オリジナルスキル 4
2頭借りてきた馬に荷物を乗せて、それぞれにシオンとコガネが乗って、アオイとセルリアを引き上げる。
出発は朝だ。今日中にはキマイラに入って、そのままレヨンの家に泊めてもらう予定である。
宿に関しては、行くという手紙を送るたびにそれの返事の中に是非にでも泊っていけ、と書かれているので恒例である。
荷物の最終確認をして、留守番組に手を振ってリコリスを出る。
今日は荷物も多くないしセルリアも馬に乗るのが初めてではないので、最初からそれなりに速度を出しての進行だった。
それでも楽し気なセルリアの声を聴きながらアオイは馬の頭を撫でて、コガネに落ちないようにと制される。
一応それなりに慣れているとはいえ、基本的にはコガネ頼りなのでそれには素直に従って流れていく風景に目を移した。
前回は超特急の危険運転だったので、なんというかのんびりな気がしてしまう。
今回もそれなりに速度は出しているはずなのに、である。
自分の感覚がマヒしているのを感じながら、アオイはコガネに体重を預けるのだった。
関所を抜けて、セルリアの体力を気にして一度休憩を挟み、その後少し速度を上げて馬を走らせる。
そうして夕方にはキマイラに到着し、馬を返しに行った2人を待ちながらセルリアとアオイは広場の中を見渡した。
セルリアが目をキラキラさせながら辺りを見渡しているので、それを微笑ましく見守りながら今は守護陣がいないので一応アオイが周りを警戒しておく。
……警戒したところで何かあった時に対処が出来ないのが何とも情けないが。
「お、戻ってきた」
「あのね、あのね、姉さま」
「うん?」
「私ね、前に来た時に隠れちゃったでしょ?」
「ああ、レヨンさんから?」
「うん。……嫌われてないかな?」
「大丈夫だよ。全面的に可愛いって言ってたから」
セルリアは前回自分が人見知りしたことを気にしていたらしい。
あまりの可愛さに頬を緩めて頭を撫でていたら、コガネとシオンが不思議そうな顔をした。
2人には何でもないと伝えて、揃ってレヨンの元へ向かう。
丘の上に建っているレヨンの家の扉をノックして、彼女が出てくるまでの短い間でセルリアがそっと前に出てきた。
人見知りは早くも克服したのか、克服したアピールをしたいのか。
出てきたレヨンは、いつも通りにアシンメトリーでやたらとかっこよかった。
前回と違い前にいるセルリアに一瞬止まってから頬を緩め、口を開いた。
「やあ、いらっしゃい」
「お久しぶりです、レヨンさん」
「こ、こんにちは!」
「うん、こんにちは。いらっしゃい」
お上がり、と言いながらレヨンはそっと身を引いてアオイたちを家の中に招き入れた。
整頓された家の中で、とりあえず荷物だけ置かせてもらって夕食前の雑談が始まる。
お茶は何がいいかと聞かれてアオイとセルリアは声をそろえてアルハニティー、と答えて笑われ、出してもらったお茶を啜りながらたまっていた雑談の話題を消費していく。
「いやー、私もセルリアチャンのオリジナルスキルは気になってたんだよねー。良かった良かった」
「はは。いやー、思い出してよかった」
「言われるまで忘れてたやん」
「シオン、しー」
「はいはい」
そのやり取りを見てクツクツと笑う。
そして、何か思い立ったのかパンっと手を叩いた。
「スキルだけ、先に見ちゃう?」
「あ、いいですねぇ」
「どうせ明日はアオイちゃんには雑談に付き合ってもらう予定だし、1日自由の方が分かりやすいでしょ」
「わーい。二泊三日になったぞー」
「分かってたでしょ、荷物の量的に」
「ふふっ」
楽し気に笑うアオイとレヨンを交互に見て、セルリアはシオンの服の裾を掴んだ。
見てみたい、と楽しみにはしていたが、急に言われると戸惑ってしまうのだ。
「大丈夫だよ、セルちゃん。一瞬眩しいだけだから」
「そうなの?」
「おうともさ。一瞬だよ」
にいっと笑って奥の部屋への扉を開けたレヨンに揃ってついて行き、そのままセルリアのオリジナルスキル鑑定に入る。
それに使う部屋は、10畳ほどの広さの部屋だ。
部屋の中には棚の一部が机になっている少し特殊な家具以外には何も置かれていない。
その代わりに、部屋の床に魔法陣が描かれていた。
レヨンは棚の方に向かっていき、アオイたちは部屋に入らず扉の外でそれを見守る。
別に入っても大丈夫らしいが、まあ何となくだ。
「よーし。セルリアちゃん、その魔法陣の中心に立っててくれる?」
「はい」
「うん。そしたら今から一瞬眩しくなるから、目を閉じててねー……そこの見物人たちもねー」
「はーい」
アオイは自分の鑑定以来のオリジナルスキル鑑定現場であり、ついでに外から見るのは初めてだ。
緊張しているらしいセルリアには悪いが、だいぶ楽しみだったりする。
まあ、鑑定の瞬間は目を閉じているので見えないのだが。
魔法陣の一か所だけ円形から外に出ている場所にレヨンが立ち、その時点でもう一度目を閉じろと言われて素直にそれに従う。
すると、直後に目を閉じていても分かるほどの眩しい光が放たれた。