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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
3章・悪魔の目
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4,絵本

 トマリがモエギに布を渡しに行っている間に、コガネはカウンターに居るであろう2人のもとへ向かった。

 予想通りカウンターに座り、何かをやっている。

 コガネに気付くと顔を上げた。


「お、おかえりー」

「ただいま。これで良かったか?」


 シオンに絵本を見せると、セルリアが顔を輝かせた。

 促されてセルリアに渡せば、花がほころぶような笑顔を見せてくれる。


「もらっていいの?」

「ああ」

「ありがとう!」


 セルリアの頭を撫でて、コガネは作業部屋に入った。

 ビンの原料を置いて部屋を出て、アオイを探して家の中を巡る。

 部屋を覗いて、書斎を覗いて、物置に向かう。


 アオイは物置の中で何かを探しているようだった。

 声をかけると振り返って手招きする。

 自力で発見できなかったらしい。


「何を探してるの?」

「前に買った台。使わなくなってここに置いたでしょ?」

「ああ、そういえば」


 セルリアが届かないところがあったのか、前までサクラとモエギが使っていた台を探していたようだ。

 あの2人は背が伸びたわけではないが高いところにも手を届かせるようになったので、台はお役御免となり物置で眠っていた。


 セルリアの背はおよそ100センチほどだろうか。

 サクラが130センチほどなので、小鳥組がギリギリ届く高さには届かない。

 ちなみにモエギは135センチ(自己申告)である。


 サクラと並んでいると確かにモエギの方が少し大きい。

 だが、コガネからしたら誤差だった。コガネも少女の姿を取っているときは小さいが、男の姿を取っていれば180センチほどある。

 正直目線が自分より下に行きすぎると全て誤差の範囲だった。


「あ、あったよ」

「おお、流石コガネ」


 物の積まれた一角から見つかった台は、少し埃を被っていたがまだまだ使えそうだ。

 外に出て埃を落とし、ついでに可愛く絵を描いたら完成である。

 洗面所の前に置いておけば、なぜかサクラが乗りに来た。


「丈夫!」

「そうだな」


 ぐっと親指を立てたサクラを台から降ろして、連れ立ってキッチンに向かう。

 モエギとウラハが夕食の準備をしていたので、邪魔しないように着席して待っているうちに皆集まってきた。

 夕食はいつも通り終わり、アオイとセルリアが一緒に風呂に向かい、小鳥組は一度部屋に向かった。


 残った者で、何となく会話を続ける。

 珍しくトマリもその場に残っていた。


「で、セルリアはどんな感じ?」

「素直、やね。とにかく素直でええ子やよ」

「それは、どの意味まで?」

「ウラハが思っとるんで合っとるよ」


 対の2人にしか分からないやり取りの後に、シオンはトマリに目を向けた。

 トマリは気付いてシオンに向き直る。

 今日は逃れる気がないようだ。


「で、トマリは何でセルちゃん避けてるん?」

「……子供は、泣くだろ」

「……ふっ……は……」

「おいこらコガネ笑ってんじゃねえよ」

「あっははは!」

「おい!」


 コガネが腹を抱えて笑い始めた。

 ウラハが釣られている。


「まあ、泣くけど何でそんな急に」

「目つき悪いだろ。目が合うだけで泣かれたことあるんだよ」

「ああ、なるほど」


 トマリなりの気遣いだったのかもしれない。だが、コガネからしたら笑いのネタにしかならない。

 しばらく笑い続けて、トマリに叩かれてやり返す。

 なぜかコガネより釣られて笑っていたウラハの方が長時間笑っていたが、そちらには何も言わなかった。


「何で私だけ!」

「お前が始まりだろ!」


 わちゃわちゃとじゃれている2人は無視して、シオンは笑い過ぎで過呼吸気味になっているウラハにお茶を差し出した。

 しばらく眺めていたが、奥から人が来たのでじゃれあいも中断される。


「楽しそうだね?」


 フワリと笑ったアオイに、コガネが駆け寄る。

 セルリアはシオンに気付いて近寄ってきていたので、膝の上に乗せて髪を乾かす。

 その隙にトマリは居なくなっていた。


「しおんにい、あのね」

「うん」

「ねるまえにね、えほんよんでほしいの」

「ええよ」


 そのやり取りに気付いたアオイから、なら先にと促されてウラハにセルリアを預けて風呂に向かう。

 シオンは猫だが、別に風呂を嫌がったりはしなかった。

 ただ、長湯はしない。絶対にしない。


 シオンは去って行き、ウラハがセルリアの髪を乾かし終わって少しした頃に烏の行水から戻ってきた。

 もう髪も乾いている。魔力の気配がするので、魔法で乾かしたのだろう。

 ウラハは笑いながらセルリアを降ろした。


「おやすみ、セルちゃん」

「おやすみ、うらはねえ」


 シオンと手を繋いで2階に上がっていくセルリアを見送り、ウラハはニコニコと笑う。


「ご機嫌だね」

「子供は好きよ。見ていて飽きないもの」


 アオイは思った。

 ウラハは自分に母性があるのかも分からない、ということがあるが、完全にリコリスのお母さんである。もはや母性しかない。なんなら自分が甘えたい。


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