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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
3章・悪魔の目
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2,少女と猫

 少女は食事をとってすぐに眠りについた。

 疲れていたのか、満腹になったからなのか。

 とにかく、少女が眠ったのでアオイはその部屋を離れ、お供を集めていた。

 集合場所は全員分のイスがあるリビングだ。


「そんなわけで住人が増えました」

「どんなわけだ」

「そんなわけだって」


 急遽足りなくなった薬の材料を集めに行っていたトマリだけが事情を把握しきれておらず、小言を言った。

 リビングにはすでにイスが追加されている。

 トマリは諦めて茶を啜った。


「で、目の中に居た悪魔の欠片はコガネが倒したってことになってるので」

「倒した」


 コガネはアオイの横でぐっと力こぶを作った。

 なお、力こぶは出来ていない。


「で、悪魔の目の伝承ってどんな物?」

「緑眼は悪魔の目であり、緑眼が村に居ると村に災厄が訪れる……って伝承だね。緑眼の子が生まれたら、7歳の誕生日に捨てる風習がある」

「7歳の誕生日までは育てるの?」

「うん。その前に捨てると悪魔に目を付けられる、って」


 アオイは生まれた地にあった「7歳までは神のうち」という考え方を思い出していた。

 関わりのない世界のはずだが、7歳というのは何かの区切りとして考えられるものなのだろうか。


「……あ、世話役はシオンにお願いしようかと」

「俺?なんで?」

「ダメ?」

「いいけど」


 急に話題に放り込まれて、お茶を冷ますことに力を注いでいたシオンは戸惑いの声を上げた。

 アオイの中では決定事項らしく、了解すると満足そうに微笑まれる。


「あとは……」

「名前、だね」


 コガネに言われて、アオイは考え込む。

 お供たちの名前は全て色で3文字、と決めていたが契約獣以外に名前を付けるのは初めてだ。

 ちなみに3文字と謎の制限を付けたせいで、トマリの名前は「留紺」を短くしてトマリである。

 それはもう色ではないのではないか、と言われたが、まあいいだろうとゴリ押した。


 それはともかく、あの少女の名前だ。

 なんとなくではあるが、契約獣との区別化のために3文字以外で、と考える。

 少女の印象から、1番初めに思ったのは


「セルリア」

「セルちゃん」


 シオンが反芻して、いいのではないか、という雰囲気になる。

 少女が嫌がらなければそれで、となり夕食になった。

 その夜アオイは寝る前に少女の顔を見に行き、寝息を立てる少女の頭を撫でて部屋に戻った。



 翌朝、シオンは目を覚ますと隣の部屋をノックした。

 そこが少女の部屋である。

 入るとすでにアオイがいて、少女も起きていた。


「おはよう」

「おはよう。セルリア、この人がシオン。何かあったら何でも言ってね」

「うん」


 どうやら名前云々は終わったようだ。

 シオンはセルリアの前でしゃがみ、ゆっくりと頭を撫でた。


「よろしくな、セルちゃん」

「よろしく、えっと、しおんにい?」

「うん」


 シオンは嬉しそうに笑った。

 アオイは2人のやり取りを微笑ましそうに眺め、声をかけた。


「じゃあ、朝ご飯食べようか」


 言いながら部屋の扉を開く。

 セルリアはその場から動かず、恐る恐るアオイを見た。


「でていいの?」

「……うん。いいんだよ」


 アオイに言われ、シオンに手を引かれてセルリアは部屋から出てくる。

 そのまま階段を降りてリビングに向かえば、他の者はもう席に着いていた。


「おはよう!」


 サクラがセルリアに飛びついた。

 ただし、勢いは付いていない。コガネに飛びつく時なんかはかなり高速なので、一応考えてはいるようだ。


「おはよう、さくらおねえちゃん」

「えへへへ」


 お姉ちゃんと呼ばれたくて飛びついたらしい。

 お姉ちゃんらしからぬ行動だが、それに何かいう者は居ない。

 モエギに呼ばれてサクラが離れ、セルリアはシオンの横に用意された席に座った。


 セルリアの正面にはトマリが座っているが、なぜか目を合わせない。

 セルリアは首を傾げたが、何も言わずにシオンから渡されたスプーンを手に取った。

 食事が終わり、各自自分のすることをしに行った。セルリアとシオンは家の中を回り、入っていい部屋、入ってはいけない部屋を説明している。


「ここは、作業部屋。何があるか分からんから入っちゃあかんで」

「うん」

「こっちは保管庫。入ってもええけど、物に触らんように」

「うん」


 セルリアは非常に素直に頷いて、シオンの説明を聞いている。

 1階の説明が終わり、2階に上がる。


「ここがセルちゃんの部屋な。好きに使ってええで」

「すきに?」

「うん。何を置いても良いし、どこに置いてもいい」


 部屋の扉を開けながらそう告げれば、想像しているのかセルリアは部屋を見渡した。

 少しして、満足したのかシオンの隣に戻ってくる。

 手を繋いで部屋を出て、隣の部屋の扉を開ける。


「ここは俺の部屋。なんかあったら、何時でも開けてええよ」

「しおんにいのへや」

「うん」

「……ねれなかったら、きてもいい?」

「もちろん」


 その後は外に出て近づいてはいけないところを教えて、時間が余ったので店に戻る。


「俺は基本ここにおるから、なんかあったらここに来てな」

「うん」


 カウンターに置かれているイスは高く、自力で座れないセルリアを乗せてやりながら言う。

 イスに座り、セルリアはほうっと息を吐いた。


「わたし、ほんとうに、おへやからでていいの?」

「ええんよ。悪魔はもうおらんからな」


 シオンはゆっくりとセルリアの頭を撫でた。

 セルリアはその手に身を任せ、イスから落ちそうになった。

セルちゃん可愛いよセルちゃん

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