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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
1章・龍の雫
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2,分からぬことは

 コガネに抱えられて高速で移動しながら、アオイはなおも考えていた。

 解毒をして、傷を塞いで、血を増やして……それから何が必要だろう。

 そもそも、人の薬が龍に効くのだろうか。その疑問の答えを知るために、こうして暗い道を進んでいた。


 あの家、リコリスにいるのは、アオイとアオイの契約獣だ。

 人はアオイしかおらず、皆人の姿をとれる魔力の高い獣である。

 契約獣には、2つの種類がある。


 1つは、アオイの行う「魔力契約」で契約を結んだもの。

 互いの同意のもとで行われており、主と認めたものから名前を付けられた獣がその名を受け入れ、互いの魔力を少しだけ交換する。

 魔力契約は強力だ。互いに結んだものだから解けず、契約獣は主の魔力を少しずつため込んで己の力にすることが出来る。主もまた、契約獣の魔力を溜めこむことが可能だ。


 もう1つは、この世界の主流である「血力契約」で契約を結んだもの。

 獣の同意なしに血で縛り、無理やり従わせるものだ。

 契約主の魔力が未熟だと獣に飲まれ、従わせることが出来ても契約主の力以上の力は出ず、どれだけ強力な魔獣を従わせようがその力を抑え込んでしまう。


 血力契約に比べ、魔力契約は強力であり、危険も圧倒的に少ない。

 それでも、主流は血力契約だった。

 魔力契約を行うには、双方の同意が必要である。

 獣の言葉が分からなければ、その確認が出来ない。

 邪気があれば、獣が寄ってこない。


 アオイは、邪気がなく獣に好かれ、特殊な生まれ故に獣と話すことが出来た。

 彼女は特別な存在であり、迷いの森の噂も、ある意味間違ってはいなかった。


 魔力契約と血力契約の違いで、もう1つ大きなものがある。

 それは、契約主と契約獣の距離だ。

 血力契約は、契約主の魔力の届く範囲しか契約獣が動けず、そこから外れると契約が切れてしまう。

 一方魔力契約に距離は関係ない。一度契約を結べば、世界の反対側にいようが契約は有効である。


 なぜ急にこんな話になったのか。

 それは、今から行くところにもう1体の契約獣がいるからだ。

 アオイの契約獣は、全部で7体。6体は共に生活しており、1体は今も出会った場所に居る。

 その1体に会うため、こうしてコガネに運んでもらっていた。


 コガネは森を抜け、その先にある峡谷に飛び込んだ。

 勢いそのまま落ちていき、地面が見えたら魔法で風を起こして勢いを殺す。

 ストンッと軽い音を立てて安全に着地し、アオイを降ろす。


 アオイは慣れた様子でそこから伸びる洞窟に入っていき、コガネもその後について行く。

 少し進むと、洞窟の中は光る苔やキノコで幻想的に光り始める。

 その数は徐々に増えていき、洞窟全体が光っている状態になった。

 だが、眩しくはない。柔らかな光に包まれながら進むと、大きな空間にでる。

 その空間の中央に光る大樹が生えており、その麓にドラゴンが座していた。


「久しぶり、ヒソク」

「久しいの、アオイ」


 この、透き通る水の流れのような、光の具合で色味の変わる鱗をしたドラゴンがここに来た理由だ。

 ヒソク。アオイの契約獣であり、最上位のドラゴンである。

 ここから出ることはないがその力は強く、迷いの森という世界でも有数の魔物の巣窟でアオイが平和に暮らしているのは、ヒソクが主体となって張った結界のおかげである。

 その結界が中々過保護で、悪意を持った者はリコリスにたどり着けないようになっている。


「どうしたんだ?こんな夜更けに」

「聞きたいことがあるんです」

「であろうな。急ぐのだろう?」


 ヒソクはそう言って、首を動かす。

 アオイはヒソクに歩み寄り、その鱗に触れた。

 目を閉じて、水の流れに身を預ける。

 ヒソクは自身の身体に寄りかかるアオイを抱きしめるように首を回した。


「私に、龍を治す薬が作れるのかな、と」

「お主で無理なら、誰にも出来ぬだろうな」

「それはどっちの意味ですか?」

「出来るであろうよ。お主は最も優れた薬師なのであろう?そうでなくても、天上の主の力がある」

「その力は、使いたくないです」

「そうか。ああ、そうであったな」


 コガネは、少し離れたところから2人が語らうのを聞いていた。

 ヒソクは多くを知っている。最上位のドラゴンであり、千年以上を生きている。

 種族としての格はコガネの方が上だが、コガネはヒソクを師か、兄のように思っていた。


「人の薬は効きますか」

「物によるな。効くものもある」

「それを聞くのは、ズルですか?」

「いや、そうではないさ。古来よりあるものは効く。人の作り出したものは効かぬ」

「……材料、ですね?」

「ああ」


 アオイがヒソクから身体を離した。

 ヒソクも首を動かし、アオイから離れる。


「ありがとうございます。結果、報告に来ますね」

「ああ。待っておるよ」


 ヒソクが微笑んだのだろう、と気配で察して、アオイは微笑み返した。

 そして、コガネと共に来た道を戻る。

 帰りもコガネに抱えてもらい、あっという間にリコリスに戻ってくる。


「コガネ、フォデーグの毒って、どんな物?」

「そうだな……麻痺が強い。基本的に、動きを止めるための毒だ」

「動きを止めて、他の方法で攻撃するんだ」

「ああ。爪で切り裂いてそこから毒を入れて、噛み付いて仕留める」

「牙に毒は?」

「ない」


 コガネに質問をしながら、アオイは書斎に向かう。

 細長いその部屋はアオイが新薬を考えるときに使う部屋であり、多くの薬学書が置いてある。

 根を詰めすぎるなよ、と声をかけてコガネは退室する。

 こうなると、自分は邪魔になる。だが主が起きているのに寝るのは何だか嫌だ。……ビンでも作るか。


 コガネが自身の仕事の1つであるポーション用の小瓶を作りに行こうとすると、後ろから声を掛けられた。

 声をかけてきたのは、トマリ。出店を引いている青年だ。目つきが悪い。

 コガネは反射的に顔をしかめた。

 トマリが嫌いなわけではない。ただ、種族の相性が悪いのだ。


「これ、使うか?」

「なんだ、それ」

「フォデーグの毒」

「は!?お前それどこで……」

「教えねぇよ」


 トマリは楽しそうにクツクツと笑った。……やっぱり嫌いかもしれない。

 コガネが睨むと、トマリは笑いを収めて近づいてきた。

 反射で臨戦態勢を取る。別に、何かされるとは思っていない。ただ、反射でやってしまうのだ。


「使うだろ?」

「……使う」


 コガネは差し出された小瓶をムスッとしながら受け取り、アオイの元へ戻った。

 トマリはその後姿を見送って、クツクツと笑う。

 構うから嫌われるのは知っている。それでも構ってしまう。それは種族的に仕方のない事だった。

 そう、全ては種族のせいである。



 本を数冊開いて、手元の紙にメモを残しながら唸る。

 正直、読書は得意ではない。薬師試験やらその最上位の取得やらで本を読む機会は増え、読む速度は速くなったが読書自体は苦手だった。

 だが、必要なことである。生憎一度読んだ程度で覚えられる頭をしていない。


 唸ってメモを取って本をめくって唸って。

 必要な項目を移し終えたところで、扉がノックされた。


「入っていいよー」

「主」

「コガネ?どうしたの?」


 アオイが書斎に居るときにコガネが来るのは珍しい。

 来るのは食事が出来た時くらいである。……そういえば、モエギが夜食を作ってくれているんだった。あとで食べよう。


「これ、トマリが」

「……これって」

「フォデーグの毒らしい」

「トマリはどうやったの、これ」

「知らん」


 やけにムスッとしていると思ったら、またからかわれたようだ。

 理由を知っているから止めるに止められず、拗ねるコガネは珍しいからいいかと思ってしまっている。


「後でお礼を言わなきゃね」

「そうだな」

「よし、コガネ、少し手伝って」

「ああ」


 小瓶と、先ほど作ったメモを持って移動する。

 行き先は作業部屋だ。

 せっかく手元に実物があるのだから、有効活用しなくては。




 夜が更け、夜食を食べながら作業をして、2人が眠りについたのは朝日が顔を出しかけた頃だった。

 そこから眠り、8時頃に起きて朝食を食べて客間に向かう。


「おはようございます」

「おはようございます。眠れましたか?」

「はい、朝ご飯までいただいてしまって……」

「いえいえ、気にしないでください。……さて、本題に入りましょう」


 アオイはビレスに向き直る。

 ビレスもきちんと座り直し、アオイの言葉を待った。


「治せるかもしれません。なので、村に向かいましょう」

「ほ、本当ですか!?」

「はい。まだ、可能性があるだけですが」


 ビレスは勢いよく立ち上がり、アオイの手を取った。


「ありがとうございます!」

「村の場所を教えてもらえますか?」

「はい!」


 ビレスは持っていた地図と、コガネの持ってきた地図を見比べて村の位置を記した。

 それを見て、アオイはふと思う。


「川が、近いんですね。大きな川ですか?」

「はい。辿ると海に繋がっているそうです」

「ああ、それなら」


 アオイはパッと笑顔になり、言った。


「海から行きましょう!」

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