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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
3章・悪魔の目
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8,様が付くのは偉い人

 アオイがイピリアに行った日、シオンはいつも通りセルリアと過ごしていた。

 買った絵本を読んだり、物置にあったものを使って遊んだり、セルリアがやりたいといったので字を書く練習なんかもやっていた。

 いつものように過ごして、お昼を食べた後にセルリアが言った。


「しおんにい、あおいおねえちゃん、じょうおうさまとあってるの?」

「そうやで。マスターと女王様はお友達やからな」

「おともだち」


 セルリアは何かを考えているのか動きを止めた。

 シオンが待っていると、困ったようにシオンを見上げてくる。


「じょうおうさまのおともだちは、えらいひと?」

「どうしてそう思うん?」

「じょうおうさまって、えらいひとでしょ?おともだちって、「たいとう」ってことなんでしょ?」

「対等って、この歳の子が言うような言葉やったんか……」


 しみじみと言ったシオンに、セルリアは不安そうな目を向けてくる。

 澄んだ緑色が揺れているのを見て、シオンはセルリアの頭を撫でた。


「マスターは偉い人って言えば偉い人やけど……マスターと女王様がお友達なんは仲がいいから、やよ」

「なかよし?」

「仲良し」

「あおいおねえちゃんはえらいひと」

「あ、そこ拾っちゃうんや……」


 ちがうの?という目を向けられ、違うとも言えずに曖昧に笑う。

 実際最上位薬師はとんでもなく偉い人である。

 だがアオイが偉い人という立場を好いていない。


 セルリアに変な誤解を与えたくないが、アオイに怒られたくもない。

 そんな狭間で揺れるシオンの心など全く知らず、セルリアは1つの結論を出していた。




 アオイが帰ってきて、出迎えたのはカウンターにいたセルリアとシオンである。

 ただいま、と微笑んだアオイに、セルリアが抱き着く。


「おかえり、あおいねえさま」

「うーん、姉さま?」

「うん!」


 元気よく答えたセルリアの頭を撫でつつ、アオイはシオンにじろりと目を向けた。

 説明しろ、と目で催促されて、白旗代わりに両手を挙げる。

 流石にセルリアの聞いているところでは言いづらい。


 夕食後に逃げる間もなく名前を呼ばれ、何かを悟ったウラハによりセルリアはお風呂タイムである。

 逃げ道を完全にふさがれてシオンは久々に冷や汗をかいた。

 アオイは普段温厚な分、数年に一度ある怒るタイミングがとても怖い。

 まさか今回ではないだろうが、背中は嫌な汗で濡れている。


「尻尾が……」

「今はないでしょ」

「せやけどな……」

「別に怒ってはないよ」


 言われて、とりあえずホッと息を吐いた。

 ここから怒る主ではない。一安心だ。


「で、なんで姉さまになったの?」

「ああ、女王様とお友達なのは偉い人っていう考えみたいやね」

「端折るな?」

「……偉い人?って聞かれて、まあ偉い人っちゃ偉い人やなって言ったら、拾ってまったんやもん」


 スーッと目を逸らしたシオンにため息を吐き、アオイは食後のお茶を飲む。

 シオンは目を逸らしたまま固まっている。


「可愛いからまあいいけどさ……」

「じゃあ許して?」


 スッと目線を戻したシオンのおでこをペチッと叩いて、アオイはにっこりと笑う。


「伝え方は」

「……嘘つくわけにいかんやん……マスター実際偉い人やん……」


 再びスーッと目線が外れる。

 助け船は、意外な所からやってきた。


「最上位薬師が普通の職業、なんて誤解するよりいいだろ」

「トマリ。おかえり」

「おう」


 夕食時に一瞬現れすぐにどこかに行ったトマリが戻ってきて、珍しくシオンの味方をしている。

 アオイは意外そうにトマリと見つめ、シオンは思わずトマリを拝んだ。


「そもそもお前立場的にはめちゃくちゃ「偉い人」だろ。認めりゃいいじゃねえか」

「そうだけど……家の中でそれは関係ないじゃん?」

「セルリアは気にしてないだろ。呼び名が変わっただけじゃねえか」


 シオンはトマリを拝んで深々と礼をした。

 トマリは無言で背中を叩いた。

 シオンが顔を上げる。


「……なんかそういうオモチャみたい」

「叩くと起き上がるオモチャ?」

「ありそう」


 何とも緩い雰囲気になり、トマリに免じてシオンは解放された。


「ありがとなぁー」

「別に助けたわけじゃねえけどな。まあアオイが嫌がるのも分かるから何ともだな」

「そうなんよなぁー。別に、そういう意味で言ったわけでもなかったんよなぁ」

「ま、それは分かってんだろ」


 ゆるゆるとうなだれるシオンの背を叩いてトマリは影に入っていく。


「おら、セルリア来るぞ」

「あーい」


 シオンは緩く手を振ってトマリを見送り、近づいてくる軽い足音を待った。

 足音の主はシオンを見つけると速度を上げて駆け寄ってくる。


「しおんにい」

「セルちゃーん。髪乾かそか」

「うん!」


 セルリアとシオンが去って行き、後ろを歩いていたウラハはアオイに声をかける。


「まあ、いいんじゃない?結果だけど呼び方が変わっただけだったし」

「そうだね。今回は不問としましょう」

「姉さま呼び可愛いわよね」

「激しく同意」


 その会話を聞いていなかったシオンは翌日もほんのり怯えていたが、不問になったらしいと察してすぐにセルリアと昼寝に出た。

 アオイの件とは別にコガネに小言を言われた。

姉さま呼び可愛いですよね。ね。

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