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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
おまけ
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花園の茶会 2

 アオイたちが立ち去った花園で、カーネリアは本から顔を上げてこちらを窺ってくるセルリアに微笑みかけた。

 最初に来た時には随分と緊張して、どこか怯えていた少女だが、何度かここに来ているからか今は怯えは見えず、何か聞きたいことでもあるのかカーネリアをじっと見つめてきている。


「どうした?」

「あ、あの……カーネリア様の目は、魔力が宿っているんですか?」

「ほう?魔力か?」


 聞き返すと、セルリアは頷いてカーネリアの目をじいっと見つめてくる。

 カーネリアはカーネリアで、国外に出た時にそんなことを言われたことがあっただろうか、と記憶を探っていた。


「特別綺麗なものには魔力が宿るって、シオンにいが言ってて……」

「我の目は、それほど綺麗か」

「はい」


 素直に返事をされて、カーネリアはクスクスと笑った。

 何の含みもなく、純粋に容姿を褒められると流石の女王もくすぐったいのだ。


「そうだな……魔法の才は、なくもないらしいが」

「カーネリア様は、魔法も使えるんですか?」

「どうだろうな。何せ、国から出ることはそう無い。鍛練というものは長くやらねばな」

「……出たいとは、思わないんですか?」


 恐る恐る、といったふうに聞いてくるセルリアにもう一度微笑んで、カーネリアはふと自分の作り上げた花園を見渡した。


「歩きながら話すか。この中を見て回ったことはないだろう」

「あ、はい!」


 花が好きだ、とアオイから聞いていたのでそんな提案をしたが、思ったよりも食いつきが良かった。

 本が一番釣られやすいが、少女らしい趣味もしっかりあるようである。


「セルリア。お主は、いくつ国を回った?」

「えっと……イピリアと、スコルと、フォーンと……ガルダとキマイラに、行きました」

「うん。様々巡ったな。その中で、最も住みやすいのはどこだった?」

「ん……住む……なら、リコリスがいい、です」

「不便だろう?森の中にあっては、他の者との交流も物流もない」


 花園の中を歩きながら、そんなことを言うとセルリアは困ったように目の前の花を覗き込んだ。

 花を見ている、というよりは考え込みつつ目に映しているだけのようだ。


「セルリアは、なぜリコリスに居たいのだ?」

「みんな、居るから。……私が、居ていいって言ってくれたから」

「……うむ。何よりも、居場所というのは大切だからな」

「…………カーネリア様の居場所は、このお城ですか?」

「そうだ。我はここで生まれ、ここで育った。ここを守るべしと育てられ、その業を継いだ。外に出たいかと言われれば、否とは言えんがな。ここを捨てる気にはなれん」


 花に手を伸ばしながらそんなことを言って、じっとこちらを見てくるセルリアに手折った花を差し出した。

 それを受け取って何かじっと考えていたセルリアは、少ししてからその花の茎を曲げ始める。

 器用に何か弄りまわして、出来上がった花の腕輪を自分の腕にそっとつけて見せた。


「器用だな」

「魔法で作る前に、本物のお花で出来るようにって」

「魔法でも作れるのか?」

「はい」


 それは見てみたいな、と素直に声に出して、女王はふと思う。

 自分が生きながらに女王の地位を降りたなら、多少の旅は許されるだろうか。

 旅、とまではいかなくとも。そう、例えば、勇者が作ったという新興国に少し滞在してみるなど。


 考えている間に花園を一周し、茶会の席に戻ろうとしたところでアオイたちが花園に戻ってきた。

 調合室の改装案を聞いて、まあ無理のない範囲で行えばいいだろうと適当に返事をする。

 危険がないのなら、止める気はない。


 そもそもカーネリアとしては多少の危険なら許可したい心持なのだが、サフィニアの唯一の王位継承権を持つ者、という肩書が許可を出させてはくれないのだ。

 国を亡ぼす気はなく、愛しているという言葉も嘘にはならないのだから。


「カーネリア様?どうされました?」

「ん、何でもない。我も歳を取ったな」

「騎士団長より強い人が何言ってるんですか?」


 思ったとしても、それを口に出すのはアオイくらいだ。

 カーネリアは声を出して笑いそしてそのまま時間を確認し、サフィニアに退室を促した。

 快く応じたサフィニアはセルリアと連れ立って花園を出ていく。


 それを見送って、仲が良さそうだと呟いて顔を見合わせる。

 ふふ、と微笑み合ったのだが、ふとカーネリアが表情に影を落とした。

 どうしたのだろうか、と表情を窺いながら茶を啜っていると、ため息を吐いてから呟くように声を出す。


「我は、いい親では無かったろうな」

「急ですね?」

「あれには多くの枷を着けている。自由も、あまりに少ない」


 カーネリアの夫とされる人物は、既に死去している。

 仲が悪かったわけではないが、特別よかったわけでもなく。

 葬儀の際も、心が沈みはしても涙は出てこなかった。


 もう一人くらい子供がいれば、もっと自由を与えられただろうか。

 そんなことを考えていると、アオイが目の前で手をパチンと叩き合わせる。


「カーネリア様知ってますか?」

「何がだ」

「子供っていうのは、兄弟がいればそれなりに荒れます」

「……アオイに兄弟は?」

「兄と姉が。大層有能でした」


 そのまま話に花が咲き、気付けばコガネが迎えに訪れる時間になっている。

 花園を出てすぐにカーネリアは仕事に捕まってしまったが、代わりにセルリアと連れ立って戻ってきたサフィニアが城門まで送り届けてくれた。


 コガネを待つ間に少し話して、また来ると言って手を振って城から出る。

 カーネリアは何かとぼやくが、悪い親ではないだろう。

 悪い親なら、きっとサフィニアはああ育たない。


「考えることが多いのも大変だねぇ」


 呟いてみて、何でもないと誤魔化して。

 荷台で揺られて森を抜け、リコリスに着けばいつも通りの日常だ。

 少なくともあと数年、セルリアがリコリスを出るまでは変わらないであろう日常、である。

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