表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
2章・血をすすぐ雪の剣
19/190

10,そういえば

 ジーブとフレアは、その日はリコリスに泊まっていくことにした。

 ジーブの住まいがある常冬の地と村は同じ大陸にあり、少し時間を置いた方がいいだろうと判断したのだ。

 トマリが村の様子を見に行っており、先ほど戻ってきてフレアの妹らしき人物は村に居なかった、フレアの家からは物を持ち出した跡があった、と告げた。


「……生きていてくれれば、それでいいって思う気持ち、分かりました」


 フレアはそう言って、本当に嬉しそうに笑った。

 その隣ではウラハが頷いており、なんか似てるな、と思いながらコガネはお茶を啜った。

 話題は魔神の事になり、何か思い出したのかジーブは懐を漁る。


「そういや、これって何て名前なんだ?」


 取り出したのは、アオイから受け取った薬。

 戦闘中隙を見て塗り直したりしていたが、そこそこの量が残っていた。

 返品されたそれを見ながら、アオイはフワッと笑う。


「血をすすぐ、雪の剣」

「……薬の名前じゃないな」

「古の書には結構あるんだよ?薬に見えない名前」


 薬に敏いわけではないものが、最上級薬師に薬で敵うわけはなく、簡単に納得させられる。


「そもそも補佐の薬だからね。……まあ、薬なんて全部補佐みたいなものだけどね」


 言いながら、残ったそれを眺める。

 普段ならためらいなく捨てるが、時間がかかった故に何となく捨てがたい。

 でも、ため込んでいると邪魔になるだけである。

 後で処理しよう、と思いながら机に置き、ゆったりとお茶を飲む。


「フレアさんは、これからジーブの所に行くんでしたっけ」

「はい。終わったら手伝いをするって取引だったので」


 笑顔で告げるフレアから、ジーブは何となく目を背けた。

 背けた結果、シオンと目が合う。


「何で逸らすん?なんかやましい事でもあるん?」


 ニヤニヤしながら言ってくるその顔を殴りたい気持ちを抑えて、ジーブはそっと顔を下げた。

 正直、手伝いはいなくてもどうにかなるのだ。

 現に今まで犬2匹以外と共に過ごさずとも研究は出来ていた。

 その取引を持ち掛けたのは、こちらに理があると思わせたかったためであり、フレアが妹を探したがるようならそちらを優先させようと思っていた。


「……お人よしよなぁ」

「うるさい」


 会話の内容を正確に認識できているのは、果たして何人か。

 なるべく少なくあってくれ、と思いながら、フレアが来るなら今まで出来ていなかった研究も出来そうだと思った。

 なにせ、爆発属性である。

 雪属性と引けを取らない珍しい属性であり、それがあるなら捗りそうな研究がいくつかある。


 フレアはそんなジーブに首を傾げていたが、ウラハに話しかけられてそちらを向く。

 その日はそのまま夕食まで話し続け、翌朝2人を見送った。

 村人たちは全員村に居る、とトマリから聞いていたので、何を警戒するでもなく最短距離で帰る。


「……良かったのか?」

「何がですか?」

「妹を探さなくて」

「あの子は、きっと自分でやりたいことを見つけて生きていけます」


 姉のような、母のようなその眼差しにそういうものか、と納得して前を向いた。

 常冬の地が近付くにつれ、人の気配はなくなっていく。

 雪に大地が覆われてからは、ジーブがフレアを抱えて歩いた。


 雪属性だからなのか、ジーブは雪に埋もれず雪の上を歩く。

 ひどく苦労した雪の中の移動を思い出し、フレアは思わずいいな、と呟いた。


「魔法が上達すれば、出来るようになるかもな」

「本当ですか?」

「ああ。……まずは杖の準備からか」


 本格的に魔法を使うなら、魔道器は杖の方がいい。

 近いうちに職人のいる街に行こう、などと話しながら、2人は雪の中を進む。

 一面の銀世界に、足跡だけが残されていった。




 2人が去ってから、アオイは改めて雪の剣の作り方を清書していた。

 やっていなかったわけではないが、本には書いていなかったのだ。

 雪は嫌いではなかった。


 産まれた地を思い出すその青白い輝きは、思い出すと少しの寂しさも一緒に連れてくる。

 雪の降る夜は静かだ。

 雪が、音を吸収するから。


 雪の降った後は、夜が明るい。

 雪が、光を反射するから。

 アオイは新雪を踏むのが好きだった。

 ぎゅむっと面白い音がするのだ。


 久々に、雪遊びがしたいかもしれない。

 清書を終えて、そんなことを思った。

 誘ったら、お供たちは付いてきてくれそうである。


 コガネなんかは保護色で落ち着くのか、雪をかぶって動かなくなったりする。

 本当にどこにいるのか分からなくなるからやめてくれ、と頼んだことがあったなあ……なんて懐かしんでいたら、コガネが入ってきて頭の上に雪を降らせた。


「そんなことも出来るんだ」

「魔法特化種族だからね」


 得意げに言ったコガネに、そうだったと返せば不満げな目線が送られてくる。

 どうしても、コガネが魔法特化種族なのを忘れそうになるのだ。

 10年一緒に居て、魔法ではなく物理攻撃で魔物を倒す現場を多く見ていたからかもしれない。


 コガネは不満げに頬を膨らませ、アオイの頭に小さな雪だるまを乗せた。

アオイちゃんの頭の上に雪だるまを乗せるコガネ、可愛くないですか?(うちの子可愛い)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ