オリジナルスキル 3
サクラが帰ってきたのは、月が頂点を過ぎたころ。
みんな寝ているだろう、と思いつつ玄関の扉を引いて、中に入ってリビングに向かう。
外からは光は見えなかったのに、リビングの暖炉の前、冬以外はただのソファスペースになっているそこに人影があった。
「あれ、トマリだ」
「おー。お帰り」
「ただいまー!みんな寝てると思ってたよ」
「ま、夜行性だからな」
言いながら、トマリは持ってた本を閉じた。
彼の前に置かれたランタンの火も消して、リビングの明かりをつける。
そのままキッチンに向かって何かしていると思ったら、サクラ用に取り分けてあった夕食が温められて出てきた。
「ありがとー!」
「おう。手紙読んでもいいか」
「いいよー。珍しいね」
「今回は留守番だからな」
「そうなの?」
遠征となると、トマリも当然行くのだと思っていた。
何かあって、アオイから留守番と言われたらしい。
手紙を読み始めたトマリから視線を外して、サクラは用意されていた夕食を食べる。
レヨンのところでお茶は貰ったが食事は断ってきたので空腹だったのだ。
急ぎとは言われていなかったし、おいでーというその言葉だけはそのまま伝えたので別に今日中に帰ってくる必要はなかったのだが、何となく急いで帰ってきてしまった。
超特急で移動するのが楽しいからとかではない。
……少なくとも、それだけではない。
「トマリはさー。セルちゃんのスキルなんだと思う?」
「あること前提か」
「んえ?ないと思う?」
「……なんかしらはあんだろうよ」
「ほら。ね、何だと思う?」
「見て見ねえと分かんねえだろ。ほら食え。奪うぞ」
「だめー!」
全力拒否の姿勢を取り夕食を守りながら、サクラはトマリの顔色を窺う。
いつも通りだが、何となく萎れている気がしなくもない。
留守番を言い渡されたからだろうか。
「……何のスキルが出てくるかなー」
「魔法系だろうけどな」
「うーん。じゃあちょっとひねって魔術とか!」
「やらせねえ方がいいもんを持ってくんな」
「だめかー」
ダラダラを軽口をたたき合いながら夕食を終え、サクラは風呂に入って寝ることにしたのだがトマリはまだ起きているらしい。
夜行性なのは知っているが、昼間も行動するのにまだ起きていて大丈夫なのだろうかと思ってしまう。
少なくともサクラとモエギはある程度眠っておかないと動けない。
元々のスペックが違うので他の契約獣が眠らなくても大丈夫なのだとは知っているが、知っているのと理解しているのは別だ。
「おやすみー」
「おー。おやすみ」
言いながら手紙をたたみ直しているトマリに手を振り、部屋に戻ってモエギを起こさないようにベッドに入る。
ぼんやりと天井を眺めて、その瞼が落ちるまでに時間はかからない。
手紙はトマリが渡してくれるだろうか、と考えながら眠りに落ち、そのまま朝までは夢も見ずにぐっすりだった。
アオイはいつも通りコガネに布団を剥がされ、サクラが帰ってきていることを知らされて身体を起こした。
何となく帰ってきているのは分かっていたが、とりあえずおはようとおかえりを言わなくては。
「おはよーう」
「あ、おはよう姉さま!」
「おはようセルちゃん」
「おはよー!」
「おはようサクラ。おかえり、ありがとうね」
「うん!」
「ん。先に読んだぞ」
「トマリもおはよう。ありがとう」
トマリから手紙を貰って、そのままそれを開きつつ席に着く。
手紙の内容はとりあえずおいでーという緩い言葉から始まり、詳しくは来てから話すが話したいことが色々ある、と書かれていた。
用事的にはすぐ終わることなのだが、今回も話が盛り上がって一日滞在することになりそうである。
セルリアには暇つぶしに探索でもしてきてもらおう。
シオンが一緒に行けばとりあえずは大丈夫だし、キマイラには祭りの時しか行ったことがないはずだから通常時を見て回るのも楽しいだろう。
まあ、あまり長居はしないように退散するつもりなのだが。
レヨンの方もこちらに用事がある、というのならそれを終わらせてから帰らないとなので、少しくらいの滞在は仕方のないことだろう。
「よーし、準備だ!」
「主が何か準備するものがあったっけ」
「うん。草案、的なものがね」
「……ああ、なるほど」
コガネが納得の声を上げた。
荷物の中にはそれも入れるつもりなので、曲がらないようにしっかり保管しないといけない。
無くしたら結構困るものである。
ついでに、作り方の指導もしてもらえたら嬉しいなーとそんな希望もあったりする。
それに関しては、レヨンが知る限り一番手慣れているのだ。
それも手紙には書いてあり、それへの了解ももらえたのでとりあえずアオイの持っていくものは決まっていた。
セルリアの分はシオンが監修するだろうし、問題はないと思うので特に口は出さないでおく。
そもそもアオイは人の荷物に口を出せるほど遠征の道具に詳しいわけではないのだ。
なんなら、今まで任せきりにしていたので良く知らないといってもいい。
そんなわけなので何も言わず、手紙を読み終えたところでちょうど支度が終わった朝食に手を合わせるのだった。