9,読書家
セルリアは賢かった。
唐突だが、とにかく賢かった。
絵本を読んでいるときにシオンに本が好きかと聞かれて頷き、簡単な本を用意したところ読書にはまり、今では低年齢向けの学問書に手を出している。
リコリスの読書家代表シオンが世話役だったのが大きいのか、元々絵本が好きだったからか。
とにかくセルリアは本を通して色々な知識を吸収していった。
アオイの使っている薬学書は流石に無理だったようだが、リコリスにあって読めそうな本は片っ端から読んていった。
そんなセルリアにウラハが声をかけた。
今日は出店リコリスがフォーンに行く日である。
「セルちゃん、一緒にお買い物行きましょ」
「お買いもの」
「ええ」
「行っていいの?」
「もちろん。本屋さん、行きたいでしょう?」
「うん!」
セルリアは目を輝かせて頷き、シオンに手を振って出店リコリスに乗り込んだ。
見送りに出たシオンに元気よく行ってきます!と言って、見えなくなるまで手を振っている。
シオンも見えなくなるまで外に居て、見えなくなったところでカウンターに戻って読書を始めた。
セルリアがどんな本を選んでくるのか楽しみに思いながら、セルリアはまだ読めなかった本をパラパラとめくる。
そのうちセルリアからオススメの本を聞ける日が来るのか、などと考え、頬が緩む。
何となく、子供の成長を喜ぶ親の気持ちが分かった気がした。
出店リコリスの中、セルリアは珍しそうに外を眺めていた。
考えてみれば、リコリスに来てから敷地外に出るのはこれが初めてである。
「フォーン、は、あたらしい国」
「ええ。新しくて、安定した国よ」
「さべつがきんし」
「そうよ」
「ゆうしゃが、王さま」
「よく知ってるわね」
ウラハに頭を撫でられ、セルリアは甘えるように目を細めた。
本で読んだ、と言ってその後も知っていることの答え合わせが続く。
やっているうちにフォーンに入り、セルリアはその人の多さと音の多さに目を丸くした。
「じゃあ、行きましょう」
「うん」
「後で合流な」
「ええ」
セルリアは差し出されたウラハの手にしっかりと掴まり、ウラハはセルリアを気遣いながら人混みに入った。
目的の本屋はそう遠くなく、セルリアが目を回している間に到着した。
「セルちゃん大丈夫?」
「フォーンは、人が、おおい……」
「そうね。とっても多いわね」
ヒシッとウラハにくっついたセルリアがぼやくのを聞きながら店の中に入る。
店の中は通りとは違って騒がしくない。
店内には数人の人がいる程度だった。
フォーンの本屋には学問書も多い。
学校があるから、学生が買いに来るのだ。
「セルちゃん、どんな本が欲しい?」
「えっとね、お話もよみたいし……アオイ姉さまのよんでる本の、わたしでもよめるやつも欲しい……」
「じゃあ、3冊まで自由に選んでいいわよ」
「3冊」
「ええ」
セルリアは笑顔で頷いて本を探しに動き始める。
ウラハはセルリアの気配を追いつつ自分も本を探し始めた。
自分の分と、シオンに頼まれた物である。
しばらくして、セルリアが戻ってきた。
手には3冊本が抱えられている。
それを受け取り、自分の分と合わせて会計を終わらせる。
時間を見れば昼時である。
何が食べたいか聞いて、適当に店に入る。
本は帰ってから。と窘めつつ昼食を終える。
店を出てからセルリアがボソッと呟いた。
「デザート、モエギお兄ちゃんがつくるほうがおいしかったね」
「ふふっ。そうね」
リコリスの料理担当に敵う者はそう居ない。
セルリアは随分と贅沢な舌に育ってしまうかもしれない。
そんなことを思いながら、コガネたちと合流する。
トマリは買い出しに出ているようで、出店リコリスにはコガネしかいなかった。
ウラハが抱えていた袋を見ていいのがあったか、とセルリアを撫でる。
店番をするコガネの邪魔にならないように奥に移動し、セルリアに本を渡す。
さっそく読み始めたのを見て、これは本が増えるな、と考えた。
最終的にはどこまで行くだろうか。もしかしたら、書庫増設になるかもしれない。
想像して笑い、ウラハも本を開いた。