表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
3章・悪魔の目
27/190

6,箱買い

 アジサシはその日泊まって次の日に帰るようだ。

 というのも、アジサシの注文は「箱買い」である。

 ポーション系は50個で1箱であり、それを何箱も注文するのでその日の内には出来上がらない。


 アジサシは基本的に質の良い物しか仕入れない。

 そのため、薬を仕入れる店はここリコリスともう1店、アオイの師匠の店、第3大陸のガルダという国にあるエキナセアだけである。

 アオイが独立する前はエキナセアでしか仕入れなかった為、今より高頻度で大量注文が入っていた。


 多額の支払いになるためアオイは師匠に「収入的にはいいのか」と聞いたのだが、師匠からは「利益のために薬屋をしているわけではないから問題ない」と言われた。

 その後に続けた、いざとなったら昔の仲間からぼったくる、という発言は聞かなかったことにした。


「ふあ……ああ……」

「主、大丈夫?」

「うん。これで終わりだし……終わったら寝るね……」

「分かった」


 注文された物の足りていなかった分、出すと無くなってしまう物を作り終え、アオイは大きく欠伸をした。

 ビン詰めはコガネが手伝い、朝日が昇る前にすべての作業が終了する。

 寝ても間に合う作業量だったが、一気に終わらせる方が後が楽だから、と夜通し作業してアオイは部屋に戻って行った。


 仮眠程度の睡眠をとり、商品を受け渡して代金を受け取る。

 去って行くアジサシを見送り、朝食を食べて再び寝に戻った。

 今日は起こさないでおこう、というお供たちの気遣いにより、アオイが起きたのは夕方だった。


「……うーん、寝過ぎた」


 頭を掻きながら呟いて、アオイはベッドから降りた。

 机の上に置いた愛用の懐中時計を開いて時間を確認する。

 手のひらにすっぽり収まるそれは、花と鳥があしらわれ、銀に青を落とした色をしている。


 長く使い込んでいるが、汚れや傷はほとんどない。

 モクランには物持ちがいいと言われたが、アオイはモクランが壊しすぎるだけだ、と思っている。

 だがモクランは戦闘職である。壊れるのは仕方がない。


 時計を懐に入れて階段を降りると、モエギが夕食の準備をしていた。

 暖炉の前に置かれたソファにはサクラとシオンとセルリアが座っている。

 サクラとセルリアがじゃれているのを見て、ふと思った。


 色味が似ている。

 濃さは違うが共に緑色の目をしていて、サクラの髪は名の通りの桜色、セルリアの髪は薄いピンクの入った銀色、シルバーピンクと呼ばれる色だ。


「お、マスターおはよー」

「おはよう。起こしてくれても良かったのに」

「まあ、疲れてそうやったし」


 フッと笑って言われ、反論できなくなる。

 確かに疲れてはいた。


「あおいおねえちゃん、みて、みて」

「うん?なあに?」


 セルリアに袖を引かれて目線を合わせると、ぬいぐるみを差し出される。

 猫の形をしていて、首元には星の飾りがついている。

 どことなくシオンみがあるが、シオンの作ではないだろう。


「可愛いね」

「うん!もえぎおにいちゃんがつくってくれたの!」


 嬉しそうにぬいぐるみを抱きかかえるセルリアの頭を撫でる。

 シオンを見ると苦笑いしていたので、自分がモチーフなことは悟っているようだ。

 内心微妙な気分だがセルリアが気に入っているので何も言えないのだろう。


「ご飯出来ましたよー」

「はーい」

「わーい!」


 モエギに呼ばれて、サクラが勢いよく立ち上がった。

 セルリアはシオンと共にテーブルに向かい、ウラハとコガネはアオイが呼んでおく。

 トマリはいつの間にかそこに居た。


「主、おはよう」

「おはようコガネ。コガネは寝た?」

「うん。光合成」

「そっか」


 コガネは日の当たるところで昼寝をする方が好きなのだ。

 光合成、と言ってはいるが、別に葉緑体はない。

 この辺りの単語などの知識はアオイの記憶から得ているのだが、アオイがそれに気づいているかは謎である。


「セルちゃん、これ苦手?」

「にがい……」

「1個は頑張って食べようか。残りは貰うよ」

「うん……」


 食事が始まり、セルリアが苦いと言いながら苦手な野菜を口に運んでいる。

 どうにか1つを呑み込んだところでコガネが残りを貰っていき、セルリアは別のおかずをパクパクと食べ始めた。


 食べ終わるとデザートが出てきて、セルリアとサクラが顔を輝かせた。

 モエギが運んでくるそれを目をキラキラさせて待っていた2人は、同時に手を付け同時に幸せそうな表情をした。


「美味しい?」

「「おいしい!」」


 息の合った返事に、モエギも満足そうである。

 アオイも差し出されたそれを口に運び、頬を緩めた。


「もう収穫時期だった?」

「早く出来たのが少しあったので。まだまだこれからですね」


 中に入っている果実の話をしながら、デザートを食べる手は止まらない。

 一足早く食べ終わっていたセルリアはウラハと共に風呂に向かい、サクラはおかわりを要求して断られている。


「また明日ね」

「やった!」


 まだあることを知ったサクラは飛んで喜び、つまみ食いはするな、と釘を刺された。

 しないよう、と言った目は泳いでいた。

 モエギに詰め寄られ、逃げるように部屋に戻っていく。


「まったくもう……」

「まあ、あれだけ言えばしないでしょう」


 アオイはそう言って立ち上がり、モエギの頭を撫でる。

 美味しかったよ、と告げれば嬉しそうに目を細めて頭を押し付けてくる。


「主はこの後どうしますか?」

「流石にすぐには寝れないしね……書斎に居る、かな」

「分かりました。夜食作っておきますね」

「ありがとう」


 もう一度頭を撫でて、一度部屋に戻る。

 何をしようか考えながら、部屋に持ち込んだ箱を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ