイに誰も何も言えず、彼女を見つめる。

 顔を上げたアオイの瞳は濡れて、ポロポロと雫が落ちている。

 それを止めようとも拭おうともせずにアオイは続けた。


「勝手に死にかけて勝手に呼んで勝手にいい感じに終わろうとしないで下さい!何のために私を呼んだんですかその死に顔を見せるためですか!これでも私世界で唯一の最上位薬師ですよ!?なんで使わないんですか!それに、それにカーネリア様に死なれたら計画してたサプライズがぱあですよ!!」

「さ、サプライズ?」

「そうです!カーネリア様の誕生日にドレスを送ろうって準備してたんです!もう!カーネリア様がそんなこと言うからサプライズじゃなくなっちゃったじゃないですか!」


 珍しく怒ったと思ったら、勢いよくそんなことを言ってプイッと顔をそむけたアオイに、カーネリアは思わず笑った。

 笑いながら咳き込み、それでも笑ってアオイに言う。


「まさか、そんな事をしていたとはな」

「豪華なのに動きやすい特別設計です!」

「ふっ……はは。全く、お主と居ると、何が起こるか分からんな」

「それに、まだセルリアに会ってないじゃないですか」

「ああ、そうだった。それもあったな……」


 浮かべていた笑みを女王のそれにして、カーネリアは言った。


「未練が出来た。アオイ、これを治せるか?」

「私でダメなら、不死鳥を呼ばないといけませんね」


 涙を拭って、ムスッとしたままそう言って、アオイはコガネに預けていた荷物を開けた。




 アオイとコガネが出発し、その報告を受け取ったリコリスの面々は概ねいつも通りに過ごしていた。

 ただ、セルリアは別である。

 彼女だけはアオイ不在のリコリスは初めてであり、どこかそわそわしていた。


 世話役はシオンであり、シオンはいつも通り居るのだが、どこか落ち着かない。

 四六時中一緒に居るわけではないのに、アオイが居ないというそのことがどうしても気になる。


「シオンにい」

「どしたん、セルちゃん」

「アオイ姉さまは、女王様のところにいったの?」

「そうやで。……でも、どっちかっていうと友達の所に、やな」

「ともだちのところ」


 繰り返して、何か考えているのかセルリアは下を向く。

 そして少ししてから顔を上げた。


「とってもいそいでた」

「うん。友達を救えるのが、マスターしか居らんかったんよ」

「すくう」

「そう。マスターは凄い人やからな」

「うん……」


 再び何か考えるように黙り込んだセルリアの頭を優しく撫でて、シオンは微笑んだ。

 そしてセルリアを抱き上げて外に出る。

 考え込むのにも、陽を浴びながらの方がいいだろう。

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