11,王宮からの手紙
時折面倒ごとを抱えた客が来るとは言っても、普段のリコリスは平和なものだ。
今日なんかは特にその平和な日で、天気もいいし風も穏やかである。
ウラハとサクラは楽しそうに洗濯をしていて、シオンは庭で昼寝に勤しんでいる。
トマリの姿が見えないのは……まあ、いつもの事だ。
アオイとコガネは畑で薬の材料を収穫していた。
丁寧に1つ1つ収穫し、カゴに入れていく。
しばらく無言で続けていたのだが、コガネがふと顔を上げた。
「主、何か来るよ」
「え?本当?今日は来客はないと思ってたんだけどな……」
コガネにつられて顔を上げれは、空に美しい鳥が飛んでいた。
優雅に旋回してアオイの近くに来た鳥を見て、確かに来客ではないな、と思った。
その鳥はアオイが伸ばした手に止まり、スッと足を差し出してくる。
「ありがとう、少し待ってくれる?」
アオイの問いかけに足を降ろすことで答え、飛び立って先にアオイの部屋の窓に移動した。
慣れたように手紙を運んできたこの鳥は、イピリアの女王が個人的な用がある者に出す使いだ。
アオイが部屋の窓を開けると、再度足を差し出してきた。
手紙を受け取っても出て行かないのは、返事を貰うためだろう。
アオイは手紙を開き、内容を確認して手早く返事を書いた。
それを持って鳥は去って行く。
アオイが下に戻ると、コガネが収穫を終わらせて入ってきていた。
ありがとう、と頭を撫でれば、何だった?と聞かれる。
「カーネリア様がお茶しに来いって」
「ああ、いつもの」
イピリアの女王、カーネリアとアオイは友人だった。
アオイが最上位薬師の資格を取った時、王宮に来ないかと聞かれて唯一すぐに断れなかったのがカーネリアの誘いである。
彼女はアオイを唯一の友人としており、時折こうして遊びに来い、と手紙を寄こす。
出会った当時は王女だった彼女は女王となり、王宮から出ることは出来なくなっていた。
退屈だ、街に出たいとぼやくのはいつもである。
「いつ行く?」
「次にイピリアに店を出すときに一緒に乗ってくよ」
「分かった。帰りに回収するね」
「お願いね」
ぐっと拳を握って言うコガネに笑いかけながら、アオイはモエギを探した。
食糧庫で食事の内容を考えているモエギを発見し、イピリアへの同行を願う。
すぐに笑顔で頷かれ、ついでに何が食べたいか聞かれた。
アオイのリクエストで作られたサンドイッチを頬張りながら、ウラハとモエギが何やら盛り上がっていた。
内容は、アオイが提案したサプライズの用意であり、主な実行役になるであろう2人は食事が疎かになるほど大いに盛り上がっていた。
……楽しそうだな。混ざりたいな。
そんな目線をサクラが向けているが、珍しくモエギが気付かないほどの盛り上がりである。
アオイはそれを微笑ましそうに見つめ、サンドイッチを頬張る。甘辛いタレが肉によく絡んでいて、葉野菜はシャキシャキと歯ごたえがいい。
黙々と食べていたアオイは、ふと気づいて顔を上げた。
いつの間にやらトマリがいない。
皿の上に乗ったサンドイッチは無くなっているので、食べ始めた時に居たのは見間違いではないようだ。
どこに行ったのやら。
考えてみても、彼の考えが分かる訳はない。
それでも、食事の後くらいゆっくりすればいいのに、と思った。
反対にシオンはゆっくりし過ぎである。先ほどまで昼寝をしていて、多分この後も昼寝をしに庭に出るのだろう。
食事が終わり、モエギとウラハは紙とペンを用意して本格的に話し合いを始めた。
トマリはいつの間にやら戻ってきて、またどこかに消えて行った。
アオイは特にすることもなく、少し悩んでシオンの横に寝転がった。
「マスターも昼寝?」
「うん。たまにはね」
アオイが寝転がると、コガネも寄ってきて光合成、と言いながらいそいそと横になる。
3人並んで昼寝をして、気付いたらサクラとトマリも寄ってきていた。
この家の契約獣は1つの所に集まる習性があるのかもしれない。
2章はこれでおしまいです。
3章に時間がかかるかもしれません。期間が開いたら、ごめんなさい。