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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
3章・悪魔の目
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11,フォーンの王

 アオイはその日、フォーンに向かう用事があった。

 王宮から「コガネが以前倒した魔物の討伐報酬を渡す」というお達しが来たのだ。

 これは何かと訊ねれば、そういえばそんなことがあった、と返される。


 コガネの反応からして本当に忘れていたらしい。

 何はともあれ、呼ばれたからには行かなければいけない。

 まあ、フォーンの王とアオイは知り合いである。そう固くならずにフォーンに入った。


 王宮に向かい、イピリアの時とは違い止められずに王城に入る。

 ここでは事前に魔力による判別がされているのだ。

 城に入ってすぐにメイドが現れ、王のもとに通された。


 人払いは済んでおり、メイドが退室してすぐにフォーンの王は肩の力を抜いた。

 フォーン国王、魔王を討った勇者である。

 勇者であるが、目の前に人物からは凄みや威圧感は感じない。

 感じるのは人の良さそうな優しい魔力である。


「お久しぶりです、ケイさん」

「久しぶり、アオイさん」


 アオイがケイの正面に座った所で奥から人が現れお茶を置いて行く。

 ケイはその人物を呼び止め、座るように言った。

 ゼラ。勇者パーティーの1人で、ケイの幼馴染である。


「ゼラさんもお久しぶりです」

「お久しぶりです。すみません、来てもらって」

「いえいえ、王様に迷いの森に来てもらうわけにも行きませんから」


 笑って返したアオイに、ケイは項垂れる。


「やっぱり俺が王ってなんか違うと思うんだよ……」

「まだ言ってんのかお前は」


 ケイは項垂れたまま言う。

 魔王との戦いの前も最後まで自分が勇者であることに疑問を抱いていたし、そういう性分なのだろう。


「ケイさん国民に好かれてるじゃないですか。王の素質ですよ」

「そうかな……はあ、隠居したい」

「まだ駄目だぞー」


 周りに支えられながら国を造った若い王はぼやきつつ1枚の書類を取り出した。

 アオイに差し出し、確認を求める。


「これが、今回の要件ですね。コガネさんが倒した魔物の詳細と報酬です」

「ちなみにこれ、いつのですか?」


 ゼラから日時を聞き、アオイは天を仰いだ。

 コガネはなぜ教えてくれなかったのか。

 単純に忘れていたんだろうが。


「確かに受け取りました」


 頷いて書類と差し出された報酬をカバンに仕舞い、他愛もない話に花を咲かせる。

 そうこうしていると、1人の青年が近付いてきた。

 青年ではあるのだが、どこか中性的で不思議な雰囲気を纏っている。


「なんじゃ、モエギはおらんのか」


 開口一番そう言った美しい青年は、スルスルと近づいてきてアオイの隣に腰かける。


「連れてきても良かったではないか」

「サクラに猛反対されたんですよ」

「なんじゃ……むう、やはり嫁に貰わんと」

「サクラが怒りますよー」


 この青年は鳥である。

 勇者パーティーの連絡役をしていた魔力の高い鳥であり、自身も雄でモエギも雄なのを知っているのにモエギを嫁に寄こせと言ってくる。

 サクラが嫌う唯一の鳥と言っていい。


「こら、モエギ君は諦めろって言ってるだろ」

「諦められるか。あれほど綺麗な魔力をした者はそうおらん」


 窘められようと全く気にせずくつろぐこの青年、初対面でモエギを口説いてサクラを怒らせた過去がある。

 アオイはあれくらいしかサクラが怒っているのを見たことがない。


「サクラの説得に成功したら考えますよ?」

「言ったな?言質は取ったぞ」

「アオイさん、サクラちゃんの説得無理って知ってて言ってるよな……?」


 苦笑いと共に言われ、アオイはにっこりと笑った。

 サクラがモエギと離れる選択を受け入れるわけがないし、そもそもモエギがサクラと離れない。

 あの2人が離れるなど相当なことである。


 それも知っているはずだが、青年は真剣に方法を考えている。

 あんたどんだけモエギを嫁にしたいんだよ。


「あ、アオイちゃん」


 後ろから声を掛けられて振り向くと、そこには鳥を思わせる少女、にしか見えないが、男である。

 鳥の性別不詳率が高すぎる。


「リラさん」

「久しぶり、かな?元気だった?」

「はい」


 この男の娘は先代勇者の1人であり、ケイたちの国造りに参加している。

 二つ名は「不死鳥」であり、人をはるかに超えた治癒能力を持っている。

 この国にはもう1人先代勇者がいるのだが、忙しいのか姿が見えない。


「あ、そうだ、セザに言われてケイ君を呼びに来たんだ」

「イセルアさんが?」

「うん。大事なお話かな」

「分かりました」


 ケイが立ち上がったのを見て、アオイも席を立った。


「なら、私もお暇しますね」

「はい。ではまた」

「また」

「次はモエギを連れてこい」

「サクラがいいって言ったら連れて来まーす」


 手を振って部屋を出て、メイドに案内されて王城を出る。

 出てしばらくするとコガネが迎えに来たので、連れ立って帰路を辿る。

 討伐報告の紙を見せると、納得したのか頷いて仕舞った。


「次は報告してね」

「忘れなければ」


 これは忘れるやつかな、と思いながら、まあいいかと受け流した。

これで3章が終わりです。

4章は……まあ、ぼちぼち。

ツイッターで世界地図やらリコリスの間取りやら乗せてますので、気になる方はそちらもぜひ。

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